第三の何者か篇 第6話
「関羽君。久しいね」
唸るような低い声が、昼だと言うのに木漏れ日の一つもない森に響き渡る。
特にウィドーの周りは、深淵を彷彿とさせる闇に支配されており。
そうかと思うと、奴は闇と一体化し完全に姿を消していた。
「2000年振りに手合わせと行こうか」
何処からともなく聞こえてくる低い唸り声。
と同時に、複数の黒い触手の様なモノが関羽に襲い掛かってくるが、
彼は動じることなく瞬時にその全てを斬り伏せた。
「ほう。君は衰弱しきっている兄と違って、力強いままだね」
関羽は無数の触手の相手をしながら、ウィドーの位置を探っていた。
しかし、影の支配者と言われるだけあって、気配すら感じ取れない。
・・・分身体が相手とは言え、このままでは埒が明かぬな。
そう考えた関羽は、大刀を大きく振りかざし、全力で振り下ろした。
すると、風圧によって周りの木々が倒れ、関羽の力みに耐えられなかった地面はひび割れる。
地響きのような轟音が森に響き渡り、関羽の頭上の闇が切り裂かれるように打ち消された。
闇が取り払われたことによって、流石のウィドーも自らの姿を完全に消すことが困難になった。
「流石『武神』のスキルを持つ者。地上とはいえ私の闇を切り裂くとは・・・完敗だよ」
攻撃を完全にやめたウィドーは、続けて「それで、私をどうするのかね」と
そのスライム状の体を引きずり、関羽に接近する。
関羽は警戒こそ解かないものの、相手に戦う気がないことを長年の勘から察する。
「・・・この世界をどうする気だ」
その言葉を聞いたウィドーはピクリと動きを止め、白く歪な顔を俯かせて考えに耽る。
暫くの沈黙の後、奴はゆっくりと語りだした。
「私は鈍く、脆く、弱い。陰に潜み陰から世界を覗き見ることしかできなかった。
しかし、私には二つの利点があった。一つは他の支配者とは違って魔法の適性があったことだ。
もう一つは、貴様らと同じく『強くなる』ことが可能だったこと。
・・・次に私が地上に出る時には、私はこの世界の真の支配者となる。
地球人の言葉を借りるのならば、私は『神』になるのだよ」
関羽が、「どういうことだ」と顔をしかめ、怒鳴るように言い放つと
「落ち着きたまえ。取り乱すとは君らしくもない」と嘲笑し、小馬鹿にする空気が漏れ伝わって来る。
関羽は、奴の言葉に従うかのような態度は不服だと考えながらも、
奴の話を最後まで聞くために怒りを鎮めた。
「それで・・・ああ。『神』になるところまで話したのだったな。
ここからだよ、君の問いに答えるのは。
この世界をどうするか。私が『神』になりこの世界を完全に管理する。
この世界は言わば私の戦利品だ。故に、私が『神』として君臨し、この世界の全てを決定する。
無論、無闇に生物を害したり迫害したりせぬことは保障しよう」
ウィドーはそう言い終わると、関羽の隙をついてこの場からの逃走を図る。
が、関羽の体が反射的に逃げようとする奴の体を一刀両断した。
「流石に逃がしてはくれないか」。ウィドーの体は蒸発するように、消えてなくなってしまった。
結局、奴が真に何を意図しているのかは分からなかった。
『神』になる。私も君達のように『強くなる』。
この言葉が一体何を意味しているのかを知る者は、まだウィドー以外はいない。