百五十七話
「おっ、戻ってきたか」
「ただいま。何か問題とかありましたか?」
「ないない。安心しろ」
クライシスたちが戻ってきたことに反応し互いに問題が起きてないか確認し合う。
そして特定の誰かが必要なトラブルは起きてないと安心する。
「ナイスパス!よっ!」
声が聞こえてきた方向に視線を向けると、そこには学生たちがボールを蹴って遊んでいる姿があった。
「暇だから子どもたちが来るまでは遊ぶらしいぞ」
「子どもたちが来るまでですか?」
「そうそう。先生たちが子どもたちが来たら積極的に誘って一緒に遊んであげてやれってさ」
「へぇ」
その言葉を聞いてフレールが俺の言ったとおりだろと言わんばかりクライシスの背中を叩く。
クライシスも先生がそう言うのならと従うことにする。
そして自分以外の誰かが決断してくれたことに気が楽になる。
「結局、時間までどうしようか」
「混ざらないのか?」
「ずっと遊んでいるのも疲れそうなんですよね……。学園の図書室でも使えないか確認するか。もしくは一度寮へと帰って時間まで好きに過ごすか……」
「なら一緒に学園の図書室に行きませんか!?スペースの問題もあって全員が一緒に同じことで時間を潰せるわけがありませんし!」
「良いですよ」
「それじゃあ行きましょう!」
クライシスと一緒に学園の図書室で過ごせるかもしれないと聞いてシクレが積極的に誘う。
自分一人なら学園の図書室を使うのは難しかったかもしれないがクライシスがいるなら許可が取れるはずだ。
クライシスの隣に入れるし本も読めるしでシクレにとって一石二鳥だ。
「先生、バーベキューまで時間があるので図書室で暇を潰してもよいですか?」
「……別に良いけど混ざらないのか?」
「はい」
「はい、って。まぁ、良いけど」
「ありがとうございます」
「それじゃあ失礼します」
教師から許可をもらって早速学園の図書館へと歩くクライシスとシクレ。
どうせなら一緒に遊んで仲良くなれば良いのにと思うが二人で一緒に行動していることに二人きりでいたいんだろうなと想像できてしまう。
同時に学生らしく節度ある付き合いであってほしいと教師は祈る。
「図書室に着いたら何の本を読みますか?私は料理の本を読もうと思っていますけど」
「格闘について書かれている本を読もうと思っています」
「そうですか。私にも使えそうな技術があったら教えてもらって良いでしょうか?」
「大丈夫です」
訓練だが一緒に入れる理由が出来て嬉しくなるシクレ。
配信のネタにもなるから丁度よい。
そう思いながら自然と隣り合って歩き腕を組む。
「先輩、腕を組むのは嬉しいですけど明日からは学園で組むのは邪魔になってしまうから止めてほしいです」
「たしかに邪魔になってしまいますけど他にもやっている人は多いですよ」
「………でしたっけ?」
「はい」
「それでも、やっぱり邪魔になると思いますし」
他の人もやっていると言っているのに止めてほしいと言うクライシスにムッとするシクレ。
本当は嫌なのかと疑ってしまう。
「そんなに私と腕を組むのは嫌ですか?」
「いつか風紀が乱れているという理由で禁止にされたら寂しいので。というか本当に腕を組みながら歩いているカップルって邪魔なんですよね。遊園地とかなら気にしないですけど、それ以外の場所でスペースが塞がれて邪魔だった記憶が……」
すごいイライラしてる表情。
自分がされて嫌だったのに他人に味わせるのが嫌なのだと理解してシクレは何とか不満を飲み込む。
それに禁止にされたら寂しいと言ってくれたのも飲み込めた理由のひとつだろう。
「………ふぅ。わかりました。それなら学園以外なら大丈夫ですよね「お願いします」」
「!はい!」
学園以外ならと聞いたら即答されたのでシクレは嬉しくなる。
本当に邪魔になるから以外の理由しかなくて残っていた不満も解消される。
「それじゃあ私は料理の本を探しますね」
「わかりました。俺はすぐそこで見つけたので、そこの机で座って待ってますね」
「はい。わかりました」
歩きながら話していたら図書室へと着いていた。
そしてクライシスは目当ての本がすぐに見つかり、シクレは少し探すことになる。
だがシクレも少し探しただけで本を見つけクライシスの隣へと並んで座る。
「思ったんですけどクライシスくんの今更それって必要ですか?」
「それを言うならシクレ先輩も同じですよ。今更手料理の本なんて必要ですか?」
「それもそうですね」
話しながら肩を触れ合わせる二人。
服越しに互いの熱や身体の硬さや柔らかさを感じ意識し合う。
「「………」」
どちらともなく互いに体重を掛け合う。
互いに負担を掛けすぎないように掛けた重さが心地よい。
そして、それが相手が隣にいることを実感させる。
「「……………」」
普段なら他にも誰かがいるはずの空間。
だけど今は他には誰もいない。
それが少しだけ二人をいつもより更に互いを意識させる。
そしてクライシスとシクレは示し合わせたように視線を合わせ唇を重ねた。




