ドリブル Driblo
体育館でバスケットボールの授業を受ける。
軽快にドリブルをして走り、ジャンプしてボールをバックボードに当て、リングに入れる。その動作を難なくおこなっていく生徒たち。
わたしの番になる。
わたしの持つボールだけ、水でも吸ったのかやけに大きく、重い。形もいびつだ。
教師が急かすので、ドリブルをはじめる。しかしボールが床から跳ねかえってこない。手で持ちあげ、もう一度試みる。やはり跳ねない。
生徒は皆笑った。いつの間にかまわりにいた見物人たちも、どっと笑った。
教師は目を吊りあげわたしに怒鳴った。へた、やる気がない、ふざけている……。
泥棒だの犯罪者だのと、身に覚えのないことまで言って責めはじめた。
わたしはボールを持ちあげては落とし、持ちあげては落とし、それがドリブルに見えればよいと思いながらごまかしてゴールのそばまで行く。
そしてシュートをして苦痛を終らせようとした時、足の裏が床に張りついた。
ジャンプができず、ころびそうになりながら、なんとか重いボールを放りあげた。
すると今度はボールがバックボードにぴたりと張りつき、動かない。
わたしはさぞ莫迦にされるだろうと怖れて皆の方をふりむく。
しかしそこには教師も生徒も、大勢いた見物人たちも、誰一人いなくなっていた。
そこは体育館ですらなかった。
ああ、いっそ罵ってほしい。虚空においてたった一人、道化芝居をさせられる寂しさ。
心にもうひとつ、バスケットボールの授業ができるほど広い虚空が生まれるようだ……。
Fino