百一話
授業が全て終わり放課後になるとクライシスは立ち上がり教室から出ていこうとする。
その様子に今日も鍛えてくれないかとクラスメイトの何人かは頼もうとする。
「クライシス!今日も鍛えてくれないか?」
「今日は無理。シクレ先輩と話し合う約束がある」
クライシスの言葉に黄色い悲鳴が上がる。
男女二人での話し合いと聞いてデートのことかなと想像する。
何度か二人で一緒に買物に行って贈った物や買った物を配信で説明しているのだ。
恋人じゃないというのは無理がある。
近々、また見れると聞いて楽しみだ。
「そっか……。わかった。また時間が空いたら鍛えてくれ」
「わかった。急な要件が入らない限り明日の放課後で良いか?」
「マジで!?」
「あと何も用事がなかったら今週の休日に1日中鍛えるか?午前は精神訓練。午後は組手という形で」
「「「「マジで!?」」」」
クライシスの言葉に何人かがスマホを取り出し連絡を取り始める。
用事がなかったらと言っているのに気が早い。
「………用事がなかったらと言っているのになぁ」
「1日中鍛えるとか初だし貴重じゃん。だからそんな機会があったら逃したくなるわけないだろ」
「………そんなもんか?」
そうだとしても話を聞いたクラスメイトだけで共有するのではなく他の学年やクラスにも連絡を取り合うのは何か違わなくないかとクライシスは思う。
貴重なら普通は独占したりして他には隠すんじゃないかと考える。
「貴重なら独占したくならないのか?」
「いや、こういうのはバレるし独占したら殺されるかもしれないし……」
納得した。
殺されるというのは誇張かもしれないが理解はする。
シクレにも相談して今週の休日はコラボ配信はなしにしてもらおうと考える。
「なるほど。じゃあ、そろそろ行くから」
「ん。あぁ、引き止めて悪かったな」
未だ連絡を取り合っているクラスメイトたちを尻目にクライシスは部室へと歩いていった。
「クライシスくん!」
ほんの少し歩くとシクレと出会う。
どうやら授業が終わり次第、クライシスに会いに教室まで来る途中だったようだ。
「シクレ先輩、配信日はまだ決めてませんよね?」
「はい?まだ決まってませんよ?」
「今週末は1日中予定があるので開けてもら大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。……ところで予定を聞いて良いでしょうか?」
「その日は来れる人で午前は精神鍛錬、午後から組手をさせます」
「…………え、鍛えるんですか?」
「はい」
話を聞いたら多くの人が参加するだろうなと考える。
そうなると、どこで鍛えるつもりなのか疑問だ。
「………どこで鍛えるつもりですか?」
「え?」
「わかりました。学園の闘技場も借りましょう。サークルの部室に行くつもりでしたが、その前に職員室ですね」
シクレの勢いに圧されて腕を引かれるままに職員室へと向かうクライシス。
急な話だから参加できない人、しない人もいるだろうから、そこまで集まらないだろうと考えていたから困惑していた。
「先生。今週末、闘技場を借りれないでしょうか?1日中、訓練に使いたいんですが?」
「おっ、良いぞ。シクレだけでなく………。クライシスくんも使うのか?」
「はい。参加者を鍛えるみたいです」
シクレの言葉に教師たちからもざわめきが生まれる。
今年も学園別の大会が近づいてきている。
勝つために強くなれる機会があるのなら積極的に許可を出す。
「わかった、今週末だな。何か他に必要なものがあるか?」
「クライシスくん。何か必要なものはありますか?」
「午前と午後に別れて鍛えるから昼飯と飲み物の準備とか?あとタオルもほしい」
「………ふむ。わかった」
先生たちで準備するか、それとも参加者の中でも学園別の大会に出場しない者たちに声をかけるか迷う。
どちらにしても、そのぐらいなら問題はない。
「あっ、一応言っておきますけど本当に近くなってきたら自分のことに集中したいので鍛えませんので」
「何度も言われているからわかっている」
クライシスの何度も繰り返す否定に苦笑して答える教師。
少し残念だが、それまでは鍛えてもらえるだろうし今でも十分鍛えてもらっている。
正直、現在の時点で去年よりは生徒たちは強く学園別の大会でも余裕がある。
もしかしたらクライシスが在籍している間は連覇できるかもしれないとウキウキだ。
「………なら良いですけど。それじゃあ今週末お願いします」
「あぁ、わかっている。あと配信はするなよ?」
「………。訓練のことですよね?それ以外なら配信してよいでしょうか?本の紹介とか」
「それなら大丈夫だ。訓練とか戦っている様子を配信しなきゃいい」
「わかりました。それじゃあ失礼します」
「流石に訓練の時間は配信しないので安心してください。それでは失礼しますね」
クライシスとシクレは闘技場を使う許可を取れたことを確認して職員室から出ていく。
そして教師たちは今週末の準備をするために、それぞれ確認し始めていた。




