百四十話
「準備ができたぞ」
「良い奇襲だなぁ?」
学生たちはクライシスへと準備が出来たと告げる。
それに対してクライシスは良い奇襲だと褒める。
直後に背後から剣が振り下ろされたからだ。
そしてクライシスはそれを見もせずに防御魔法を纏った片手で受け止める。
「今度は雄叫びも上げなかったから気づきにくかったなぁ?ちゃあんと学んでいるじゃないか」
以前は奇襲なのに雄叫びを上げてわかりやすかった。
そのおかげで簡単に防げていたが、声を上げないだけで思った以上に防ぐ難易度が上がっていて少しだけ面白く感じていた。
「よく言う!」
クライシスの称賛に学生たちは少しだけ苛立ちを覚える。
称賛してはいるが簡単に受け止められたようにしか見えない。
奇襲を仕掛けられたのに全く驚いた様子も見えないし全てお見通しだったんじゃないかと予想してしまう。
「事実だろう?以前は奇襲なのに雄叫びを上げて奇襲したじゃないか?それを考えたら学んでいるのも事実だろう?」
「ぐっ………」
要するに褒めているのは奇襲時に雄叫びを上げなかったことだけなのだろう。
それだけ前回の奇襲はひどすぎたのかもしれない。
「それで奇襲だけで終わりか?」
「そんなわけ無いだろう!」
正面と背後から挟み込む形でクライシスへと攻撃する。
背後からは横薙ぎに攻撃して左右に回避できないように攻撃し、正面からは縦に振り下ろして空中や屈んで回避できないようにする。
「甘いなぁ?」
だからクライシスは前へと進んで回避する。
背後からの攻撃は前に進んだことで届かなくなり、正面からの攻撃は避けながら前へと進んだことで届かなくなる。
「は?」
逃げ道が無いと思っていた。
それなのにあっさりと回避されて、しかもいつもならすれ違いざまに拳を叩き込んでいるのにそれすらないことに余裕すら感じる。
「惜しいなぁ?逃げ場を妨げながら攻撃するのはよく出来ていたぞ?」
「《速》《炎》《弾》」
横から飛んでくる魔法を首を傾げて避けながら称賛するクライシス。
今まで学生相手に戦ってきた魔法でも特に速いそれにも少しだけ感心する。
もし当たったとしても大したダメージを受けるとは思えないが一撃を当てることを優先しているのなら当たるわけにはいかないと避けていく。
「うん?」
かなりの数の魔法が襲ってくる。
威力も低いのも高いのも、速度が速いのも遅いのもバラバラだ。
危険度が低く最もリスクの低いところへと続けて回避する。
そこで違和感を覚えた。
まるで誘導されているような気分になる。
そして実力そのものは格下でも頭脳は自分より優れている者がいて当然だとクライシスは思い出す。
この場にいる者の大半は自分より年上で経験もある。
なら誘導されてもおかしくないと認識する。
「面白そうだなぁ?」
そのうえで流されるままに誘導される。
最後はどうせ避けられないうえでの最大威力の攻撃かもしれない。
もしくは最大速度の攻撃かもしれないないが興味がある。
「え?」
「すごい……」
「踊っているみたい……」
「まじかよ」
最低限の動きで誘導されながらも回避していくクライシス。
その無駄のない流れるような全く淀みのない動きに何人かが手を止めてしまい感嘆の声を上げる。
「………っ」
更には最後の攻撃を当てるための担当へと視線を向けている。
クライシスからしたら勘でしかないが、向けられた当人にとっては見抜かれているんじゃないかと思ってもおかしくはない。
「あ」
「しまったっ!?」
「やばっ!?」
それらの理由があわさり攻撃が遅れたり忘れてしまう者が数名現れてしまう。
そのせいで誘導していたはずの攻撃もズレてしまい穴だらけになってしまう。
もはや何時でも抜け出せる状態だ。
「くそっ!?」
「当たれ!」
「ばか!?」
「早すぎるって!?」
そのせいで焦り最後の攻撃を担当していた者もそれ以外もクライシスへと攻撃する。
クライシスはそれに笑いながら全てを避け撃ち落とす。
途中までは誘導されていたのに急にズレてしまったことに意識の徹底がされてなかったのかなと想像するクライシス。
大人でもでしゃぱったり和を乱す者がいるのだ。
学生にもそんな者がいてもおかしくないなと少しだけ笑う。
自分が原因だとクライシスはかけらも思っていない。
まさか避けているだけの姿に感嘆してしまい、そのせいで誘導するための攻撃もズレてしまうとは思わないだろう。
モンスターと戦っている最中にそんなことをしてしまったら普通は死ぬ。
「終わりか?」
笑いながら問いかけるクライシス。
策が失敗に終わったことに膝を付けている学生たちを見ての疑問だ。
余程自信があったのか最後に実力で覆されるよりショックだったのだろう。
「っまだだ!」
クライシスの疑問に多くの者が立ち上がり武器を向けて構える。
どうしても一撃を与えてやるという気概に皆が溢れている。
まだまだ楽しめそうだとクライシスは嗤った。
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