十三話
「はははっ」
ダンジョンに入ると早速笑い声を上げながら暴れ始めるクライシス。
その姿を後ろから見てシクレは少し呆れてしまう。
「クライシス君」
「何のようだよ?今日は何も約束はしてなかったはずだろう?」
「ダンジョンに挑むと聞いたからです。どれだけ強くても一人にさせるのは心配になります」
「へぇ。優しんだなぁ」
まだ出会って一週間も経っていない。
それなのに心配で後をついてくるなんて優しいとしか思えない。
「っ。それは私が弱いから皮肉ですか?」
「うん?出会って日にちも経ってないのに心配する相手は優しいと言うだろう?」
だがシクレは皮肉かと思って不満げに顔を歪め睨みつけると当たり前のように質問を返されてしまう。
他にどんな答えがあるのか純粋に質問してきているように見えて怒りが削がれていく。
「皮肉にしか聞こえませんでしたよ?」
「そう?でも弱すぎて俺がよく行く階層には着いてこれないから来ないほうが良いだろうなぁ。直ぐに死にますよ?」
「ですか「聞こえなかった?死ぬと言ってるだろう?」……あ」
シクレがクライシスの言葉に反論しようとすると一瞬で首を掴まれる。
目を見ると、どこにでもある石ころを見るような目を向けられている。
きっと殺しても何とも思わないのが予想できて心臓が痛いくらいに高鳴る。
「はぁ………」
そして尻を地面につけたシクレを見て深く深くため息を吐くクライシス。
腰が抜けているように見えるし、このままだとモンスターに襲われて殺されるとしか思えない。
なんか気が抜けてしまった。
だからシクレを肩に担いでダンジョンから脱出する。
折角、ダンジョンに来たのに満足に戦えなくて不満だ。
「あ、あの……」
恥ずかしそうにしているシクレ。
それに対して自分の邪魔をしたんだから、もっと恥ずかしがれば良いとすら思う。
「この抱き方はやめてください……。スカートのまま来たから、その………」
「あぁ、それもそうですね」
「えっ。えっ。えっ、あの……!?」
肩に担がれた状態からお姫様抱っこされるシクレ。
目の前にクライシスの顔と女の子の夢を実行されて何も考えられない。
ただ恥ずかしさに顔を手で隠すが、あまりの熱さにのぼせ上がってしまいそうだ。
「あれって………」
「イチャイチャしてるわね」
「ちょっと羨ましいかも……」
「けっ」
更に視線を集められていることに恥ずかしくなる。
「うぅ……」
こんな大勢の前で見られているのだから、これは恥ずかしいだろうとクライシスは満足げだ。
「このまま学園の所属しているサークルまで運んで良いか?」
「ひゃうっ!?……その、寮の部屋まで運んでほしいです」
「………行く機会がないと思って場所を覚えていないんですが」
「案内します……」
消え入りそうな声で答えるシクレにクライシスはそれなら良いかと頷く。
それにしても学園の皆に年下の男にお姫様抱っこで運ばれるところを見られるが、それで本当に良いのかと思っている。
だがクライシスも自分も見られているということに気づいていなかった。
「すいません。腰を抜かした先輩を部屋まで運びたいのですがお邪魔しても大丈夫でしょうか?」
「良いわよー。男子が女子寮に入っても大丈夫な時間は決まっているけど、まだまだ時間はあるからねー」
「そうですか。取り敢えず案内してください」
「………そっちです」
ニヤニヤと笑っている女子寮の寮長に許可をもらって中に入る。
男子寮とは違って、どこか甘い匂いがして落ち着かず早足になる。
「クライシス君に……シクレちゃん!?」
何で中に入っているのか疑問だがお姫様抱っこされて顔を赤くしている相手を見て顔を輝かせる。
格好のからかうネタを見つけたからだ。
絶対にシクレをからかってやろうと心に決める。
「ここです……」
案内された部屋に中に入ろうとノックをする。
もしかしたら誰かいるかもしれないという期待。
クライシスは運良く一人部屋だが二人以上で使っている人たちもいる。
「はーい。ってクライシス君!?シクレな……もしかして腕の中にいるのシクレ!?」
「はい。腰を抜かしたので運びに来ました。終わったら帰ります」
「あぁ、そう。どうせだから少し中に入って休みなさい。男子の強制退場する時間はまだだし。ここまで運んできて少しは疲れたでしょ」
「いやです。なんか変な感じがするので……」
「なら、なおさら休みなさいよ。平然としているし恥ずかしいわけじゃないんでしょ?」
「………恥ずかしいですよ?」
全くそう思えないし、女の園にいて何にも反応していないのが少し気に食わない。
どうやって反応させてやろうかとすら考える。
「ほんとにドキドキしているの?」
「はい。なんか匂いとか雰囲気とかすごくドキドキしてます」
「へぇ」
「それでは」
「あ」
「え」
目の前の女を避けて部屋の中に入りクライシスはシクレをベッドの上に乗せる。
そして、またあっという間に部屋の外に出ていき女子寮の外へと逃げていく。
逃げたことは残念だが一学年らしい初々しい反応が見れたことに満足感を覚える。
それにからかい甲斐がありそうなシクレが残っている。
それは他の同室や近くで見ていた他の女の子たちも同じだ。
「シクレ、初のお姫様抱っこはどうだった?」
「………男の子の顔が間近にあって。それに体重を完全に任せても落ちない安心感もあった。しかも腕や胸も女の子と違ってすっごくガッシリしていた」
頬を染めて上の空で答えるシクレ。
その様子にそこまで良かったのかと羨ましく思ってしまう。
恋人のいない者達は実際どうなのか気になって視線を向けるし、恋人なのにそんなことされたことは無い女子たちは明日にでもやってもらおうと考えていた。




