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お金のために配信者になります〜えっ、人気がないとお金はもらえないんですか?〜  作者: 霞風太
十六章 夏休み 学園の課題

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百二十二話

「…………」


 事務所に戻る最中、シクレはクライシスが口にしていたことを思い出す。

 イジメに対する暴力での反抗。

 それで成功した経験があるからこそ暴力を推すのだと理解できた。


「クライシスくん………」


「どうしました?」


「親からは何も言われなかったんでしょうか?」


「相手の親からは、どんな育て方をされたのかとかやり過ぎだとは思わないのとか言われましたよ。両親からもイジメられたからってやり過ぎだと怒られましたし」


「そうなんですか……」


「だから全員まとめて殴りました」


「え?」


「全員病院へと運ばれて後遺症もしっかり残っていたはずです」


「……………」


 クライシスの言葉に何も言えなくなる。

 予想以上に暴力を振るっていた。

 しかも後遺症まで残しているのが恐ろしい。

 きっと容赦なく一切手を抜くことなく反撃したのだろう。


「その後はどうなりましたか?」


「はい?」


「親御さんに言われたのは子どもに反撃してからですよね?親御さんたちに反撃した後はどうなったんですか?」


「あぁ、そういうこと。どちらからも何も言われてませんよ」


 後遺症が残るほどの怪我を負わされたのだ。

 もう関わりたくないと思っていても不思議ではない。


「それにしても何でイジメられてたんでしょうか?そんなことをするぐらいはわかっていたでしょうに」


「え?弱そうだし何をしても抵抗してこないからって言ってましたよ。本当に嫌ならやり返せば良いのに、って言ってたし」


「………それで本当にやり返した結果が今言ったことですか?」


「?はい」


 シクレは素直なのか純粋なのかアホなのか、それともやり返してみろという言葉を待っていただけの悪辣なのか悩む。

 やり返してみろというのは、逆に言えば自分がやったのと自白も同然だ。

 担当者にも言ってた複数人で共謀して自分は違うと誤魔化すことを放棄している。

 そして暴力を振るったのだろう。


 そしてクライシスはその時の光景を思い出して愉しそうに思い出し笑いする。

 初めて暴力をイジメてきた相手に思い切り振るった日。

 泣いて謝る姿、相手の肉を殴った感触、骨を砕いた音、周囲の悲鳴の声、止めようと襲ってきた者たちの弱さ。

 今でも思い出せる。


 あれからクライシスは暴力を相手に振るうようになった。

 誰も彼もが自分を気遣うようになり余計なモノがなくなって気が楽になる。

 そして暴力は自分にとって不要なモノを排除するのに便利だということが実感できた。


「………あの日がなかったら今も黙ってされるがままだったんだろうなぁ」


 そう思うと、まさしく自分は幸運だとクライシスは思う。

 今ではされるがままになるのは考えたくもないし、反撃をしなきゃ気が収まらない。


「相手に暴力を振るうのは楽しいですか?」


「楽しいからイジメが無くならないんでしょう?それに俺が暴力を振るうと決めているのは理不尽な相手や喧嘩を売ってきた相手ぐらいに決まっているだろう?誰彼構わず暴力をふるわけ無いだろう?」


 暴力を振るっていたこと思い出して笑っているだろうクライシスにシクレは念の為に釘を差す。

 誰彼かまわずに暴力も振っていないのはわかるが、それでも念の為だ。

 だからクライシスも暴力を振るう相手を口にして、その相手にシクレも納得した。


「………運が良かったですね」


「何がですか?」


「それは………。………初めて会った日です」


「ダンジョンの?」


「はい………」


「意図的だったら殺してたかもしれませんけど、事故みたいなものだから別に………」


「………」


 本当に運が良かったとシクレは幸運を噛み締めていた。


「今更ですけど、どうして意図的じゃないと判断したんですか?あの日、押し付けるようなことをしてしまったのに……」


「必死に逃げている姿を見たからですね。それに逃げろって言ったり心配して戻ってきたりしたから意図的ではないんだろうなって」


 クライシスから見て、あれは事故なんだろうなとしか思えなかった。

 そうじゃなかったら殺していた。


「………そうですね。あの時は本当にすみませんでした」


 そしてシクレもあの時のことを思い出して反省をする。

 あの時は巻き込んでしまったのがクライシスだったから問題も少なかった。

 それ以外だったら死んでいた可能性もある。

 巻き込んでしまった相手がクライシスなのは幸運だった。


「そういえば、あれから大丈夫なんですか?」


「ダンジョン配信なら、あれからはソロでしていませんよ。危ないですし、あんな迷惑を二度もかけたくないですから」


 トラウマかなと思いつつもクライシスは納得する。

 何にせよ、安全を第一なら良いことだとは思う。

 普通に考えればクライシスのようにダンジョンにソロで挑むほうがおかしい。


「クライシスくんはダンジョンでの配信はこれからもソロ続けるつもりですか?」


「はい。その方が気が楽ですので」


「そうですか……。出来る限り安全に行動してくださいね?」


「気をつけはします」


 きっと口だけだろう。

 これからもクライシスはソロでダンジョンに挑み続けるはずだ。

 もしかしたら自分と同じ様に死にかけるまではソロでいるかもしれない。

 そう思ってシクレはため息を吐いた。

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