百三十八話
「…………はぁ」
学園の見学会から翌日、クライシスは朝早くからダンジョンに挑んでいた。
少しだけ上気した顔で息を吐く。
眼の前には数多くのモンスターの死骸が転がっている。
「はははっ」
朝、目覚めたら何となく強くなった予感がしていた。
それが気になって早く調べたくてダンジョンに朝早くから挑んだ。
結果は予想通り。
強くなっていることを実感してクライシスは笑う。
「ぷぎゅっ」
「ぎゅっ」
「ごあっ」
頭部を裏拳で殴り飛ばす。
後ろに回り込んで頭を潰す。
正面から心臓の部位を抉って殺す。
いつもより動きのキレが違う。
踏み込むも深くなっている。
モンスターの動きがいつもより遅く見える。
調子が良い時よりもそれら全てが優れている。
強くなっていると実感が強くなって笑みが零れた。
「もっと……」
今までは強くなったと実感したことはほとんどない。
学園にあった記録を計るテストの結果を以前と比べたりして、ようやくわかったりして調べない限り気づかないことがほとんどだ。
だから、こうして実感するのは楽しかった。
「ん?」
一瞬、痛みが頬に奔った。
思わず撫でると血が流れている。
冷や汗が大量に流れた。
気づかなった。
毒が塗ってあったら、どんな目に遭っていたかわからない。
もしかしたら身体が麻痺をして動かなくなっていたかもしれない。
もしかしたら身体の一部が気づかぬうちに機能不全になっていたかもしれない。
もしかしたら気づかぬうちに死んでいたかもしれない。
もしかしたら傷をつけられた時点で即死していたかもしれない。
また呪いの可能性もある。
即座に傷を直し、毒消しや呪いを浄化する魔法を使う。
少なくとも即死していなかったことにクライシスは幸運だと感謝する。
そして顔を赤くする。
調子に乗りすぎた。
好きだらけとか常に警戒しろと言っていたのが恥ずかしかったのだ。
そして眼の前には人型のモンスター。
恥ずかしさを忘れるように全力で攻撃する。
飛び上がり顎に膝蹴りを喰らわせる。
仰け反っただけで視線はしっかりとクライシスを睨んでいる。
掴みかかってくる前に肩に手を置いて回り込み、今度は側頭部に膝蹴りを喰らわせる。
身体が倒れかかる。
一足先に地面につけて反対側から拳を突き上げる。
モンスターの身体が浮かび上がる。
一瞬だけ周囲に他のモンスターがいないことを確認し空中に跳びながら一回転した勢いのまま踵落としを頭のてっぺんから決める。
抉れて両断された。
「すごい………」
パチパチと拍手をされた。
先程の確認では気づかなかった。
あとから来たのかと横目で眺める。
「だぁれ?」
「貴方のファンですよ」
そういって殴られる。
頬が焼けるように熱い。
「お゛……うべっ………げぽ……」
殴ってきた相手は膝を地面につき吐いている。
殴られたのと同時に殴ってみたが思ったよりも柔らかかった。
何となく髪を掴んで持ち上げて、もう一度殴る。
今度は少しだけ硬い。
飛んできた唾液が汚かった。
「それで何でいきなり襲ってきたんだ?………答えたらどうだ?」
いきなり襲ってきたことの理由を聞こうとするが答えなかったためにもう一度殴る。
急に襲ってきたのだ。
容赦するつもりはない。
「おぶっ!?……?」
襲ってきた男は殴られた衝撃で目を覚ます。
二度目の腹部への殴打で意識を失っていたのだ。
三度目の殴打で意識が目覚め何が起きているのか思い出そうとする。
「あぁ。意識を失っていたのか。それでどうしていきなり襲ってきたんだ?ダンジョンで襲ってきたんだ?殺されても文句は言えないだろう?」
「あ……あ……実力を試して見たくて……」
「喧嘩を売っても殺されないと思っていたとか?」
「はぃ……」
クライシスの質問に正直に答える。
そうしなきゃ殺されると何故か確信を抱いたのもある。
「そんなわけないだろう?」
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!?」
両腕両足の骨を折る。
悲鳴を上げる男。
それをつまらなさそうに眺めてクライシスは放り投げる。
ダンジョンのモンスターに襲われて喰われようがクライシスにとってはどうでもよかった。
大事なのは自分を襲ってきたこと。
だから反撃としてモンスターから逃げられないようにして投げ捨てる。
実力を確かめたいのならダンジョンの外からでも挑戦状を叩きつければ良い。
そうしたら受け取るかどうかは別問題だが、ここまですることはなかったかもしれない。
またダンジョン内でも普通に頼んでくればよかった。
そうすればダンジョン外で試せたかもしれない。
それなのに奇襲をしてきたから、こちらも反撃せざるを得ない。
何よりもダンジョンで奇襲を仕掛けてきたのだ。
止める相手も注意する相手もいないダンジョンで。
モンスターではなく同じ人からの奇襲なんて悪意を持って殺しに来たと思われてもおかしくない。
ダンジョンの外だったら普通な死ぬような攻撃の奇襲を仕掛けても殺すようなことはないだろう。
その前に誰かが止めるからだ。
だけどここはダンジョンの中。
注意するものはおらず止めようとする相手もいない。




