第125話
「おいおい。あんだけ派手に吹っ飛んだのに、呻き声一つあげねぇとは・・・?
まさか、あの程度の攻撃で気絶したんじゃあるめぇな。おいっ!冗談だろ?」
地面に倒れたままスキルを確認していると、彼の慌てた声が聞こえて来た。
どうやら、俺が気絶してしまったのではないかと心配しているらしい。
いやまあ、多分この不名・・・名誉なスキルがなかったら、本当に気絶してたと思うよ?
はぁ。泣きたいところだけど、今はこのスキルがあることに感謝するとしよう(涙)。
それにしても。どうするべきだ?気絶してるって勘違いされている内に奇襲を仕掛けるべき?
それとも、正々堂々と勝負するために、このまま立ち上がるべき?
・・・う~ん。一応俺、騎士爵だし、騎士道精神?ってヤツを大切にしといた方がいいかな?
うん。そうしよう。後々、卑怯者呼ばわりされたくないしね。
そう考えた俺はゆっくりと立ち上がった。
「いいえ。気絶なんてしてません」
そう言うと同時に、魔法による反撃を開始した。
『礫岩弾』を大量に生成して、放つ。イメージは『ストーンバレット』?的なヤツ?
「はっはっは!そう来なくっちゃな!!!!」
彼は楽しそうな笑い声を上げながら、麗香さん並みに素早い動きで俺の攻撃を避ける。
魔力の練りが甘かったのか、中には剣で防がれる礫岩弾もあった。
中には掠ってくれる弾もあるけど、致命傷にはなっていないし、そもそも稀にしか当たっていない。
数を増やした上で、魔力も練り込みたいけど・・・今、別のことに集中したら、距離を詰められる。
クソ。どうするべきだ?このまま魔法を撃ち続けるか?でも、魔力にも限界があるし・・・。
なんて考えていると、俺の魔法の動き?癖?に気が付いた彼は、一瞬の隙を狙って、
ナイフを投げて来た。ある程度距離があったし、麗香さんとの猛特訓のお陰で、回避は難なく出来た。
けどその瞬間、俺の魔法が僅かに途切れて、彼に距離を詰めるチャンスを与えてしまった。
「はっ!やっぱり魔物との戦闘は、まだまだ不慣れだな!!」
彼は満面の笑みを浮かべながら、大きな声で俺のことを斬りつけてくる。
さっきよりも速く、鋭い一撃。・・・回避こそ成功したものの、腕に軽い怪我を負ってしまった。
さて、ここからは鉄鎖での戦闘になるけど。まだまだ、実戦出来る程上達してないんだよな。
「魔導師のくせに素早い野郎だな。だが、色物との戦いも、中々楽しいな!」
ほぼ予備動作なしの投げナイフに、無駄のない素早く鋭い剣。・・・うん。死ぬ。
こっちも鉄鎖で抵抗してるけど、明らかに経験の差が出てる。
このまま行くと、ジリ貧で負ける。冗談抜きで余裕がない。傷も増えて来たし(汗)。
正直、入手方法は納得いかないし、不名誉なスキルだとは思うけど・・・。
『忍耐の極致』マジでありがたい。コレがなかったら、ここまで来れてないわ。
戦闘中でも冷静さを維持出来て、痛みにも耐性が出来る。最高のスキルだな。
でも、今は逆転出来るスキルが欲しい。はぁ。主に支援系のスキルしか持ってないんだよな。
そんなことを考えていると、一つ。あることに気が付いた。さっきからナイフが飛んでこない。
全部使った?いや。計算高い彼が、興奮して冷静さを完全に失ったとは考えにくい。
となると・・・数が減って、いざという時のために何本か温存している状態か!
なら、今から攻撃に転じる。俺の急な攻撃に驚いた彼は警戒し、距離を取るために一歩下がる。
うん。今までなら、魔法発動の隙を与えないためにナイフを投げて来てたけど、今は飛んでこない。
俺はその一瞬の隙を狙って、最も素早く発動できる『風斬』を放った。
それと同時に、『加速』の魔法を使って彼との距離を取る。取ると同時にもう一度『風斬』!
「ちっ。遠距離メインの奴との長期戦は、こうなるから嫌なんだよ」
彼は『風斬』を簡単に避けながら、口の中に溜まった血を吐き捨てる。
うん。良かった。俺が一方的に不利だったんじゃなくて、向こうは短期決戦を仕掛けて来てたんだ。
だから、避けられる攻撃でもある程度受けてたし、距離を詰めることに異常に固執してたんだ。
でも、俺もかなり傷を負わされた。何回も言うけど、『忍耐の極致』がなかったら危なかった。
けど、ここからは俺が有利な状況になる!魔力はまだ残ってるし、距離も取れた。
油断せずに、確実に追い込んで行けば勝てる・・・ハズ!
「って言うか、お前。本当に後衛職か?動きといい、戦い方といい。まるで前衛みてえだ。
・・・いや、お前は魔法の方が得意そうだな。今まで見たことがない様な発動の仕方もしやがる。
ああ。楽しいな!楽しいなぁ!!お前はどうだ?楽しいか?俺との戦いは楽しいかぁ~!!!!」
なんか、冷静さの中に狂気が混じってるな(汗)。正直、めっちゃ怖いかも。
さっきから、彼が一人で喋ってるから、俺も何か言った方がいいんだろうけど・・・。
集中したら黙るタイプな上、魔法の詠唱?をしないといけないから、喋れないんだよな。
すまん。セルゲイ。せめてお前が、ずっとお喋り出来るタイプであることを祈る。