第124
傭兵王セルゲイ・ヒラサワ。うん。見た目からして強敵感が漂ってる(汗)。
カッコつけて、一人で来ちゃったけど。誰か一人でも連れてくるべきだった。
いや。それより、俺が戦いに不慣れなことを悟られたりしたらいけない。
ここは、冷静を装って・・・そうだ!時間稼ぎをしよう。そうすれば、誰かが助けに来てくれるかも。
「ええ。私も貴方に会って見たかったので」
俺は麗香さん直伝の『無表情』でセルゲイの顔を見つめる。
けど、彼も彼で何を考えているのか全く分からない笑みを浮かべている。
ああ。怖い。多くの魔獣と戦ってきたけど・・・やっぱり、知恵のある敵ってなると勝手が違う(涙)。
よく見てみて分かったんだけど、彼も中々に入念な準備をするタイプらしい。
俺が来る前まで、この辺り一帯を歩き回っていたのか、雪が押しつぶされ硬くなっている。
多少滑りやすさはあるものの、普通の地面の上と言っても過言じゃない。
はぁ。雪の上なら雪上歩行補助靴(魔道具)を履いてる俺の方が有利だと思ってたんだけど。
(雪上歩行補助靴は、時間も素材もなかったため、俺用しか作れなかった。
他の魔道具を作るのに、多大な時間と魔獣の素材を消費したからなぁ。
後で、アザゼル宰相に請求書を出しておこうかな?まあ、流石に許されないだろうけど)
それより、どう話しを繋げて時間を稼ぐか。彼の好みそうな話しは・・・分からん。
「斥候を大量に出し、敵の情報を収集。各種族の弱点と盗賊故の自制心の弱さを突いた『餌』の用意。
魔導師を主軸とした簡易砦の構築、雪が積もった戦場を想定した魔道具の開発。
ああ、地形の把握の仕方もスゲェな。・・・ただ、テメェの作戦は。荒い。
兵法を勉強した奴にしちゃ効率の悪りぃ作戦だ。もっと他の方法があっただろ?
それに、テメェは戦争を初めて経験する奴の雰囲気を纏ってやがる。
才能ありきの作戦なのか、参謀が優秀なのか、それとも・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺が時間稼ぎのために話すことを考えていると、なんか、彼が勝手に話を始めてくれた。
が、結構辛い指摘を受けている。
確かに。軍事シミュレーション+趣味の歴史勉強で培った知識じゃ、本職に勝てるわけもない。
効率が悪いのも分かってるし、もっといい作戦があったとも思う。うん。本当に。
はぁ。やっぱり俺の考えた作戦はダメダメだよな。・・・優秀な参謀、探そ。
「だがまあ。面白れぇ作戦ではあった。それに前任の野郎よか全然ましだ。
・・・さて、つまらねぇ話はこの辺にして。早く俺と死合おうじゃねぇか」
彼はそう言い終わると同時に、俺の足と腕に向かってナイフを投げつけて来た。
麗香さんからの猛特訓を受けた成果か、俺は反射的にそのナイフを避けることが出来た。
だが、彼は続けて俺の背後に回り込み心臓目掛けて剣を突き出してくる。
俺は瞬時にアイテムボックスから鉄鎖を取り出して、攻撃を防いだ。
「おおっと。初見殺しのこの技、防いでくるか」
楽しそうな笑みを浮かべる彼に、ちょっと恐怖心を覚えながらも、『加速』の魔法で一旦距離を取る。
けど、一瞬で追いつかれて次は腕を斬られそうになった。
咄嗟の判断で『結界』の魔法を発動してなかったら。後、数秒発動が遅れていたら。
俺は右手と永遠にさよならしないといけなくなるところだった(汗)。
それにしても、踏む込みが凄い。剣も、素早いのに重く、強力な一撃を放つのに隙が少ない。
確実に急所を狙ってくる上、どこを狙われているか分からない。
時々、投げてくるナイフもかなり厄介だ。・・・戦い、慣れている。
彼と俺との間には、圧倒的な経験の差がある。このままじゃ、ジリ貧になって負ける。
「戦闘のスタイルは完成している。戦闘の経験を積まねぇと自分の『型』なんて完成しねぇ。
だが・・・。そうか!テメェは普段、魔獣を狩ってやがるんだな!
それで、魔物とも人間とも戦ったことねぇから、強えぇのに俺との戦いに苦戦してやがんだな」
彼はそう言うと、納得したような顔をして頷いた。・・・うう。全部見破られてる。
このままじゃ本当に負ける。何とかしないと~。でも、今は彼の攻撃を防ぐだけて精一杯。
何かいい案はないか?
「おい。ボケっとしてんじゃねぇ!!」
ほんの一瞬とは言え、考え事をしていたせいか。俺は彼の蹴りをまともに喰らってしまった。
人生・・・魔物生で、骨が軋む音を聞いたのは、麗香さんの攻撃を受けて以来だ。
うん。痛い。雪も俺達に踏まれて硬くなっちゃってるし。全身打ち付けられて、マジで痛てぇ。
アレ?なんでこんなに冷静なんだろう?体中が痛んで、命の危機が迫ってるのに。
俺は、もしかして!と思って、自分のスキル一覧を確認した。すると・・・。
『状態異常無効』『存在進化』『開発家』『アイテムボックス』『魔力感知』『死霊術』に加えて
新たに『忍耐の極致』と言うスキルを獲得していた。
・忍耐の極致:忍耐系スキルの最上位。『超・理不尽』な環境に長期間いることで獲得できる。
多少の物理耐性に加えて、理不尽な状況や痛みに『超・強く』なる。
(持っている者は極僅かだ。と言われている。)
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嬉し・・くは、ある、ような、ない、ような。う~ん。少なくとも、すっごいモヤモヤする。
それと、なんか涙が溢れそう。なんでだろう?レアスキルを手に入れられたって言うのに。
ホントになんでだろう(涙)。