英雄篇 第6話 ~人族の転生者~
親友と別れてから数ヵ月以上の時間が経った。
父上も母上もレティシアも新王国樹立や戦争の準備で忙しくしている。
俺も、新兵の訓練や同盟貴族との会合、商人との取引やデバーグ(ドワーフの国)との
関係構築の準備、王国の動向の監視に、冬備えのための公務など、多忙な日々が続いている。
まあ、それはこの大陸に住んでいる者全員に当てはまることだろうが。
ハルトも、こっちで半年以上に渡る長期任務を終えたばかりだと言うのに、
直ぐに反乱軍制圧のために動かないといけないらしいし。
はぁ。それにしても、味方にバレない様に反乱の準備を行うと言うのは難しいな。
反乱に参加してくれる貴族も、一定数は集まったけど、兵力不足は否めない。
けど、母上の外交力と、父上の顔の広さがあってここまでこれたんだ。
もし、一人だったら状況はもっと最悪だったはず。
なんて考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
疲れ気味の声でそう言うと、「失礼しまぁ~す」と言いながらレティシアが入って来た。
ああ、レティシアか。そう思った瞬間、顔に真っ白で冷たい物がぶつかった。
それが何なのか、俺はよ~く知っている。
「あははは。英雄君!これが実戦なら君は死んでいるよ!」
レティシアは片手で俺を指差し、もう片方の手でお腹を抱えながら笑っていた。
はぁ。レティシアが俺に投げつけたのは雪玉だ。
それにしても、何がそんなに可笑しくて笑っているのか、俺には理解出来ん。
「う~ん。反応が薄いなぁ。もしかして疲れてる?」
半ばボーっとしながら考え事をしていると、いつの間にレティシアが顔を覗き込んできていた。
さっきの無邪気な笑顔に比べて、今は少し心配そうな顔をしている。
そんな彼女に、俺を首を左右に振った。
「いいや。レティシアの意味不明な行動に何の意味があるのか考えてただけだよ」
俺の婚約者はムッと頬を膨らませて「なにそれ?」とそっぽを向いてしまう。
う~ん。レティシアの動きは確かに女の子らしいんだけど、少女と言うよりかは子供なんだよなぁ。
まあ、別に悪いわけじゃないんだけど、少しは麗香さんを見習ってほしいよな。
でも、俺は麗香さんの相手を出来る自信はないな。そう考えると、ハルトが凄く思えてくるよ。
「お~い?美人で優しくて気が利く未来のお嫁さんが目の前にいると言うのに、また考え事?」
レティシアは、考え事をしている俺の肩を前後に揺らしながら、不満そうに漏らす。
なんと言うか、今日だけ幼児退行してないか?と思ったが、口に出すのはやめた。
まあ、同じ屋敷で暮らしているのに、会う機会が食事くらいだからな。
レティシアは寝室も同じにしたいみたいだけど・・・流石に結婚もしてないのに、
そこまですることは出来ない。
特に、王族であるレティシアが結婚前に男と寝床を共にするなんて論外だ。
それはさて措き、レティシアは俺に構ってほしいらしい。
今日は珍しく、レティシアにも俺にも仕事がほとんどないし・・・
俺の息抜きも兼ねて、外の空気でも吸いに行くか。