第106話
「はあ。はあ。はあ。はあ。」
半日、一度も休まずにスラッタ村にやって来た。
何故、休まなかったのかって?はっはっは。
麗香さん、リネットちゃん、AG74、ゴロー。
この全員が休憩なしに半日歩き続けられる体力を有しているからさっ!
ていうか、AG74に関しては体力とかいう概念がないし。
そもそも俺はアレだぞ?後衛職だぞ?体力なんてないに決まってるじゃないか!
なのにあの体力バカたちのペースに合わせて積もった雪の上を歩くのは本当に本当に超しんどかった。
(リネットちゃんは可愛いので無罪。)
ああ、こんなことなら一人で来てた方がよかったかもしれない(涙)。
いや!アレだ、ルイーサも一緒に連れてくればよかったんだ!
でも、雪を降らせる厚い雲が空を覆ってる時は飛べないんだっけか。
はぁ。結局、運命は変わらなかったということか(涙)。
「なにをボーっとしているのですか?スラッタ村の村長殿に会いに行きますよ」
肉体的にも精神的にもキている俺に、麗香さんから容赦ない言葉の追い打ちをかけられる。
俺は泣きたい気持ちをグッと抑えて、村長さんの家?を探すことにした。
幸い村の入り口の警備に当たっていた人から、場所を聞き出すことは出来たから、
苦労せずに辿り着けそうだ。
暫く歩いていると、村長の家らしき建物が見えてくる。
近づいて扉をノックしてみると、中から初老の男性が出て来た。
「おや?旅の方ですか?私に何の御用で?」
俺は初老の男性に、冒険者協会の依頼を受けて謎の魔獣の調査・討伐に来た旨を伝えた。
「少しでもいいので、何か知っていることを教えていただけませんか?」
すると、村長さんは暫く考え込む仕草をして「ついて来てください」と、歩き出した。
少し不思議に思いながらも、村長さんの後に続くと、一軒の家の前に到着した。
村長さんが扉を軽くノックしながら「入るぞ」と、声を掛け
家の中にお邪魔すると、体の大部分を包帯で覆われているこれまた初老の男性が
ベッドの上で少し苦しそうに横たわっていた。
「カイ。起きているか?」
静かに話しかけられたカイさんはゆっくりと目を開けると「ああ。体中が痛くて眠れやしねぇ」と、
村長さんの制止を振り切って、体を無理矢理起こす。
「そんで、一体なんの用だ?」
村長さんはカイさんの態度に慣れているのか、大きな溜息をつきながら俺達のことを紹介し。
カイさんは、魔獣に襲われた時のことを鮮明に話してくれた。
「あの時は・・・俺は冬を越すための食料が少し不足気味ってことで、
こいつ(村長さん)に頼まれて獣を何匹か捕まえるために森の中を探し回ってた。
そんで、鹿とか兎を何匹か捕まえて帰ろうとした時に・・・後ろから何かに襲われたんだ。
姿は見えなかったんだが、影の大きさからして大熊以上だったかな。
しかも、一頭じゃねぇ。ありゃ最低でも三頭はいたな。
・・・俺が分かるのはそこまでだ」
カイさんはそう言い終わると、ゆっくりと体を倒して「すまねぇ。体力の限界だ」と、
半ば気絶するかのように眠りについてしまった。
「生き残ったのは彼だけなんです」と絞り出すような声で村長が言う。
既に4人ほどが謎の魔獣の犠牲になってしまっているらしい。
食糧庫も幾つかやられてしまい、冬を越えるのもかなり厳しい状態になってしまったとのことだ。
・・・魔物は人間よりも魔獣に対抗する手段を多く持っている。
それでも全員が全員、魔獣に対抗できると言うわけではない。
はぁ。こんな重苦しい依頼だと思わなかったんだけどなぁ。
まあ兎に角、集められる情報は集めたし、次は森の中を探索してみるかぁ?
「村は町と違って危険が一杯なのデス」
とりあえずカイさんの家から出て、村の中を歩いているとリネットちゃんが
麗香さんの服の裾を軽く掴む。
そう言えば、リネットちゃんも過激派の連中に捕まるまでは村で暮らしてたんだもんな。
他人事じゃないよな。
俺は異世界転生した時は、ある程度のスキルを貰って、敵が少ない場所で産まれ?られた。
もしそうじゃなかったら、死んでたかもしれないな。
そう考えると、ファンタジーなくせしてあまりにも色んなことが現実的過ぎるだろ?!
いやまあ、別にアニメやゲームの世界じゃないんだから当たり前なんだけど。
・・・それはさて措き、これからどうするべきか麗香さんに助言を貰おう。
一応、俺よりも色んな面で優れてるし、こういう経験も豊富そうだし。
「麗香さん、どう思います?」
その言葉遣いを聞いた麗香さんが「敬語に戻ってますよ」と睨んでくる。
やっべ。と思って身構えたが、彼女は別に何をするでもなく、ただ大きな溜息をついて、
「貴方に期待した私が間違っていました」と諦めの表情を見せた。
・・・なぁんか、傷つくなぁ(涙)。
気のせいだといいんだけどさ、もしかして付き合ってから俺に対する当たりがどんどん
キツクなっていってないか?いや、多分、きっと、恐らく、思い過ごしだな。うん(涙)。