第135話
高価で手に入りにくい素材以外全て売り払った結果、大金貨68枚(日本円で680万)になった。
余り物の素材がここまで高値で売れた理由は、季節と情勢が関係してる。
まず、冬は戦闘に向かず、魔獣の多くも冬眠してしまうため、相場が上がる。
それに加えて現在、大穴周辺を反乱軍が占拠しており、魔獣の素材自体が不足気味。
更に、国家間の関係を悪化させないために、条約に従って魔獣素材の多くは海外に輸出されている。
結果として、国内外問わずに魔獣素材は不足。値段が一気に高騰したわけだ(汗)。
ただ。少し困ったことになった。俺が今から行く店も、魔獣の素材を使うらしいからな。
大金貨680枚で足りるかどうか。
「当冒険者協会に多くの魔獣素材を卸してくださり、ありがとうございました。
今後とも魔獣素材は冒険者協会に卸して頂けるとありがたいです」
彼は俺が冒険者協会を出る直前に、深く頭を下げた。
俺も軽く頭を下げてから、カエラ男爵に紹介された店に向かった。
・・・最悪、金が足りなかったら高位の魔獣素材と物々交換してもらおう(涙)。
はぁ。高位な上、希少で個体数の少ないヤツの素材を残したんだけど。
そうか、コイツらともお別れしないといけないかもしれないのか(涙)。
なんて考えながら進んでいると、カエラ男爵に紹介された店に到着した。
うん。店の外装からして高級感が漂っている。急に、お金が全然足りないような気がして来た。
そんな感じで、店の扉の前で圧倒されていると、高級そうな服を身に纏った白髪の男性が出て来た。
立派なカイゼル髭を生やしていて、何と言うか、強そう?・・・元は有名な騎士的な?
「ハインリッヒ騎士爵様ですね。べべ―ル男爵様よりお話は伺っております。
当アイザック宝石店にようこそお越しくださいました。
私、第7代目アイザック宝石店店主の、カール・ケスラーと申します。
ああ。お体が冷えてはいけませんね。どうぞ、中へお入りください」
クッソ紳士だ。ヤヴェー、これ貴族対応モードに切り替えないと・・・。
うう、でもアレ疲れるんだよなぁ(涙)。はぁ。背に腹は代えられないか。
なんて内心で溜息をつきながら店の中に入ると。凄い光景が視界に入って来た。
凄い。と言うよりも、超弩級に豪華な『The・宝石店』みたいな光景?
兎に角、俺みたいな奴が立ち入って良いような場所じゃない感が半端ない(汗)。
宝石がキラキラしてて豪華そう。なんてレベルじゃなくて、なんかこう、
一つ10億って言われても驚かないかもしれない?みたいな?うん。まあ、言葉が出てこない。
「ハインリッヒ騎士爵様、どうぞこちらへ」
ケスラーさんは、圧倒されている俺のことを高級なソファーに案内する。
うう。騎士爵と言っても、寮で生活してるような奴ですぞ?ここまで丁寧な接客をしなくても。
と言いたいけど。そんなこと言ったら、麗香さんにこっ酷く叱られるんだろうなぁ(涙)。
「べベール男爵様より伺った話では、大切にされている女性へのお誕生日に贈り物を。
とのことでしたが。合っていますでしょうか?」
俺はケスラーさんの問いに頷いて返す。と言うか、下手に喋って醜態を晒したくない(涙)。
すると、ケスラーさんは少し申し訳なさそうな顔をして、俺に質問をして来た。
「不躾なことをお聞きするのですが。ハインリッヒ騎士爵様の大切な方とは、
勘解由小路伯爵家の御息女であられる、麗香様で間違いございませんか?」
俺にはケスラーさんの質問の意図が分からなかったが、とりあえず頷き返しておいた。
と言うか、麗香さんの実家って伯爵家だったんだ。・・・え?結婚とか絶対に無理じゃん。
えっと。魔帝国には子爵位はないから。
騎士爵→男爵→伯爵→(辺境伯?+)侯爵→公爵→皇帝になる?のかな。
ああ。頑張って武勲を立てて、有名人?有名魔物?になって、男爵位を叙爵されたら、行ける、かも?
いやいや。俺と麗香さんは結婚しないよ?麗香さんのことは好きだけど。
でも、だからこそ、ウィドーが世界に暗黒をもたらさないように俺一人で阻止しないと。
(まあ、その過程は関羽将軍達に助けてもらうことになるだろうけど(汗)。)
複雑な思いに耽っていると、ケスラーさんが机の引き出しから、小さな木箱を取り出した。
その中には、丁寧に保管された・・太めの木の枝と宝石?のようなものが入っている。
「それでしたら、少々ご相談したいことが・・・」
ケスラーさんの相談?を簡単にまとめると。
俺が持ってる高級な魔獣の素材を使わせてくれるなら、定価の1/10の価格で売ってくれるらしい。
あっ!ケスラーさんが、俺が高級な魔獣の素材を持っているって思ったのは、カエラ男爵から
騎士爵であると共にS級冒険者であることを聞いたからだそうだ。
と言うかこの提案、カエラ男爵が事前にケスラーさんと相談していたことらしい。
そう言えばそうだった。
あの魔物も俺と麗香さんの仲を進展させようとしている派閥の一人だった(汗)。
それにしても安すぎだろ?って思うだろ?どうやらそれは、
「ただでさえ冬の期間は素材の流通が滞ると言うのに、反乱軍の残党のせいで、お客様の足も遠退く。
アイザック宝石店の経営は傾き、反乱軍の残党が掃討されるまでは店を閉めなければならない。
そうなりかけていたところを、ハインリッヒ騎士爵様に助けて頂けたので、我々からの恩返しです」
とのことだ。・・・皇帝陛下からの命令でそうしただけなんだけど。
まあ、今回は結構実費で賄った部分もあるし、これくらいの得はあってもいいよね?ね?