百十八話
「…………であい。………で、…………なります」
「なぁ、長くね」
「ただただ立っているのも疲れた。どうでも良い話を聞いてるのも辛い……」
「わかる……」
夏休み前の学園長のお話に愚痴をこぼし合ってしまう。
クライシスの疲れている雰囲気に同じ人間なんだなと親近感がわく。
「…………ですから、………ために」
「クライシスくんは今日の放課後はどうするんだ?」
「とりあえず事務所のサークル部屋に集まって色々と話し合う予定。コラボとか自由研究の課題とか色々とあるし」
「へぇ〜」
なんとなく楽しくなってきて会話を続けていく二人。
他の生徒たちも会話が聞こえてきて混ざりたくなる。
「なぁ」
「やばっ。先生が視線向けてる。声が大きすぎたっ」
「は?」
「クソっ」
クライシスの発言に全員が黙る。
たしかに先生の視線を感じてしまう。
このまま話していたら後で説教だったかもしれない。
「………ということです。それでは皆さんも良き夏休みを過ごしてください」
そうして黙っているとようやく学園長のお話が終わる。
ようやく終わったことにあちこちから安堵の息が聞こえてくる。
「それでは皆さん、一学年から順番に戻ります」
一学年から戻れることにラッキーだと思いながら集会場所から、それぞれ教室に戻っていった。
「いや長い!」
「わかる」
教室に戻っての声にクライシスが頷く。
それに合わせて不満の声がクラスメイトから止まらずに溢れてくる。
「もっと短くしろよ!学園長の話なんて誰も興味なんてねぇよ」
「ほんとそう。なんで長話なんてするんだろうね」
「長すぎて何を言いたいのか理解できなかった」
「わかる」
クラスメイトたちが学園長の話のことで意気投合して盛り上がっていく。
その勢いは教室の外にまで漏れ出てくるほどだ。
「お前ら、少しは静かにしろ。廊下まで声が聞こえてきてる。文句を言うのは良いが聞こえないようにしろ」
「「「「「「「「はーい」」」」」」」」
教師の言葉に返事を返す生徒たち。
もし学園長に聞かれていたら色々と面倒だったかもしれない。
愚痴を零すにしても、もう少し声を小さくしようと反省する。
「ところで先生は学園長の話、長くなかったですか?」
「くっそ長い。あれでもし生徒が倒れたらどうするつもりなんだと思う」
「やっぱ先生も不満だったんだ」
教師も学園長の話は不満だと知って嬉しくなる生徒たち。
自分たちが思ったことは決して間違いなんじゃないと安心していた。
「結論だけいえば良いのに。なぁ?」
うんうんと教師の言葉に生徒たちも頷く。
結論だけ口にすれば良いのに本当に無駄な時間だった。
「まっ、そんなことより今学期の最後のHR始めるぞー」
続けられた言葉にようやくかと席に座り静かになる。
その姿を確認して教師は話始める。
「各教科ごとの課題はちゃんと確認して消化してください。たまにやり忘れや課題の箇所がズレて問題に鳴ることがあるので」
出された課題の範囲を確認し始める生徒たち。
隣や近くの生徒ともメモをしていた課題を見せあって確認し合っている。
その光景に教師も必要だからと止めることはしない。
「あとは学園の施設ですが学生である以上は特に必要な許可はなくとも使用は問題ありません。クライシスくんに鍛えてもらうときも十分に使ってください。それと夏休みの間に学園見学があって、それにクライシスくんに協力してもらいます。その日は遠慮してください」
「そういえば……」
「わかりました」
「クライシスくん、頑張れよー」
学園見学にクライシスが協力すると聞いて応援するクラスメイトたち。
それに対して頷いて答える。
「それでクライシスくんは何を手伝うんだ?」
「適当な雑務と放課後の訓練を軽くしたやつ」
「は?」
「適当な訓練と放課後の訓練を軽くしたやつ」
思わず漏れ出た声にクライシスはもう一度告げてほしかったのかと判断する。
生徒たちは二度も繰り返し告げられたことに聞き間違いじゃないと理解して本気かと教師へと視線を向け深く頷かれた。
「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」
「本気で言っているんですか!?」
「あぁ」
「クライシスくんの訓練ですよ!?下手したらぶっ倒れますよ?」
「お前らにやるよりは手加減するに決まってんだろ」
「だからって!」
「学園の生徒は寮生だから倒れても連れて行けると判断してるけど、案内に来る子は遠くから参加する子もいるから倒れるようなことはしない」
「………それなら、まぁ」
クライシスの説明に何とか納得しようとするクラスメイトたち。
それでも本当に大丈夫かと心配してしまう。
かなり容赦ないところもあるから心が折れてトラウマにならないか不安だ。
そうなったら学園見学の意味がなくなってしまう。
「実際どんな感じでやるつもりなんだ?」
「三十分以内の精神訓練と一時間以内の乱取りぐらいだな」
「ふぅん。俺達も手伝おうか?」
「じゃあ頼む」
「え?」
「先生も別に良いですよね?」
「良いぞー」
クラスメイトの一人が、からかうつもりで手伝おうかと提案したら、あっさりと受け入れられてしまう。
やる気はなかったのに教師に聞かれ逃げ場がなくなってしまった。
教師は新しい手伝いが増えたことに笑みを浮かべ、クライシスはどう手伝わせようか悩んでいる。
二人共逃がすつもりがないことに肩を落としてしまっていた。




