反乱勢力“か”皇帝陛下篇 第6話
「そうか。ツェーザハルトはセルゲイを取り込み、共にこちらへやって来るのか」
・・・彼女が情報をもたらしてくれるのは嬉しいことなんだが。
その情報が常に良い物であるわけではない。今回は、今までの中でもトップレベルに最悪な情報だ。
我々の奴隷暗殺者の保管庫を襲った謎の男は未だに分からない。
テルク樹海の軍は完全に崩壊し、時間稼ぎのために雇った傭兵もついに捕えられた。
その上、敵は手薄な我らの本拠地を精鋭で叩こうとしてきている。
はぁ。我らが皇帝の軍隊に勝っている点は、地の利を得ていることだけだと言うのに。
何故、父上は正面から皇帝の首を取ることに固執される。
いや、それ以前に武力行使などせずとも、皇帝を陥れる方法など幾らでもあったはずだ。
まあそれは、戦争にまで発展してしまったこの状況で悔いても意味はないが。
だが、今からでも後退し。防衛都市を利用して籠城作戦を取る方が良いと思うのだが。
高位魔獣の大侵攻をも耐えられると言われている防衛都市。
そこでの籠城なら、強力な皇帝軍にも勝利を収められるだろうに。
父上。はぁ。父上は私の話など聞いてくださらないだろう。人族の血が流れている私の言葉など。
それにしても。赤城健次郎。私の次に戦闘力が高いとされる少女戦士とほぼ互角にやり合うとは。
あちらが総力戦を仕掛けてきたら。恐らく我らが負けるな。
そうなる前に何とか手を打ちたいところだが。
「ねぇ。ルシく・・・。ルシファン様、私と一緒に・・・・・・・・・」
ルシ君、か。懐かしい呼び方だ。子供の時以来か。あの頃は、母上もまだ。
いや、余計なことを考えるのはやめよう。ルシ君呼びをしようとしたと言うことは。
私的な話があると言うことか。・・・子供の時からの付き合いだ、遠慮しなくてもいいんだが。
「どうした。幼い頃からの付き合いだ、遠慮なく言ってくれ」
彼女は、何かを言おうとしたがそのまま押し黙り、
「そろそろ時間だから。戻るね」とだけ言い残し、部屋を後にした。
仮面を被っていたから、全てを見抜けたわけではないが。アレは、悲しんでいるな。
唇を噛んで、目を閉じて下を向く。彼女は昔から、悲しいことに直面する度にそうしていた。
勿論、泣くこともあったが。・・・ああ。いつからだろう、彼女が人前で泣かなくなったのは。
昔は、何でも私に話してくれていたのに。そう言えば、彼女と最後に世間話をしたのは何時だろう。
戦が。戦さえ終れば、父上も彼女も、あの頃と同じように・・・。
そうだ。やり残したことがあるからこそ、彼女も父上も・・・。
あと少しだ。日常が戻ってくるまであと少し。それまで耐えれば何もかもが良くなる。