十八話
「何で?」
早速鍛えることになり放課後に待ち合わせに行く。
準備が良いなとは思うが運が良かったのもあるだろう。
それはそれとして何でクラスメイトだけだなくそれ以外もいるのかクライシスは謎だった。
よく見ればネクタイの色も違っていて先輩だった。
「………どうした?」
「何で先輩とかもいるんだ?」
「………ダメか?」
「別に良いけどすごく気になる?え?あの人達も鍛えるの?」
「………頼む」
予想外のことに深くため息を吐いて頷く。
同じ学年の相手に鍛えるのはともかく、年上相手に鍛えるのは今更ながら心理的にキツイ。
それも一人二人ならともかく二桁はいそうなのがキツイ。
「はぁ……。取り敢えず戦闘……じゃないな。アタッカーが右、タンクが真ん中、サポーターやヒーラーは左に集まって」
クライシスの言葉に従って並んでいく。
その様子を見ながらため息を吐く。
「いや人数が多すぎて無理。サポーターでもバフとかデバフとかあるし、アタッカーもタンクも当然種類いる。大雑把に分けることは出来ても自分の得意なことを理解してない奴もいるだろ」
「……いや、ほんとすまない」
「………一人ひとり確かめるのほんとにメンドイ。取り敢えずアタッカーは全員相手するから少し待って」
死んだ目になるクライシスに強くなれるかもしれなと聞いて来てしまったことに少し悪いことをしてしまったと反省する先輩や他のクラスメイトたち。
学園の授業でも得意な分野ごとに別れて教えているのに一人に集まり過ぎだ。
「あぁ〜。ちなみに君が一番得意なことってなんだ?」
「ソロでの戦闘。当然、アタッカー」
「ですよね」
まぁ、そうだろうなと納得でしか無い。
配信でも見ていたが、かなり攻撃的だ。
あれでサポーターやヒーラー、そしてタンクというのはかなり違和感がある。
「まぁ、良い。基本的にやることは変わらない。取り敢えずアタッカー以外は全員どんな形でも座って目を瞑れ」
「はい」
「目を瞑ったら次は風を感じろ。その次は座っている地面を。目を瞑っても感じる日の眩しさ。漂ってくるあらゆる匂い。わずかにでも聞こえる音を」
「っ」
「深く息を吸って深く息を吐いて。それに没頭しろ。それら同時に全てこなせ。どれか忘れていたら直ぐに意識しろ」
「はいっ!」
クライシスの言葉を受けて集中し始める者達を見て、これは自分たちもやるべきなんじゃないかと考え込むアタッカーたち。
思わず座ったり、自分たちもこれをするべきなんじゃないかと視線で問いかける。
「さてとアタッカー全員は一人ずつ俺に挑め。全員は無理だろうけど確認してやるよ。それだけの数がいるんだ。少しは俺を疲れさせてはくれるだろう?」
「ひゅっ」
配信で見ていたような口調になるクライシス。
映像で見るよりも生で見たほうが何倍も恐ろしさが伝わってくる。
よく見ると座って意識を集中している皆も身体を震わせている。
「これだけいるんだ。少しは面白そうだなぁ」
「お……お願いします」
「あぁ、そうだ。誰か時間を測ってくれよ?一人十分。終わったら次の相手にしよう。あんたが測ってくれない?」
「は……い」
アタッカーの一人に時計を投げ渡すクライシス。
そしてアタッカーだけにしても人の数が多く全員は見れないだろうなと誰も思っていた。
「変なことを考えていないで集中したらどうだ?何もかも意識していないだろう?」
「っ!?」
「もう夕方かぁ。意識したら腹が減ってきたなぁ。なぁ?もう今日は終わりで良いよなぁ?」
「「「「「「はいっ!ありがとうございます!!」」」」」」
「なら帰らせてもらう」
夕方になり、日が暮れ始めるとクライシスは終わりを宣言する。
先輩だろうが関係なく自分に敬語を使ってきたことに気にすることなく帰路につく。
「ふぅ…、ふぅ…、ふぅ……」
「はっ、はっ、はっ」
「ふぅ……」
そして残った者達は大量に汗をかいていた。
「動いていないのに、すごく疲れた……」
「うん。本当に精神を鍛えるつもりでやると、ここまで疲れるんだね……」
「今まではロクに精神を鍛えてこなかったんだな……」
精神鍛錬をしていた者達はこれまでにない疲労について話し合い―
「避けてるだけなのに参考になったな」
「あぁ。同じことが出来るとは言えないが多分、彼についていけば出来るようになるはずだ」
「今の私でも能力だけならできるかもしれないわね。でもあんなギリギリで避けるなんて怖くて無理。だから精神を鍛える必要があるんだけど……」
アタッカーたちは避けるだけでも見ていて勉強になったクライシスの動きについて語り合う。
「ところでまだまだ見てもらってない人はいるけど明日は大丈夫なのか?」
「今日は大丈夫だけど明日はまだ決まってないです。本当は一週間前から予定は伝える感じですけど、今日からやり始めたわけですし」
「それならしょうがないか。あと俺たちにもその予定は教えてくれないか?」
「はい。大丈夫です」
「それなら私達もお願いするわ。彼と一緒にいたほうが身が入りそうだし。他にも色々と鍛える方法を知っていそうだし」
その言葉にこの場にいる者達全員が深く頷く。
配信を見たことがあるが、思ったよりも暴力的ではなくて安心した部分もある。
次の日も参加しようと皆が考えていた。




