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チョウ La papilio




 わたしが恋をした記憶、愛された記憶、傷つけあった記憶――


 そういったものを、くぎ抜きをつかい乱暴に引き抜いていく者がいる。


 不機嫌ふきげんにぶつぶつとつぶやきながら、ぐいぐい力をこめて抜きとる。


 作業が進むにつれ、わたしの心が解体されていくのだ。


 心が想定より大きいので、予定に狂いが生じ、そのなに者かが腹を立てているらしい。


 荒々しく扱われながらも、自分の心が矮小わいしょうでないことを知り、わたしはとても意外に思った。


 そして心を空家あきやのようにただ放置することをめ、ささやかな反抗を試みる気になった。


 作業者に知られぬよう、静かに心の奥の窓から群青ぐんじょう色の闇のなかへ、わたしが最もたいせつに思っているものを逃がしたのだ。


 それは紋白蝶もんしろちょうのように淡い白さの光を羽ばたかせ、飛び去っていく。


 わたしは安堵あんどの吐息をついた。


 放してあげたものの正体がなんであったか、すでにわたしも思いだせない。


 だが他者の手を嫌って逃がすほどたいせつなものが卑屈ひくつなわたしのなかにあったことを、今わたしは爽快そうかいに笑って誇りたい気もちなのだ。


 粗略そりゃくな作業者よ驚くがいい。この場所はからっぽではなく生きている。






 Fino





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