百二十九話
「はい、全員注目」
休憩が終わりクライシスが戻ってきて開口一番の言葉に全員が視線を向ける。
午後からの組手の説明だろうと予想する。
「午後からは俺を相手に全員が挑んでこい。それと疲れたら休憩に入って良いし、その生徒は攻撃しない。ただし全員が休憩に入ったら攻撃対象にするから考えて休憩を交代したりしろ。休憩場所はあそこのスペースですね」
クライシスが指さした場所は休憩スペース。
だが明らかに狭い。
これだと休憩や回復するにしても数人しかできない。
「………あそこだけですか?」
「当然だろう?本来、戦っている最中に安全な場所なんてあるわけないんだ。交代でも安全に回復できる場所があるだけありがたいと思ったらどうだ?」
「はいぃ……」
急にクライシスのスイッチが入ったことに生徒たちはビビりながらも説得される。
たしかに戦っている最中に安全な場所などない。
それがあるだけでも十分に贅沢なのだろう。
それでも、もう少しスペースがほしいが。
「あぁ。それと終わる時間は決めているけど教えるつもりはないなぁ。時間を気にして集中が散漫になっても困るだろう?」
「………わかりました」
クライシスの時間制限に本当に決めているのか疑うがスルーして覚悟を決める。
気を抜いたら一瞬で気絶されかねない。
まだ始まってないが心の準備だけはしないといけない。
「まぁ、こんなんもんだろう?何か他に聞きたいことはあるか?」
「「「「「「「「……………」」」」」」」」
「ないなら始めようか?」
誰も聞いてこないことにクライシスは聞きたいことはないなと判断し組手を開始した。
「っ!」
クライシスが始めようかと口にした瞬間に視界から消える。
それを認識した生徒たちは全員が後ろを振り向く。
今までもクライシスと組手をした時は一瞬で視界から消えたと思ったら背後に移動しているのが比較的に多い。
今回もそうだろうと背後を振り返った。
「まぁ、流石に予想ぐらいは出来るだろうなぁ」
全員が後ろを振り向いているのを確認してクライシスは嗤う。
中には後ろを振り向いたけど自分を見つけていない者もいたからだ。
そして遅い。
「っらぁ!」
後ろにクライシスがいるのを確認して攻撃するのが遅すぎる。
もっと反射的に攻撃しないと当てられない。
「そこっ!」
クライシスの後ろからも攻撃が飛んでくる。
それを避けて掴み投げ飛ばす。
何人かの生徒は大きい隙を晒さないか見逃さないように集中する。
「そこっ!」
チャンスだと思って攻撃するが無傷で避けられ受け止められる。
全く問題にもされていない。
だからこそ勝つために必死に攻撃を繰り返す。
「《炎》《槍》《撃つ》」
「《水》《球》《撃つ》」
「《風》《矢》《撃つ》」
360度数十人から魔法で攻撃する。
逃げ場がないように隙間なく攻撃し煙が舞って見えなくなっても続ける。
以前は煙が舞って見えなくなり、攻撃を止めたら無傷だった。
これぐらいで勝てるとは誰も思っていない。
だから生徒たちはここが最大のチャンスだと魔法を撃ち続けている。
中には限界ギリギリまで魔法を使っている者もおり倒れそうになっている。
「………時間は十分ぐらいか?本気で勝ちに来てるようで感心だなぁ?」
だから聞こえてきた声に悔しさを覚える。
声だけだが全く堪えてないのがわかってしまう。
思わず手を止めて煙が晴れるのを舞ってしまう。
そこにはクライシスが無傷で拍手をしていた。
しかも時間を数える余裕もあったらしい。
「どうやって………」
「全部叩き落としたに決まっているだろう?いくら威力があっても遅ければそのぐらいは余裕だろう?」
クライシスを中心に挟み込む形になった攻撃もあるのにそれすらも叩き落されたのは、それだけ遅いからだとクライシスは言う。
それならいくら威力が低くても速い魔法を撃てばよいのかと生徒たちは考える。
「まぁ、いくら速くても威力がなければ無意味だがなぁ?」
なら、どうすれば良いのかと悩む。
威力が弱くてもダメ、遅くてもダメ。
そもそもさっきの攻撃で全力を出した者もいたのに全て叩き落された。
それは全力でも威力が低いということだ。
「さて少しは反撃しないとなぁ?」
クライシスが一気に近づき蹴り飛ばしてくる。
蹴られた腹が焼けるように痛い。
「くそっ!」
牽制で魔法を放つ。
当然、叩き落される。
(叩き落とした?)
違和感を覚える。
本当に威力が低すぎて意味がないのなら直撃しても無意味なはずだ。
だけど実際は叩き落としている。
「全員、叩き落とせないほどの密度で攻撃しろ!本当に魔法での攻撃が無力化できるなら叩き落としたりはせずに直撃しても反応しないはずだ!!」
「「「「「「「「「!!!!!!!!!」」」」」」」」」
逆説的に無力化できないからこそ叩き落としているのだ。
生徒たちもその言葉に反射的に従う。
どうすれば良いのかわからないから、取り敢えず指示を出した者に従っただけだがクライシスが叩き落としているのを確認して正しいのだと認識する。
そしてクライシスはそのことに苦笑した。




