百六話
「はい。それじゃあ組手をしますが、ソロの人はソロで。パーティやタッグで来た人は相手も自分たちと同じようにパーティかタッグの相手に挑んでください」
「「「「「はい!」」」」」
「それと戦う相手はくじ引きで決めますのでタッグとパーティ戦の人は代表で一人くじを引いてください。くじで戦う相手が決まるのは一組ずつ。他の人は観戦をしながら勉強。三十分以上経ったら引き分けとして強制終了させます」
「「「「「「はい!」」」」」」
「あとは一回戦ったら次は確実に休みにしますし、同じ相手と戦わせない。もしそうなったらもう一回くじを引いてもらう。……それじゃあ全員引いていって」
クライシスの言葉に生徒たちはそれぞれくじを引いていく。
「俺か……」
「なるほど、お前か……」
早速ソロで誰が戦うのかわかると互いに睨み合う。
他の者たちも、その言葉を聞いて興味深そうにする。
「ごめん、クライシスくん。本当は戦わないといけないんだけど、この二人の観戦にして良いか?気になって集中できない!」
「ライバルかなんかですか?」
「そう!学園でも最も実力が伯仲していて競い合っている二人!だからお願い!」
「………わかった」
学園で最も有名なライバル関係だと聞いてクライシスも興味を持つ。
どれだけ戦えるのか見ていて楽しみだ。
教師たちも期待の目を向けている。
「二人共」
「何だ?」
「なにか問題でも?」
「全員お前たちの勝負が気になるらしいからお前たち以外の以外の全員が観戦することになるけど問題ないか?」
「は?」「え?」
クライシスの言葉に二人が視線を周囲に向けると期待した目が返ってくる。
その視線に圧倒されて顔がついつい引き攣る。
「それで大丈夫なのか?」
「「………大丈夫です」」
クライシスの再度の確認に頷く二人。
そして互いに頷きあい距離を取る。
「始め」
その言葉と同時に蹴りと拳がぶつかった。
「へぇ。本当に互角だ」
クライシスはぶつかりあった二人を見て思わずそう呟いてしまう。
どちらが勝つか全く予想できず目を離せない。
だからこそ見ていて面白い。
「ふっ」
回し蹴りをする、かがんで回避する、その体制から拳を突く、回し蹴りの勢いのまま回転して回避する、その勢いのまま踵落としをする、両腕を交差させて防ぐ、そのまま弾き飛ばして距離をとる、突撃し連続で拳を放つ、それら全てを紙一重で避ける、攻撃が一瞬途切れた絶好のチャンスに蹴りを放つ、それを狙ってカウンターをする、攻撃から防御に切り替えて足で受けその勢いに流されて距離を再度取る。
「「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」
二人の戦いぶりに歓声が上がる。
クライシスも見応えがある勝負だと興奮していた。
「見ごたえがあるな。他の皆が気になるというのもわかる」
「だろ!?」
クライシスの発言にわかってくれたと嬉しそうにする生徒たち。
そして皆で二人の戦いを観戦してた。
「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」
そして片方の拳は顔に、もう片方は蹴りを腹に突き刺している。
最後の最後にそれまでメインに使っていた武器とは違う、そしてライバルといえる相手の武器を使ってトドメをさしている。
しかも付け焼き刃のようでなくしっかりと鍛えてきた武器だ。
観客たちは全員が雄叫びを上げた。
「いいなぁ……」
クライシスは二人の戦いを見て羨ましいと感じた。
自分にはあんな風に互角に戦える存在はいない。
競い合う相手もいなく本気でぶつかり合う相手もいない。
「どんな感覚なんだろうな……」
昔は自分より強いやつはいた。
それを超えるためにも頑張った。
だけど気づいたら、それらを超えていて互角に戦える者もいなくなった。
「互角に戦える者がいて、それを超えるための努力のモチベーションとか味わったことないんだよなぁ」
あったのは自分より強いやつを超えるモチベーションぐらいだ。
「まぁ、良いか。適当に回復させて次も戦わせるか」
二人の戦った時間は時間にすれば十分にも満たない。
それでも満足して観戦できたし、戦っていた二人も汗だくだ。
それはそれとして組手は何度も繰り返させる気だから回復させて戦わせる。
組手の一つを休憩代わりに観戦させるのも良いが何度も組手をさせて経験を積ませるのが目的の一つだ。
よほどのことがない限り観戦はなしにしようと決める。
「《回復》。じゃあ次の組手の相手を決めるからくじ引いて。他の皆ももう一回くじを引いてもらうから」
次もあるなら絶対に戦わせないようにしようと決めるクライシス。
自分が組手するよりも気になってしまうようだし、もう一回くじ引きをすることになるのが時間の無駄だ。
「え?今戦ったばかり……」
「重症でも負わない限り何度でも戦ってもらいます。その状態からどうやって戦うかも身に着けてほしいので」
「なるほど……」
二人も今戦ったばかりなのにと文句をいうがクライシスの理由に納得する。
いつでも万全の状態で戦えるわけではないのだ。
そんなことはダンジョンに挑んでいるから、良く知っている。
だけどダンジョンで経験するのはリスクが高い。
その分、この場で疲労した状態で戦い続けるのは良い経験を積めそうだった。




