百六十二話
「皆さん、おはようございます!夏休みはどのように過ごしましたか?今学期からは他学園と競い合う大会があります。昨年は優勝しましたが今年も油断せずに勝ちにいきましょう。そのために……」
夏休みが終わり二学期が始まった。
どうやら今日は集会と二学期の大まかな予定で終わりらしい。
この集会が終わったら各自のクラスで二学期の予定の説明を行い、昨日のバーベキューの片付けをして終了らしい。
「私も君たちの頃は……」
校長の話が始まって思わず表情が消えるクライシス。
絶対に長くなると思って抜け出したくなる。
「ん?」
不意に肩を叩かれる。
そこには当然ながら同じクラスの学生がいる。
すごく退屈そうな表情をしていた。
「校長先生の話長くね」
「ほんとうにそう」
思わず小声ではあるが深く頷く。
おそらくは退屈だからこそ話しをして時間を潰したかったんだろう。
その気持はすごくわかる。
「いっそのこと聞きたい奴は残って興味がないのは離れても良いようにしてくれればよいのに」
「だよなぁ」
いっそのこと気づかれないうちに離れるかと考えるクライシス。
だが今はクラスメイトが接近して話しているから無理だ。
「つうか校長も自分の話に集中していてこっちに視線向けてないじゃん」
「は?マジで?」
「マジ。人が多すぎて黙って戻れないけど、もう少し少なかったら黙って教室に帰れそう」
「クライシスくんでも無理なんだ?」
「無理」
「そうかぁ……」
クライシスでも無理だとわかって残念そうにするクラスメイト。
まぁ、所狭しに人が並んでいるしそんなもんかと納得する。
技術ではなく物理的に無理なんだろう。
問題が物理的なことに少しだけクラスメイトは安堵した。
「あと室内だから扉を開けるときの音」
「あったしかに無理だ」
扉を思わず見て大きく頑丈そうだ。
何度か自分でも開けたことがあるが開けたり閉める際の音が大きい。
全員がそれで気づくだろう。
「なんか早く終る方法ないかなぁ」
「誰か倒れたりしない限り無理だろ」
「………地獄かな」
何でも良いから早く終わらないかなと思って出た言葉。
その言葉に空気が最悪になったし言った本人も死んだ目になっていた。
「その頃には………」
ふとクライシスは他の扉のことを思い出す。
校舎につながっている扉ではなく、外につながっているが開け閉めしても音があまりしない扉。
ただし開けたら外の風が入ってくる。
「まぁ、良いか……」
一瞬だけなら気づいても気のせいかと判断される可能性がある。
その間に外から校舎内に戻れば良い。
「やるか……」
「え?………っ!?」
クライシスの決意した言葉が聞こえてきて先程まで会話をしていたクラスメイトが視線を向ける。
そこにはもう先程までいたクライシスの姿は無かった。
さらには一瞬後に風が吹いてきた。
「は?」
そのクラスメイトだけでなく一瞬だけ吹いてきた風にざわつく学生や教師たち。
思わず扉や窓を確認するが開いている様子はない。
ただ隙間風が入ってきたんだろうと教師たちはそれぞれ動き出して確認仕出し、その姿に生徒たちも任せていた。
「あいつ、逃げやがった……」
当然先程まで会話していたクラスメイトもクライシスが逃げたことに気づく。
さっきは無理だって断言していたくせに嘘じゃないか、と憤慨すらしていた。
「無駄な時間だよなぁ……」
校長の話から逃げれてクライシスは安堵の息を吐く。
あらかじめ今日の予定はクラスで二学期の予定を聞きバーベキューの片付けをして終了だと聞いている。
取り敢えずは教室で待っていようと考えていた。
そして暇つぶしのために持ってきた本を読み始める。
「…………」
そのまま三十分が経った。
「クソが……」
思わず悪態をつくクライシス。
これだけの時間があればバーベキューの片付けもある程度は出来た。
一度集会場所に戻って、まだ話しをしているか確認することに決める。
まだまだ終わらないようなら先にバーベキューの片付けをある程度するつもりだ。
「であってね!みなさんも彼らと同じように………」
「…………」
まだまだ終わらないことにクライシスは目が死ぬ。
そしてグラウンドへと行くことを決めた。
「はぁ……」
クライスはグラウンドに行きまずはバケツに入っている炭をゴミ袋に入れていく。
それが終わったら今度はゴミがグラウンドに落ちていないか確認する。
それも終わり昨日のゴミが入っている袋と一緒に全部を魔法で浮かせながら運んで捨てた。
その次は炭やペットボトルや氷を入れたバケツを片付ける。
一つ一つ水道で洗い雑巾で拭いていく。
小さい子供が入れるくらいのバケツや通常の大きさのバケツも雑巾で隙間なく拭いていく。
「………どこだっけ」
バケツ置き場がわからない。
だから玄関の前に置いた。
何個もあるから色んな場所から持ってきたのだろうと予想できた。
必要なら各自が場所へとここから持っていくだろう。
そして丁度良く足音が聞こえてくる。
「やっと終わったの……?」
時間を確認すると更に三十分以上経っている。
校長の話から抜け出して合計で一時間以上。
自分の行動は正解だったと自画自賛していた。




