第157話
「・・・そうか。やっぱ、フィアナハンが裏切り者やったか」
赤城にフィアナさんのことを相談してみたけど。
やっぱり、結論としては俺が麗香さんに正面から伝えるしかない!と言うことになった。
まあ、分かってたけど。はぁ。嫌な役目だな。
麗香さんとフィアナさんの付き合いって、俺と麗香さんの付き合いの何十倍もあるだろ?
ああ。いっそのこと、麗香さんには伝えずにここに残ってもらうか?
麗香さんの怪我の状態次第ではその選択も・・・。いや、それは不誠実すぎるな。
か、か、か・・・か、彼氏として、誠実に接するべきだよな。多分。
なんて、頭の中で葛藤をしていると。扉がノックされて、アダムスとディーンが入って来た。
「おお。ハインリッヒ殿、目を覚まされたのですね。それで、怪我の具合はどうです?」
俺は、帰って来たアダムス達から現状を報告してもらうことにした。
それと、狩人さんと軍人さんはアダムス達が戻るまでの護衛役だったみたいで・・・。
彼らを見るなり「私達もやることがあるので、失礼するよ」と、何処かへ去って行ってしまった。
さて、話を戻して。アダムス達から聞いた都市の現状は芳しくない。
舗装されていた道には幾つも穴が開き、建物の多くが中破又は大破。
さながら、大地震に襲われたかのような状態。でも、何故か市民の死者数は少なく。
翻って、旅人(俺の部隊の隊員)とアダムスの部下、冒険者協会、
魔物協会員と都市防衛軍から多数の死者が出たらしい。
「魔獣達が、七都防衛ラインの中の一つの都市に集中的に攻撃を仕掛けて来たのも異例なことながら。
都市の被害状況に対する死者数の少なさも異例な状況。
まるで、魔獣達が誰かに統率されているかのような印象を受けます。
それに、最も大きな被害を被ったのが我々だ。と言う部分も引っかかりますね」
うっ。やっぱそこは不自然に感じますよね、アダムスさん。
アニメとか漫画とかなら、ここでアダムス達に真相を打ち明けて、協力してもらう!
って展開なんだろうけど。これは現実だからなぁ。そうもいかないんよね。
もっと時間が経って、ある程度以上の関係を築けてたら話は別なんだろうけど。
アダムス達と協力関係を結んでから、まだ一日も経ってないんよ。
はぁ。やっぱ、怪我の状態が酷いってことにして、赤城に仕事を丸投げしようかな~。
「町の被害状況は分かったわ。で?敵さんの居場所は分かったん?アダムスハン」
俺の考えを何となく読み取ったのか、それとも急に仕事に目覚めたのか。
赤城は積極的にアダムスに質問していく。
まあ、流石はこの土地のドンと言われているだけはある。って言うのかな?
アダムス曰く、敵は領主邸。つまり、自分の家に人員を集めてガッチガチに。
とまでは行かないけど、ある程度の防備を固めてるんだって。
一応、救助活動とか被害状況の調査に支障のない程度の人員を防衛に回してるらしい。
うん。皇帝に反逆した貴族とは言え、腐り切っているって訳でもないみたいだね。
「敵の戦力は低下している、今こそ叩くべき。と言いたいところですが・・・。
我々もかなりの被害を被りましたからね。それに、勘解由小路殿やハインリッヒ殿を含め、
こちらの主戦力にも被害が出ている状況。さて、ここは無理してでも敵を叩くべきか。
それとも、皆の怪我が回復するのを待つか。難しいところですね」
確かに。アダムスの言う通りだ。俺は、奴らに痛手を与えることは出来なかった。
奇襲を受けたとは言え、麗香さんがやられるなんて思いもしなかった。
でも今考えれば、麗香さんだって魔物で、生きている訳なんだから。
死ぬときは死ぬし、怪我する時は怪我をする。・・・俺は彼氏でありながら、大切なことを忘れていた。
はぁ。歴史が重要とか、作戦が云々とか、偉そうなことを言っておきながら。詰めが甘いな~。
・・・後で麗香さんに謝ろう。そして、二度とこんなことが起こらないように細心の注意を払うんだ!
「ハインリッヒ殿、私共の部下は約30名程度なら今すぐ動かすことが出来ます。
もう少しお時間を頂けるのなら、他の都市から部下を呼び寄せられるので・・・。
恐らく、ざっと100名近く集めることが出来るでしょう。
ですが。私共はあくまで貴方様の判断に従うつもりですので」
はぁ。アダムスもか。・・・皆、俺に判断を任せるんだから嫌になる。
転生前はただの高校生で、異世界転生してから10年とちょっと。
色んなことを経験してきたけど。魔物や人の死については未だに慣れない。
ジークや仲間のためだって信じて続けて来たけど。この戦争が終わったら、こんな仕事辞めてやる!!!
・・・。
・・・現実逃避はここまでにしようか。
さて。フィアナさんの件や、俺や麗香さん、赤城も俺達と比べると軽傷・・・いや、軽傷ではないか。
まあ皆、大なり小なり怪我してるし。麗香さんにフィアナさんのことを伝えないといけないし。
ここは少し時間をもらうことにしよう。
「・・・分かりました。少し考えをまとめたいので。お時間を頂けますか?」
俺がそう言うと、アダムス達は頷いて部屋を後にした。