九十六話
「なんでソロの代表を決めるのに一斉に戦わせて決めるんだ?」
「そこっ!」
「どこを見ている!」
「隙あり!」
挑戦者たちの攻撃をすべて余裕を持って紙一重で避けていくクライシス。
その姿は挑戦者たちに一撃を当てることもできないと絶望を与える。
「よくよく考えたら俺一人に対して候補者全員が相手だから意図的だろうと偶然だろうと協力してしまう構図になるのは当たり前だなぁ?」
今更ながらちゃんとソロの実力を見せろと言ったのを反省するクライシス。
そして、いややっぱり学園側が悪いと考え直す。
自分は指示を受けただけだ。
学園側が何を考えているのかは知らない。
まさかクライシスに任せておけば、その分他のことに集中できると思っているわけでもないだろうに。
「何をぶつくさと言っているんだ!」
「余裕かよ!」
「舐めないで!」
魔法が飛んでくる。
剣を振ってくる、
槍を持って突撃してくる。
四方八方から攻撃が襲ってくる。
「なら、その余裕を奪えば良いだろう?弱いから他のことに意識を向けることができてしまう」
「クソがァァァァ!!!」
怒りで突撃をしてくる者をカウンターで殴り返す。
「ぐっ!………このぉっ!」
カウンターを受けてすぐに立て直す姿を確認して殴る強さは、このぐらいで良いのだと認識するクライシス。
一撃で終わらせてしまうのは少し問題だと思っていた。
「手を貸して!」
「わかってる」
「それはダメだろう?」
それはそれとして意見を合わせて協力するのは問答無用で気絶させる。
結果的に協力した形になるならともかく、やはり意図的なのはダメだろう。
ソロの代表なのだから自分一人で戦う必要がある。
戦っている最中に自分以外の力には頼れない。
「なんで意見を合わせて協力する奴らが多いんだろうなぁ?これはソロの代表を決める戦いだろう?」
もしかしてソロではなくタッグやパーティ戦の代表を決める戦いじゃないかと不安になる。
だとしたら自分のやり方は間違いだ。
無意味に気絶させたことになる。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
そう悩んでいるクライシスに隙だらけだと突撃する挑戦者。
最初からずっと隙だらけだと判断して返り討ちにされているのに繰り返す。
未だに一撃もあたっていないのに。
全ての攻撃を避けているのを目の前で見ているのに。
「おっそいなぁ?」
決して一人だけではない。
他の挑戦者も皆攻撃している。
それなのに一撃も当たらない。
「疲れているんだろう?振り回しているだけ、狙っているだけで全然脅威に感じないなぁ?」
一撃でも当たれば代表に選ばれるのだ。
それなのに全く当たる気配がない。
このまま当たることなく時間が過ぎ去っていくように感じる。
「っ!」
そこにいるはずなのに。
手を伸ばせば触れられる距離にいるはずなのに全方位から、誰も彼もから攻撃をされていて自分の攻撃して全てを避けられる。
本当にそこにいるのか疑ってしまい、思わず攻撃とは別に手を伸ばしてしまう。
「「「「「だっ!?」」」」」
「何をしているんだ?まだ終わってないだろう?」
そう考えたのは一人だけで無いらしく手を伸ばした全員がぶつかってしまう。
まるですり抜けたように感じて全員が本当にそこに存在するのか疑って本物は違う場所にいるんじゃないかと周囲を探す。
クライシスはそれを見て何をしているんだとバカを見るような目で見ている。
「今目の前にいるお前は実体があるのかよ……!」
「あるに決まっているだろう?ただでさえ実力差があるのに、そんなことをしたら一撃も与えることもできないだろう?」
そう言ってちゃんと実体はあることを証明するかのように触れるクライシス。
その隙をついて攻撃をしてきた者たちはカウンターを叩き込んだ。
「あ」
そうして相手をしていると、ふとクライシスの目に時計が映る。
一時間耐えた者から候補者を決めるという言葉を思い出した。
「そろそろ終わらせても良いだろう?」
「は?」
「《超》《巨大》《灼熱》《炎》《球》」
クライシスは手を天にかざして詠唱する。
莫大な魔力に妨害しようとしても全て避けられながら完成される。
それは言葉通りに超巨大な炎の球。
会場の競技場を全てを埋め尽くし避ける場所がなく灼熱の熱さにこれを食らったら終わりだと確信させる。
「一時間経っただろう?人数もかなり減った。後は誰が決まるんだろうなぁ?」
その言葉を最後に天にかざした手を振り下ろされる。
それと同時に太陽が落ちてくる。
全身に感じる炎の熱さと共に挑戦者たちは意識を失った。




