百九話
「ん……」
朝の日差しが差し込んでクライシスは目を覚ます。
いつもと違う寝心地に周りを見て昨日のことを思い出す。
「あぁ〜」
そういえば昨夜はギルドの受付に仮眠室で寝てくださいと言われて従ったことを思い出す。
素直に従ったことにも、あっさりと眠れたことにも、かなり疲れていたんだなと自覚する。
「お礼を言ってから帰るか……」
「別に気にしなくて大丈夫ですよ。それよりも、はい」
「…………ありがとうございます」
トレイの上に乗せて渡されたの温かいミルクとパンケーキ。
美味しそうな匂いも漂ってきてお腹が減ってくる。
「いただきます……」
空腹が一番の調味料になっているのか結構な大きさのパンケーキをバクバク食べていく。
喉が詰まったり口の中のパンケーキの味をさらうためにミルクを飲む。
飲み干したと思ったらミルクが追加されてありがたかった。
ギルドの受付がどうしてここまでしてくれるのかわからないが今は甘えさせてもらう。
「美味しい?」
その疑問に首を縦に振ることで答え、そのまま食べることを続行する。
口の中にパンケーキが入ったままだったのもあるし、食べるのに夢中で話すのも惜しかった。
「ふふっ」
その姿を見て嬉しそうに微笑むギルドの受付。
それが気恥ずかして食べることに更に集中した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。今日はこのまま学校に?」
「はい」
朝食を頂いたことにお礼を言うと期限良さそうにギルドの受付は返してくる。
その様子にクライシスは首を傾げてしまう。
「どうしましたか?」
「どうして、ここまで良くしてくれるのか理解できないので。普通は寮へと返しませんか?」
「そうですね。普通なら返しますけど君は頑張っていますし良いかなって」
「…………?」
君なら頑張っていると言われても他の人も同じくらい頑張っているだろうとクライシスは理解できない。
単純な戦闘能力なら特に優れているかもしれないが他の面も考えると総合的には変わらないだろうとも思っていた。
「最近は配信も始めているけど楽しい?」
「……お金も手に入るし、それなりには」
「ふふっ。わからないだろうけど、お姉さんは学生の頃から君が頑張っていたのを見ていたからね。他にも君が弱い頃から見ていた人はいっぱいいるわよ。私もだけど何人かが君が頑張っている姿を見て、ここに留まっている人も多いのだし」
「…………ふぅん」
そんなもんなのかと首を傾げながらも理解するクライシス。
その様子にギルドの受付は苦笑して見守るギルドの受付。
これからもクライシスが成長していく姿を見ていきたいと思っていた。
「ありがとうございました」
クライシスはギルドの受付にお礼を言って寮へと戻る。
相手も笑顔で見送ってくれた。
そのまま進んでいくと朝早くから色んな人が動き回っているのが見える。
たとえば店の前を掃除している人。
たとえばバイトなのか手に物を持って走り回っている人。
たとえば汗をかきながらランニングをしている人。
様々な者が朝から動き回っている。
クライシスはそれを見て朝から皆がんばっているなと思う。
こうしてみると皆、朝早くから行動しているものが多い。
自分も鍛えるなら朝早くからしているし、皆同じことを考えているのが少しだけ面白かった。
そんなことを考えながら歩いていると同じ学園の見知った者も走っているのが目に映る。
そして見つけたり目が会うと挨拶してきてクライシスも返していった。
たまに見覚えのない相手もいたが同じ学園の人なんだろうと会釈した。
「クライシスくん、朝帰りか?」
「………そうだけど?」
「え?」
そんな中、おそらくは同じ学園の人が声をかけてくる。
朝帰りかとからかうように聞かれ、朝になって寮へと帰るから頷くと表情が固まる。
どうしたのかと首を傾げてしまうが相手は表情どころか動きまで止まっていて心配になる。
「大丈夫ですか?」
「………え、あ。恋人いるの?」
「いないが?」
「………あぁ!セフレってこと!?」
「せふれ?」
「………」
意味がわからずに聞き返すクライシス。
言葉の意味に多くの者から視線を集めるが、どうしてなのか意味がわからずに首をまた傾げる。
そしてクライシスの表情と行動に表情が引き攣る学園の生徒。
周囲からは冷たい視線を向けられてしまっていた。
クライシスの表情に色々と察してしまったらしい。
「君、ちょっと彼と話ししたいことがあるんだけど良いかい?」
「良いですけど……」
「ありがとうね。君は見たところ学生だろう?早く戻って準備したほうが良いよ」
「そうそう。別にいじめとかじゃないから安心して良いよ」
「………わかりました」
色々と疑問はあるが、こんな他にも人が集まる場所で危害を加えないだろうという判断をする。
大声で助けを求めれば身近な人が自分と同じ学園の人に危害を加えている姿に慌てて止めてくれるだろうという考えもある。
それに自分と同じ学園の人から助けてくれという視線を向けられるが何人もの手に掴まれていて助けるのが面倒だし、喧嘩を売ってきていない相手に暴力を振るうのは無理だった。




