影の戦い
「チッ。博士の奴め。ゴーレム整備の手を抜きやがったな」
軍人殿のゴーレムが崩壊すると共に、複数の魔獣が襲い掛かる。
「任せてください!」私はそう叫ぶと、かつての仲間の亡骸を操り、魔獣を殲滅する。
・・・もう少しの辛抱だ。陛・・・ウィドーさえ倒せば、貴方達を影へと送り返そう。
それにしても。ウィドーは一体何を考えているんだ。
復活の時でもないのに、こんな大規模侵攻を行うなんて。
「助かりました。暗黒騎士殿。いや、影の聖女様とお呼びすべきかな?」
軍人殿は自らより弱い者には厳しいが、自らより強い者には礼儀正しく接する。
軍人らしいと言えば聞こえはいいけど。私達は仲間なんだから、畏まらなくてもいいのに。
そんなことを考えている私を他所に、軍人殿は私のかつての同胞を見つめる。
「それにしても。素晴らしい戦士達・・・だったようですね。
筋肉の付き方、周囲の警戒の仕方、肉体だけになった今でも、かつての優秀さを伺わせます」
・・・肉体だけか。彼女は気を使ってくれたのだろうけど。
ハッキリ言って、彼らの今の状態は『傀儡人形』。生物としての尊厳は失われている。
たとえ、彼ら自身が私に『同化』し、肉体を預けてくれたのだとしても・・・。
否。皆の願いはウィドー陛下をお諫めすること。これ以上、陛下に汚名は着せられない。
我らは、真の配下として。陛下の間違った行為を止める義務と責任がある。
「それより、ウィドーはどのような目的を持って、この時期に侵攻してきたと考えますか?」
私の質問を聞いた軍人殿は、顎に手を当てて考える仕草を見せた。
正直、この時期にウィドーが貴重な戦力を消費してまで侵攻してきた理由が分からない。
異界の戦士を覚醒前に殺そうと考えたなら、自らの分身体を送り込んでくるはずだが・・・。
未だに分身体を一体も見かけていないし、ウィドーに仕えている戦士達も見かけていない。
あの方が無駄に戦力を消費するとも考えられないし、絶対に何か目的があるはずだ。
「・・・ウィドーと、最も付き合いの長い聖女殿が分からないのなら、誰にも分からないでしょう。
ただ、ウィドーが無駄に戦力を消費するような愚行を犯すとも思えません。
が現状、打つ手がないのも事実。今はウィドーの動向を探る他ないでしょう」
軍人殿の言う通りだな。今は溢れ出て来る魔獣を抑えるのに集中するとしよう。