百五十話
「さて」
クライシスは着替え気合を入れる。
今日は夏休み最後の訓練。
学生たちもいつもより気合を入れているはずだと想像する。
「行くか……」
今日は最初から最後まで自分が相手をする組手だ。
気を抜くことはできない。
「あれ?クライシスくん?これから訓練?」
「まだ時間は早いですけど先に準備をするだけです」
「……待ってもらっても良い?俺も一緒に行くわ」
「……わかった」
少し考えて頷く。
時間には余裕があるのだ。
少しぐらい待っても問題はない。
「悪い悪い!待ったか!?」
「いや、そんなに待ってない」
少し待つと着替えた学生が戻ってくる。
動きやすい服装に着替えていて彼も訓練に参加するんだろうと予想ができた。
「ところでクライシスくん。今日の訓練は何をするんですか?」
「最初から最後まで俺と組手です」
「え?」
おそらくは一緒に行動して何をするのか聞きたかったんだろうなとクライシスは予想する。
別に話しても問題ないと内容を告げたら固まった。
「各自好きな時に休憩しても構いませんよ?全員が休憩したら容赦なく攻撃しますが」
「何時間組手をするつもり!?」
「夕方までです。嫌なら逃げても構いませんよ?」
「やる!」
何時間組手をするつもりだと聞いたときは声を震わせたくせに少し挑発すると乗ってくる。
それが少しだけ面白く感じてしまう。
「なら弁当も買ったほうが良いか」
「そのぐらいは好きにしても大丈夫ですよ」
「そのぐらいって必要だろ?」
「?」
呆れたように言われた言葉が理解できない。
そんなゆっくりと休憩する時間があると思っているのが疑問だ。
少なくとも自分はのんびりと食べるつもりはない。
「クライシスくん………?」
「まぁ、好きにしたらどうですか」
自分はともかく学生たちは休憩を挟む余地はありにした。
そのぐらいなら問題ないだろうとクライシスも考える。
「………クライシスくん?」
だが一緒に歩いている学生は本当に大丈夫なのか不安になる。
もしかしたら、かなり激しくなるから食べる余裕がないんじゃないかと想像してしまう。
「よしっ!」
もし食べる余裕がなかったら別の日に食べようと決める。
今はとにかく手っ取り早く食べれるものを買おうと心に決めていた。
「皆さん、おはようございます」
「「「「「おはようございます!!」」」」」
訓練の開始時間になりクライシスが挨拶をすると学生たちも声を合わせて返事を返してくる。
その様子は普段よりも気合が入っており夏休み最後の訓練ということも理由のひとつなのだろう。
「今日は今から夕方まで俺を相手に組手です」
「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」」」
クライシス相手に夕方まで組手ということに学生や教師たちも声を上げる。
確実に夕方まで気力体力ともに持つ気がしないからだ。
夕方どころか昼前に全員が気絶してもおかしくない。
「休憩は誰かが戦っている間に取ってください」
「は?」
「何人も同時に休憩に入っても攻撃はしませんが俺の判断で休憩人数が戦っている人数より多いと休憩中の相手にも攻撃します。休憩している間も警戒してください」
「は?」
「あっ。全員と同時に戦いますので同士討ちとか気をつけてください」
「あっ、はい」
「なにか質問はありますか?」
「………いえ」
「じゃあ始めても問題ないだろう?」
学生たちの眼の前にいたクライシスがその言葉と同時に学生たちの集まりの中心に移動する。
気づいたときには反射的にその場から全員が退いていた。
「流石に学んでいるなぁ?」
その光景にクライシスは満足そうに笑う。
今まで何度も似たようなことを繰り返しては攻撃してきた。
だが今回は攻撃する間もなく離れたのだ。
いつもよりは確実に強い。
「危ないなぁ」
クライシスはその場で体を横にずらす。
大剣を振り下ろした生徒がそこにいた。
振り下ろした際に発生した風が当たる。
「よく言う!」
振り下ろした大剣を斜めに切り上げようとする。
クライシスはそれを見て、前に進んで大剣をもっている腕を掴む。
そして掴んだ腕を振り回して盾にする。
「なっ!?」
「くそっ!」
盾にしたことで別方向からの攻撃を失敗させる。
学生たちも盾にされた味方を攻撃することは出来なかった。
「ほぅら」
「っ!?何を!?……ぶおっ!!?」
クライシスは盾にした学生を目の前の学生に投げ渡す。
そしてしっかりと受け取ったのを確認して投げ渡した生徒ごと攻撃する。
受け取った際に視界が塞がるように投げ渡したから受け取った生徒からはすればクライシスの攻撃は不意打ちになったはずだ。
「相手を見逃すのはダメだろう?」
不意打ちを食らわせたが空気が強制的に吐き出されただけでそこまではダメージがないはずだとクライシスは確信している。
逆にあの程度で気絶をするのなら弱すぎて話にもならない。
「まだまだぁ!!」
やはり二人共立ち上がってくる。
そのことが少しだけクライシスを安堵させる。
この程度で意識を失うのなら本当に昼前に終わる可能性があった。
「このぐらいなら問題ないみたいだなぁ?」
だから続けられた言葉に学生たちは体を震わせた。
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