百五十八話
「クライシスくん?シクレ?」
そろそろ時間だとフレールは二人を呼ぶために図書室へと来る。
図書室内で呼んでも反応しないことに探すことに決めた。
入って直ぐに見当たらないということは奥にいることは想像できた。
「あっ、い………」
そしてフレールは見つけると言葉を失う。
そこには寄り添いながら静かに本を呼んでいる二人。
声を掛ける必要があるとわかっていても戸惑ってしまう。
「…………そろそろ時間ですか?」
「!」
「……まだ大丈夫だと思いますけど」
「不満そうにしてもフレール先輩も来ましたし」
「え?」
「…………」
そろそろ時間だとクライシスが言うとシクレはもう少し一緒にいたいと甘える。
その光景にフレールは可愛く思えてほっこりするが、心を鬼にして声をかけることに決める。
そして声を出そうとした直前にクライシスが自分の存在を示唆してきて驚き声が出なくなる。
更にシクレはそれで自分の存在に気づき慌ててクライシスから距離を取る。
「あー、すまん。覗き見するつもりはなかった」
「知ってます。さっき来たばかりなのも」
もしかしたら時間なのかと聞いていたのはシクレではなく自分なのかもしれないとフレールは想像して、そろそろ時間だと改めて伝える。
シクレもそれを聞いて納得して立ち上がる。
だが少しだけ顔を赤くしていた。
「じゃあちょっと待ってください。読んでいた本を片付けるので」
「あぁ、わかった」
「そうですね。片付けないと」
クライシスたちは読んでいた本を片付ける。
それを終わって三人はグラウンドへと一緒に歩き始めた。
「ところで二人はいつもあんな風に過ごしているのか?」
「まだ付き合ったばかりだから違いますよ」
「そうですね。いつもなら一緒にどこかに行っていますから、あんな風に落ち着いて一緒にいるのは初めてかもしれません」
「そうなのか!?」
「「はい」」
からかい混じりで聞いたが、それ以上に返ってきた内容にフレールは驚く。
いつも、あんな風に一緒に過ごしていると思ったから予想外だ。
「なら普段はどんな風に一緒に過ごしているんだ?」
「配信したり買い物に行ったりです。あとは料理したり鍛えてもらったりと一緒に動くのがメインでこうして落ち着いて一緒にいるのは初めてです。今度からは、こういう時間を増やすのも良いかもしれませんね」
「はい。これまでは恋人じゃないから何かしらの理由はいりましたけど、これからは特に理由もなく一緒にいれますし」
幸せそうに微笑み合うシクレとクライシス。
微笑ましさと同時に胸焼けを起こしそうになるフレール。
こう仲が良いと自分も恋人が欲しいなと思ってしまう。
「あら?三人ともようやく来ましたね」
そう思っているとミテラが優しく微笑みながら話しかけてくる。
その姿が何となく良いなと思いフレールは慌てて頭から振り払った。
「どうしました?」
「いや、なんでも……」
顔をそらすフレールに疑問に思って近づくミテラ。
シクレはそれを見て察し顔を緩ませる。
「………思ったより子供が来ていますね」
それらを無視してクライシスは視線をグラウンドへと向けていた。
そこには多くの子どもたちに、その相手をする学生たち。
皆で遊んでいて楽しそうだ。
「そうですね。先生のお子さんや近くに住んでいる学生たちの弟妹、それに近所の子供達と親御さんも誘ったみたいですし」
「なるほど。グリルが更に増えているのは近所の親御さんたちが?」
「はい。他にも材料もそれぞれ持ってきてくれて」
「………」
思った以上に人数が集まっておりグラウンドもスペースのほとんどが埋まっている。
これは学園再開したら最初にするのはグラウンドの掃除だろうなとクライシスは予想する。
「やい、お前!」
先のことを考えて遠い目をすると足に鈍い衝撃が奔る。
視線を向けると子供がクライシスの足を蹴っていた。
「こら!」
「クライシスくん、落ち着いて!相手は子供だから!?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「許してやってくれ!」
自分はどう思われているのかと思いながらクライシスは蹴られてた少年と視線を合わせる。
更に周囲が緊張の空気に包まれるがクライシスは無視する。
「どうした?」
「俺は絶対にお前より強くなるからな!」
その言葉に顔が緩むクライシス。
思わず手を伸ばすと少しだけ怯えながら、しっかりと視線は自分に向けている。
そのまま頭を撫でると驚いた顔をしていた。
「なれるさ」
「っ………」
適当に行っていると思ったのだろう。
自分の言葉に腹が立てているのがわかってクライシスは更に可愛く思えてしまう。
どんな理由であれ、こんな小さな子供から超えるべき目標とされるのは気分が良い。
「そのためには恥ずかしくても色んな人から強くなる方法を教えてもらったら良い。わからないところは何度でも聞け。バカにされようともわかるまで何度もだ。そしたら俺よりも強くなれる」
「…………。わかった」
頭を撫でていた手を振り払って眼の前から全力で去っていく子供。
本気で言っていたことが伝わったのか最後は真剣な表情で聞いていた。
それでも走り去ったのは頭を撫でられている羞恥か、もしくは超えてやると言った相手に認められた嬉しさを隠せてない顔を見られたくないからか。
どちらにせよクライシスにとっては微笑ましくて可愛らしかった。




