第144話
「あっ!ツェっちゃん、一つ重要な用事を思い出したわ。ついて来てくれるか?」
皆と合流して、いざ敵地へ!って時に、赤城は俺の腕を急に引っ張り始めた。
訳の分からないまま連れて行かれた先のテントには、一人の少女がいた。
不思議に思っていると、今までに見たこともない速さでリネットちゃんが駆けだしていった。
「ミーシャ!」「お姉ちゃん!」リネットちゃんと少女が同時に叫んだかと思うと。
二人は力強く抱き合っていた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
俺は驚きで目を丸くしながら、ゆっくりと赤城の顔を見つめた。
「反乱組織の子供奴隷が何者かによって保護されたっちゅう情報が入って来てな。
子供が保護されとるっちゅう場所に行って、子供連中から話聞いてたら。
ミーシャの嬢ちゃんを見つけたっちゅうわけよ」
おお、おおおお、おおおおおれの、仕事を、奪いやがった。
けど。・・・あんな安心した顔で泣いてるリネットちゃんを見せられたら。何も。
いや、リネットちゃんに代わって一つだけ言わないとな。
「赤城、礼を言うよ」
・・・クソッ。赤城に礼を言うことになるとは。一生の恥。
ただ。ウィドーを倒しに行く前に解決できたのは、喜ばしいことだ。と思う。
少し安心した俺に反して、赤城は深刻そうな顔と声で急に話し始めた。
「・・・ツェッちゃん。今回の仕事は、今までのより何倍も危険やで。
リネットちゃん連れて行くのは、ちょっと厳しいかもしれん」
赤城は麗香さん達にリネットちゃんと妹ちゃんのことをお願いしてから、俺のことを連れ出した。
・・・最初、赤城は集めた情報を俺に教えてくれた。
まず、敵には神父・マザー・午後のティータイム・少女戦士・妖艶の魔女。
と呼ばれる強力な存在がいる。赤城はその内の少女戦士に遭遇して、痛手を負わされたらしい。
多少の油断や焦りがあったとは言え、あの赤城に痛手を負わせるって・・・。
はぁ。セルゲイを倒して、やっと一息つけると思ったのに。また強敵か。
「それとな・・・。確かな情報やないし、考えたくないことでもあるけど。
十分にその可能性があるから、先に話しておくわ。
・・・フィアナハンが、ワイらのことを。裏切っとるかもしれん」
冗談、嘘、聞き間違い、夢・・・。でも、赤城の何とも言えない顔を見たら。
これが現実であることが一瞬で分かった。そうか。フィアナさんは裏切者。
・・・今まで、軍や政治の中枢や、貴族からも多くの裏切者が出た。
なら、自分の部隊にも何人かは裏切者がいてもおかしくはないと思っていたけど。まさか・・・。
赤城は冷静で、頭もいい。その赤城が十分に可能性があるって言ったんだから。
覚悟しないとか。でも、一番心配なのは麗香さんだ。
俺よりもずっと前から一緒にいた存在が裏切り者だったら。
麗香さんは確かに強い。でも、人並みに傷つくし、悲しんだりもする。
はぁ。なんかイライラして来たな。良いことがあったばかりなのに、
なんで嫌なことを聞かないといけない?
いや。隠され続けるよりかはましだけど。・・・・・・・・・・。
ああ。考えがまとまらない。凄くイライラする。そもそもフィアナさんはなんで裏切りを?
でも、裏切り者って確定したわけじゃない。
・・・そう言えば、赤城はなんでフィアナさんが裏切者の可能性があると思ったんだ?
今は考察する余裕もないし、本人に直接訊くか。
「赤城。なんでフィアナさんが裏切り者だって思ったんだ?」
赤城は、最初こそ話すのを渋ろうとしていたが。問いただし続けると、白状した。
なんと、赤城はあのアダムスとディーンに会っていたのだ。
少女戦士との戦いで彼らに助けられ、そして俺の身近な存在に裏切り者がいると聞かされた。
赤城は最初こそ半信半疑だったが。部隊全員の身元を密かに調査してみると。
フィアナさんが最も裏切り者である可能性が高いことに気が付いた。
理由は。部隊内の機密情報が漏れていたり、魔帝国の上層部だけが知りえる情報が漏れていたり。
並みの諜報員では確実に持ち帰れない情報を、敵が知り得ている。
魔帝国で上層部との関わりがあり、そこそこの地位と、諜報を得意とする存在。
確かに、状況証拠だけで見れば。誰が一番怪しいかは一目瞭然だ。
でも。だからこそ赤城は「可能性が高い」とまでしか言わなかったんだ。
そう。まだフィアナさんは『最も怪しい』の段階で止まっている。確定はしていない。
「このことを、麗香ハンに話すかどうかは。ツェッちゃんに任せるわ。
ワイは正直、こんなこと麗香ハンに話せる自信がない。スマン。ホンマに、スマン」
赤城はそうとだけ言い残すと、テントの中へと戻って行った。
・・・はぁ。こんな時、物語の主人公はどうするんだろうな。
完全なご都合主義なら、フィアナさんの疑いは晴れて、別の裏切者が出てくるんだろう。
ただ。これは現実だ。フィアナさんが裏切者でも、不思議じゃない。
でもどうして。どうして裏切りを。あんなに麗香さんのことが大好きで。
楽しそうに笑って、本気で心配してたのに。・・・。駄目だ。憶測で物事を考えすぎるのは良くない。
今は、フィアナさんが裏切っている可能性がある。
と言うことを頭の片隅に置いて、反乱軍から国境での民間人殺害及び皇帝への裏切り行為の
証拠を見つけだすことだけに集中しよう。