十一話
「失礼します」
「とったーーー!!」
クライシスが部屋に入ったと同時にしなやかな肉体を持つ女性が襲いかかってくる。
それを認識するとまずは伸ばしてきた拳を殴る。
「っーーーー!!」
グシャリという音と共に腕が後ろに弾け飛び、続けて残った腕の肘と両膝を殴り砕く。
そして最後に暴れることが出来なくなった女性の首をキャッチして持ち上げる。
「ははっ。喧嘩を売っているのか?」
「違う!」
もしそうなら被害など考えずに暴れ回ってやろうと考えていたが即座に否定される。
顔を青くして必死に首を横に振っていることもあり彼女本人だけの行動だとクライシスは理解する。
「……………」
「なんで急に襲ってきた?」
「手を離してこっちに連れてきて!顔が青くなっている!」
疑問をぶつけるよりも手を離して、こっちに連れてこいと怒るシクレ。
そのままだと息が出来なくて死んでしまう。
クライシスもしょうがないかとシクレの隣に連れて行った。
「《治癒》」
「へぇ」
連れて行くとシクレが回復魔法を使ったのを見て珍しいものを見たと声を上げるクライシス。
ともかく、これで顔色も戻って回復したし急に襲ってきたことを質問できると近づく。
急に襲われたせいでテンションも少し高くなって気分も良いから、これ以上やり返すつもりは一応無い。
「何で急に襲ってきたんだ?」
「いやー。配信で見てどれくらいあたしの実力が通じるか試してみたくて。全く相手にされなかったわ!」
「へぇ?もしかして戦う姿とかメインに配信する人だったり?」
「わかってるじゃん!あんたからすれば話にもならないだろうけど、あたしも強くなりたいからさ!」
「ならもっと本能のままに動いたらどうだ?ダンジョンに潜っているなら獣型のモンスターの動きを参考にするのも良いし。あともっと激しく動き回って目が追いつけないように工夫する必要があるなぁ」
「なるほど!アドバイス感謝するわ!」
「………へぇ」
素直にクライシスの言葉を受け止める女に意外な者を見る目に変わる。
まさか年下のアドバイスを受けて素直に感謝するなんて夢にも思わなかった。
「ところでどんなモンスターを参考にすれば良いと思う!?」
「ほとんど見たこと無いけど狼とかでしょうか?しなやかでスピードもある動きをしていますし」
「…………」
クライシスもテンションが落ち着いて普通に会話をしていく。
両腕両膝を壊し壊されたくせに仲良く会話していることにシクレは物言いたげな視線を向ける。
「そうだ!今度一緒に配信しない!?ダンジョンに挑むんじゃなくて修業風景みたいな奴!」
「良いですよ。いつ配信しましょうか?」
「そうだな……。来週なんてどうだ!どうせなら広い場所を借りてやりたいし。正確な日時が決まったら教えるよ!シクレも来るか?怪我した時に治してほしいし」
「行く!………あっ」
「よし!決まりだな!ちゃんと予定空けてろよ!」
場所を借りるためにか部屋から出ていった女。
まだ名前を聞いていないと思い出して、どうしようかとクライシスは困った表情をしていた。
「はぁ………」
思わずため息を吐くクライシス。
それにヤーキは過剰に反応して肩を震わせる。
過剰な反応に本気でクライシスを恐れているのだと理解して向ける視線も鋭くなる。
「ところで彼女の名前は?何も自己紹介せずに消えたんですが?」
「ビース・アニトです!」
「ありがとうございます」
叫ぶように答えるヤーキに本当に恐怖の対象なんだなと思うサークルのメンバー達。
配信でも理由らしきものは言っていたが本当にそれだけなのか疑問だ。
「なぁ、ちょっと良いか?」
「どうしましたか?」
「ヤーキ先輩にお前は何をしたんだ?」
フレールの質問にクライシスは視線を上に向ける。
何人にも何度も同じことをやっていたこともあって記憶が混在して正確な記憶が思い出せない。
「記憶が混在して思い出せないです。ヤーキ先輩本人に聞いたら良いと思いますよ」
「無理」
クライシスの答えに即答するフレール。
視線を向けた先には哀れなほどに身体を震わせている男が一人。
そこまで震えているくせに何で喧嘩を売ってきたんだとクライシスは呆れてしまう。
「取り敢えず記憶が混在していますけど、やったと思ったことを上げていく形で良いでしょうか?」
「頼む」
思い出せようとしてくる二人にヤーキは更に身体を震わせる。
「カツアゲをしてくるから、まずは一人の足を折って逃げれなくさせましたね。反撃してくるとは思わなかったのか、それで動きが止まった人達相手に確実に腕や足を折っていったなぁ」
「待て!人たち!?相手は一人じゃないのか!?」
「そうだが?続けて全員の両腕両足を折って抵抗できなくされた後は一人一人モンスターに食べられる光景と悲鳴を見せてやったなぁ。死んで楽にさせず苦しんで生かすつもりだったから一人も死んでいなかったが、一歩間違えれば死んでいたやつもいただろうなぁ」
さっきから敬語が外れたり戻したりと一定しないなとフレールたちは思う。
あとヤッていることがトラウマの対象になるのも納得だ。
それにしてもと思う。
複数人でカツアゲしようとしていたのかと。
しかも今よりも昔の話だから確実に幼い子ども相手にカツアゲにだ。
ちょっと自業自得にしか思えなくなってきた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
だけど、やっぱりこの姿を見るとやり過ぎなんじゃないかとも考えてもしまう。
それと同時にここまで怯えていると本当のことを言っているのだろうと察せられてしまった。




