第12話
翌日
「さて、どうしましょうか」
清々しい程の笑顔でカエラ男爵はそう言った。
何度も言うが、過激派の情報は何一つない現状、俺達ができるのは、ただただ次の機会を待つだけだ。
が、俺達は今急いで魔帝都に向かっている。
結局、俺達はこの件を一旦保留することにして、明日、カエラ男爵の弟さんである、ジブリエルさんに帝都まで送ってもらうことになった。
事件の尻尾すらつかめていない状況だが、人間との戦争に備える方が大切。
と言うことは皆が理解している。
それに、魔王様も貴族派の動きには常に目を光らせているとのことだしな。
戦争も控えている今、貴族派が魔物全体に悪影響が出る様な、大きな動きを見せるとは考えづらい
ということもある。
それはさて措き、この町とカエラ男爵との別れも近づいている(明日)。
この町と別れる前に、何か必要なモノは買っておかないとな。
いくらジブリエルさんが竜化のスキルで素早く移動できるからと言って、一瞬で魔帝都に到着できるわけではない。
一日目は地方都市スザンタークで休んで、続けてハルティン、ヘルバンティア、アルバンティアと、
3~4日くらいかけて移動する予定だ。
食べ物と水、生活必需品の殆どは揃っているが・・・足りないモノもある。
そう、急遽同行が決まったリネットちゃんの衣服や寝床など、幼い子供に必要なモノが全て足りない。
と言うことで、午前の話し合い?を終わらせた俺、麗香さん、フィアナさん、リネットちゃんは、下町に買い出しに行くこととなった。
女の子の買い物に男が付き合うのもアレだと思って、俺はカエラ男爵の執務の手伝いでもしようと
思っていたのだが・・・
「荷物持ち」
と麗香さんが一言。
俺は無理やり連れだされてしまった。
「あはぁ、夢の妹とのお買い物、最高!」
えらく楽しそうにそう言いながら、フィアナさんは誰よりも浮かれていた。
その豊満な胸をたゆんたゆんと揺らしながら、街中をスキップしている。
他の雄の視線を釘付けにするかの様な動きは、わざとやっているのか、それとも淫魔故に自然とそうなるのか俺には判断できない。
それに対して麗香さんは、母・・・と言うよりは姉と言う感じで、リネットちゃんと手を繋いで、
リネットちゃんの歩く速度に合わせて歩いている。
俺に取っている態度と180°違う。
そして・・・完全に影と化している俺。
まあ、辺境の都市であるためか、低級魔物や中級魔物が多く、上級の魔物が少ないから、と言う理由もあるが。
人の形をした粘着性生体、大鬼、小鬼、不死者、そして人間、ではなく蘇生者という者達。
蘇生者は死喰鬼の進化先らしい。
つまり、次に俺が進化する先と言うわけだ。
その見た目は殆ど人間と変わらない、いわば本当に蘇ったかの様な存在。
とまあ、街中の種族を観察しているだけでも、かなりの数、種類がある。
それと、俺達は無用な誤解を避けるために 『家族である』 と言うことにしている。
この世界では、色々な種族が混ざり合っていて、生まれてくるまで自分の子の種族が分からない。
胎生と卵胎生の差はあるものの、それは特殊な亜人くらいにしか適応されない。
簡単に言えば、俺達バラバラな種族同士が家族と言っても、誰も疑わない訳である。
ついでに、俺が長男、麗香さんが長女、フィアナさんが次女、リネットちゃんが三女である。
面倒事を全て押し付けるために、俺が一番年上と言うことになっている。
・・・はぁ、面倒事を押し付けるだけのために一番上にされる、酷い話だ。
それはさて措き、どうやら目的の場所に着いたらしい。
そして俺は早速
「変態扱いされたくないのなら、店の前で休んでいて下さい」
と、除け者扱いされた。
まあ、女性ものの衣服を扱う店ですから、男である俺がいたら不自然ですけど・・・・・・・・・・・・・・。
ちょっと言い方酷くないですか?
で、結局俺は外で2時間近く待たされた挙句、大量の衣服を異空間道具箱に詰め込めさせられた。
ちっ、こんなことになるなら2時間の間に、露店で何かつまみ食いしときゃ良かった。
まあ、あまり笑わなかったリネットちゃんが少し楽しそうにしているから、結果的にはいいのかもしれないが。
「次は何処に行くのですか?」
街中を歩いていると、リネットちゃんが俺達に質問してきた。
確かに、リネットちゃん用の衣服は買ったし、他に必要なものなんてあったか?
俺とリネットちゃんの疑問を他所に、麗香さんとフィアナさんは
「お楽しみに」
と、何も教えてくれない。
まあ、二人ともリネットちゃんに対してだけは優しいから、変なことはしないと思うが・・・。
問題は、俺がどうかだ。
荷物持ち以上に酷いことさせられたりしないよな。
はぁ、この二人といると気の休まる暇がない。
憂鬱な気分のまま、三人の後ろを暫くついて行くと、明らかに高級料理店な場所に到着していた。
「あのぉ~、麗香さん、これは一体・・・」
俺の疑問の声も無視して、麗香さんとフィアナさんはリネットちゃんを連れて店の中に入っていった。
捕捉しておくが、俺達が使っている金は、カエラ男爵が 『リネットちゃんの保護代』 として、俺達に渡してくれた金だ。
本来なら、リネットちゃんの為に使うべき金なのだが・・・この人達がリネットちゃんにとって
不利益なことをするとも思えないし、とりあえず付いて行って・・・いいのか?
まあ、外で何時間も待たされるよりかはましだろうし、ついて行くか。
とりあえず、何が何だか分からなかったが、俺は三人を追いかけて店の中に入っていった。
「いらっしゃいませ、ご予約は?」
店員のその言葉に俺ははっとした。
確かに、高級料理店なのだから予約を取ってから来店するのが・・・当たり前なのか?
俺はそんな、高級料理店についての知識なんて殆どないぞ、アレだろ、外側からフォークとかを
使っていくのは知ってるぞ!
それはさて措き・・・イマイチよく分からないのだが。
だって、この二人が予約もなしに高級料理店に行くわけがない、だが、予約を取っていたのだとしたら、もっとわけがわからない。
が、前者が答えなんてことは絶対にありえない。
案の定、麗香さんは
「ええ、カエラ男爵の名義で」
その言葉と共に、ガチャと扉の開く音が後ろから聞こえてきた。
何となしに振り返ると、そこにはカエラ男爵が数人の護衛と共に立っていた。