プロローグ
「はぁっ。はぁっ。はぁっ……」
【逃げろ逃げろ逃げろ!】
【まずいって!誰か救助申請しろよ!】
【もうしてるって!】
ある場所のダンジョンで配信者が必死に逃げていた。
リスナーたちも配信者の必死な姿と追っているモンスターに焦りを覚えている。
「ひっ!?」
【あぶなっ!?】
【セーフ間一髪!】
【まだ救助は来ないのか!?】
後ろから棍棒を叩き込まれるがギリギリ避けるが腕がかすってしまい薄皮一枚剥がれてしまう。
【ひぇっ!?】
【避けたよな!?】
【かすっただけでも、これとか……】
「グルァァァァァ!!!!」
腕の痛みとひるませるような雄叫びに足をもつれさせてしまい転んでしまう配信者。
それを好機と見たのか顔をニヤけさせて棍棒を振り下ろしてくる。
【今、笑った!?】
【完全にいたぶってやがる】
【避けろ避けろ!回転して転がって避けろ!】
棍棒を横に転がって避けながら立ち上がり必死に逃げる配信者。
ダンジョンの外に出れば助かると思い必死に出口へと走り出す。
「っあぁぁ!」
【がんばれ!!】
【ダンジョンの外に出れば助かる!】
【良いか!自分の命を大事にだ!】
そうして逃げ回っていると目の前に男の子が見つけてしまう。
手には薬草やモンスターのドロップが握られていて袋の中に入れているのがわかる。
「逃げて!!」
【何で子供がいるんだよ!?】
【逃げろ!】
【シクレちゃんだけでなく無関係な子供が死ぬのは見たくないぞ!】
逃げてという声に反応したのか視線を配信者の方へと向ける男の子。
配信者の後ろには棍棒を持った牛頭の巨人がいる。
身体の大きさは逃げ回っている配信者の二周りほど大きい。
「だから逃げろって!?」
【何で逃げないんだよ!?】
【危険なモンスターかどうかはわかるだろ!?】
【死にたいのか!?】
【もうそいつ囮にしろ!】
男の子は逃げている人の周りにモニターらしきものがあるのを見て配信のための演技だろうなと判断してしまった。
動画に写り込んでしまうのも迷惑だと思って袋の中にさっさと入れて配信外から出ようとする。
「グルァ」
そしてモンスターは今追っている人間よりも弱そうな者を見つけて顔をニヤけさせる。
格好の獲物だと思って涎まで垂らしている。
【あっ、獲物が変わった】
【ダンジョンに潜っているとはいえ子供だぞ!】
【子供が死ぬのは見たくないので閉じます】
「………あ」
獲物の矛先が変わったことに安堵してしまう配信者。
絶対の絶望から助かる可能性が見えたせいだ。
このまま囮にすれば助かると本能で判断しモンスターの視線が変わっているうちに逃げ出してしまう。
【は?】
【さっきの子供、どう見ても年下だよね】
【モンスタートレインして擦り付けるとか……】
コメントを全く見ず、離れたところまで逃げて落ち着いたところで膝をついて吐く。
自分のしたことにようやく理解が追いついて絶望していた。
「おえっ……」
【吐きやがった】
【そんな顔をするなら逃げるな!】
【しょうがないだろ!生きるために身体が勝手に動いたんだから!】
「グギャァァァ!!!!」
「ひっ」
【ひえっ】
【これもしかしてモンスターの声?】
【もしかしたら誰か助けてくれたのかも】
リスナーの声に配信者は逃げた道を戻っていく。
配信されている以上、逃げても捕まるかもしれない。
そうでなくても事務所からはクビにされる可能性がある。
「グルァァァ!!」
「っ……」
【えっ?道戻ってない?】
【もしかして戻るの?】
【キレられない?】
【震えているしビビっているなら行かなくて良いって!】
あんな強力なモンスター相手に相対するなんて考えるだけで恐ろしい。
それでも年上として年下の子供が逃げるチャンスは作るべきだ。
怖くて逃げてしまっても立ち上がる姿を見せればクビになる可能性は低くなる打算もある。
「え?」
そして、たどり着いた先では自分が逃げていたモンスターの相手に圧倒している男の子がいた。
【は?】
【いやいやいや。ミノタウロスだよ?】
【おい。何で圧倒している】
何度もモンスターの棍棒を避け拳を叩き込む男の子。
その度にモンスターの悲鳴が上がる。
拳を一度叩き込むたびに、モンスターが回復し棍棒で攻撃してくるのを待っている。
「そろそろ飽きたな」
モンスターに向ける冷たい瞳。
それを見たモンスターは声にならない悲鳴を上げて男の子に背中を向ける。
【逃げた!?】
【圧倒的な力の差でない限りモンスターは逃げないはずだろ!?】
【これはつまり】
「逃げんな」
逃げ出したモンスターをあっさり追いついて男の子は蹴りを入れて止める。
そしてうずくまるモンスターに近づいていく。
少しづつ近づいてくるたびにモンスターの震えは大きくなる。
もはやモンスターにとっての恐怖の対象だった。
「死ね」
【あっ】
【怯えているんですが】
【こわ】
モンスターの頭に向けて足を振り上げて思い切り踏み潰す。
グシャッという音と共に血が飛び散る。
【なんかキレてね?】
【囮にさせられて逃げられたことにキレているとか?】
【まずいじゃん。いやホントにヤバくね?】
男の子はモンスターのドロップを回収してその場から立ち去ろうとする。
すると当然、囮にして逃げ出した配信者とも目を合った。
【あっ】
【謝れ!殺されても知らんぞ!】
【この子は悪くないんです!予想外の強敵にビビってパニックになっただけなんです!】
男の子は目を合わせて肩を震わせる配信者に何も言わず、ただ通り過ぎていった。
そして配信者は安心感から力が抜けて地面に腰をついて安堵から息を吐いた。
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