少女戦士の過去
夢を見た。・・・懐かしい夢だ。
あの頃、私は生きるために色んな人達を殺した。
一人目は。誰だろう。あんまり思い出せない。でも、温かいイメージのある魔物だった。
私は・・・そうだ。私は彼女のことを『お母さん』と呼んでいた。
何時も、私に優しく笑いかけてくれていた魔物。
アイツ・・・御主人様が私達のところに来るまで、お母さんは私を育ててくれた。
そんなお母さんのことを。私は殺したんだ。
「生き残りたければ、お前の母親をこの短剣で殺せ」。
アイツは、そう言って私に短剣を渡して来た。私は、何て思ったんだった?
死にたくない?怖い?嫌だ?でも、結局私は、お母さんのことを殺して生き残った。
それから、長い間。冷たくて暗い場所に閉じ込められて。その後何処かへ向かった?
人間達の住む国。ああ思い出した、御主人様の御屋敷だ。
そこには、私以外にも魔物が沢山いた。そうだ。思い出した。二人目は何時も笑ってるアイツだった。
たまに一人で悲しそうな顔をしてたけど。皆の前では何時だって笑顔だった。
「大丈夫~!俺っち達は絶対に助かるから!!えっへっへっへ!安心して俺っちに従うがいいさ」
何時も、どんな時でもそんな訳の分からないことを言って皆を笑わせていた。
暗くて、冷たくて、ジメジメしてた私達の住処で、誰からも見捨てられたと理解せざるを得ない状況で。
何年もかけて殺しの術を教え込まれ。
今朝まで生きていた奴が、血だまりの中倒れている。
そんな限界ギリギリの毎日もアイツが笑うその時だけは温かかった気がする。
そして、遂にその日が来た。
「5人だ。お前達の中で生き残れるのは、選ばれた戦士だけだ」
そうして。私達は殺し合うことになった。・・・アイツと殺し合うことになったんだ。
アイツは、何時も何時も笑顔で、訳の分からないことを言っていた。そして。・・誰よりも弱かった。
アイツは、私と戦う時に何処か悲しそうな笑みを浮かべながら言ったんだ。
「君の笑顔。一度でいいから見たかった」
開始の合図と同時に、私はアイツの首を斬り落とした。
理由は分からないけど。あの時、一瞬だけ動きが鈍った。
それを見咎められ、殺しの指南役兼監視役には怒られた。
三人目は。アイツだ。冒険者って名乗ってた。またよく訳の分からない奴。
「悪逆非道の限りを尽くす腐れ貴族め!この俺、冒険者王アドラー様が直々に成敗してやる!!」
そう言って、ブンブンと大きな槍を振り回して、大きな声と強い眼差しでこっちを見ていた。
でも確かに強かった。私達全員と御主人様の部下全員で掛かって、やっと倒せたほどに。
彼は、御主人様の部下は沢山傷つけたけど、私達には怪我一つ負わせなかった。
だから倒せた、んだと思う。彼が本気だったら、私達じゃ勝てなかったかもしれない。
彼は死ぬ間際、普通の人間や魔物とは違って、悔しそうな顔で。
「お前達を、救ってやれなくて、すまない」
そう言って、死んでいった。最後までよく分からない魔物だったけど・・・。
どこか、胸の辺りがモヤモヤした。彼にトドメを刺したのが私だからだろうか。
四人目は。彼だ。そうだ。彼を殺してからだ。殺した相手の顔を、覚えられなくなったのは。
残り十人。次の殺し合いが終われば、私は生き残れる。その、最後の殺し合いの相手が彼だった。
私と同じくらい強い彼。何時も笑ってるのに、笑っているようには思えなかった。心の内が読めない。
彼は魔法が得意だった。魔力の糸で物体を操ったり、火炎魔法を使ってきたり。
それに加えて、剣術も上手だった。手数の多さでは、私は彼に敵わなかった。
「俺は、君を殺人奴隷にはしたくない。頼む、ここで・・・ここでっ!」
死。何故か、私はその言葉にだけは敏感だった。理由は・・・分からないけど。
私は死にたくなかった。どれだけ傷ついても、どれだけ痛くても、どれだけ疲れても。
私は足を動かし続けた。彼は、明らかに焦っていた。魔法の精度は落ちていたし。
剣筋にも迷いと動揺が見て取れた。そして、彼が次の一手で迷った瞬間。
私は、彼の体を短剣で斬りつけた。右肩辺りから、左脇腹辺りまで、一撃で。
彼は、膝をついて。口から血を吐きだした。そして、私の顔を見るとフッと笑った。
初めてだったような気がする。彼が、心の底から笑ったのは。
「せいぜい。生きて。生きて。生きて。いつか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼は全てを言い終わる前に、死んでしまった。・・・私は。何故か、泣いていた。