百四十六話
「!?クライシスくん、どうしましたか?」
「気にしないでください。ちょっとだけムカついただけなので。………シクレ先輩には関係ないですよ?」
シクレはクライシスの乱雑な座り方に少しだけビビリ、クライシスはそれに気づいて謝罪する。
急に視線を向けられたことに苛立ったのはわかるが、これからも向けられることにシクレは注意する。
「だからって、その度に乱雑に座るつもりですか?これからも向けられ続けるんですよ?」
「………わかってます」
そのことに気づいてクライシスは納得しようと頷く。
少しだけ配信者になったことを後悔しながらおすすめのコーヒーと何を頼もうかとメニューを見る。
シクレはその様子に苦笑しながらコーヒーとショートケーキを頼むことに決める。
「………はぁ。これで良いか」
クライシスも決めて店員を呼ぶ。
「すいません」
「はい。どうしましたか?」
「このチョコケーキとコーヒーをお願いします」
「私はショートケーキとコーヒーをお願いします」
「かしこまりました。チョコケーキ一つとショートケーキ一つ。コーヒーが2つですね」
「お願いします」
クライシスの注文を聞いたシクレはケーキを少しだけ分けてくれないかと頼もうと決める。
せっかくだから色々なケーキを食べたい。
「クライシスくん、ケーキを少しだけ分け合いませんか?チョコケーキも食べてみたいです」
「良いですよ」
クライシスの答えに思わずガッツポーズを作るシクレ。
たくさんの種類のケーキを食べれるのはうれしかった。
「クライシスくん、食べ終わったらどこに行きましょうか?」
「公園にでも行きませんか?」
「良いですね」
喫茶店でケーキが食べ終わったら、どうしようかとの問にクライシスは公園でデートしようと誘う。
シクレも不満はなく頷く。
この後も少しだけ楽しみだった。
「お待たせしました。ショートケーキとチョコケーキが一つずつ。コーヒーが2つです」
「ありがとうございます」
「それではお楽しみください」
ケーキとコーヒーがそれぞれ置かれてシクレは早速コーヒーを飲んでみたらと催促する。
「あっ、美味い」
「ですよね!ケーキと一緒に食べたら、もっと美味しいですよ!」
「へぇ」
薦められるままに食べ始めると手と口が止まらなくなるクライシス。
シクレはそれを見て少しだけ満足そうに笑いケーキを一欠片をフォークに刺して差し出す。
「はい。あーん」
クライシスはそれを見てそういえば少しだけ交換し合う約束を思い出す。
自分のケーキを分割しシクレに差し出すクライシス。
そして全く手を下ろす気もないシクレが差し出したケーキを食べた。
「「「「「おぉ〜〜〜!」」」」」
「「「「「きゃ〜〜〜!」」」」」
口の中に甘く美味しい味が広がって満足しているところに黄色い歓声が広がって一気に苛立ちを覚えるクライシス。
見られるのは理解しても邪魔をされるのは面白くない。
今度からは面倒くさいが変装しようと心に決めた。
「さっさと食べて公園に行きませんか?」
「………嫌です。無視してゆっくり食べましょう。こんなに美味しいのに味合わないなんてもったいないですし」
「尊敬します」
クライシスは本気で言っていた。
こんな視線を集めて味わうなんて天性のものか慣れているのか。
本気で尊敬していた。
「そんなことはないですよ。クライシスくんも直ぐに慣れます」
それを感じてシクレは苦笑する。
最初は自分も慣れなかった。
だけど、こうして無視して食べれるのだからクライシスもすぐに慣れるだろうと考えている。
「………はぁ」
「ふふっ」
ちょっとだけ乱雑な食べ方をしているクライシスが少し面白くて笑ってしまうシクレ。
取り敢えず自分もコーヒーとケーキを味わうことにした。
「はぁ……。美味しかったですね」
「そうですね。次からは変装して出かけようと思います」
「ふふっ。そうですね」
クライシスの変装して出かけようという言葉に笑うシクレ。
どこかに遊びに行くのならたしかに必須だ。
「なら公園に行くのを止めて服でも買いに行きますか?」
「そこまでしなくても大丈夫です。服装だけだと変装なんて直ぐにバレそうですし。それよりもサングラスとかメガネの方がマシです」
「………そうですか」
「………今度一緒に買いに行きますか?」
「はい、そうしましょう!」
服を買いに行くことを残念そうにしているシクレに思わず今度買いに行こうかと誘うクライシス。
シクレもそれを聞くと目を輝かせて頷く。
デート自体には変装する必要性はないと思っているが、これ自体は次のデートの約束にもなるからだ。
日にちを決めたら予定も合わせてくれるだろうという期待もある。
「それじゃあ公園に行きましょうか!」
そしてシクレはクライシスの腕を掴んで機嫌良さそうに公園まで歩いていった。
周囲から視線が集まってくる。
そのことがシクレは嬉しく思っていた。
これは他の女の子たちへの牽制であり、他の女の子たちからの独占だからだ。
そして何より優越感を覚えていた。




