第103話
エレナさんから聞いた話では、大帝都貴族資料館の資料改変事件の犯人は、
『元総合管理者』で『現反乱軍総指揮官』である!
ってことと、そのオイゲン公爵はリネットちゃんの村を消した以外にも、自分にとって都合の悪い資料を
改変したり、と結構色々やってたみたい。
んで、館長でありながらその悪行に気付けなかったゼレさんは負い目を感じていると・・・。
なんか複雑なことになって来た。
てか、エレナさんもなんでそんな『最重要機密事項』を、家庭内の複雑な事情を話すみたいに俺らにペラペラ喋るの?
はっ!実は俺には主人公属性があって、人から信用されやすい!!的な?!!
なんて考えていると、ふと我に返ったエレナさんが、辛さを隠しきれていない笑みを見せながら
「すみません。初対面の方々なのにこんなことを話してしまって・・・。
でも不思議。勘解由小路様になら、なんでも相談出来てしまうような感じがいたしますの」
と呟く。はいはいはいはい。分かってましたとも。
どうせね!俺なんかね!!主人公属性も何もないただの雑魚モブですよ!!!
と言うか、麗香さんが女装した第三の転生者だったりするんじゃない?
歴史の本を読んだ限り、転生者って一つの時代に3人くらいいるんだよね?
一人は俺、もう一人はジーク。・・・なら、三人目が麗香さんであっても不思議じゃない。
と、俺は麗香さんのことをジロジロと観察してみた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、普通に肌めっちゃ綺麗。
手も、少し筋肉質で皮が分厚くなってるけど、ちゃんと手入れされてるし完璧と言える女性らしさを
維持してる。髪の毛もサラサラで奇麗だし・・・・・・・・・・。
そう言えば、麗香さんって凛としてて、やる時はやるって魔物なのに、
女性としての魅力もきっちり兼ね備えてるよな?
あっ、誕生日にプレゼントした指輪もしっかりと着けてくれてる。
「長々と愚痴を零してしまって申し訳ありません。さて、気を取り直して。
本日は一体何を調べにこちらにいらっしゃったのですか?」
俺が麗香さんのことを観察していると、気を取り直したエレナさんが
入り口で会った時と同じ笑顔に戻っていた。
う~ん。やっぱり異世界でも悩みを抱えて生きてるのは同じなんだなぁ。
まぁ、それもそうか。魔法があって、生活様式も違って、色んな種族がいて、常識も違う。
けど、基本的な考え方や行動は地球にいる人間と大きく変わんないもんな。
はぁ、ご都合主義異世界転生なら、俺もこんな苦労しなくて済んでるだろうし。
それはさて措き、エレナさんの質問に答えるとするか。
「ああ。今日は反乱に加わっている貴族と、新しく私の部隊に入隊したエンデルの犬について
調べに来ました」
俺がそう言うと、エレナさんは「ああ、その資料なら」と言いながら、俺達を案内してくれた。
いや、案内どころか、どんな資料が欲しいのかを聞かれ答えると、その資料を探してきてくれた。
いやはや、まさかここまでヒロイン属性の強い魔物に出会うとは。
さて、欲しい資料は全て本職の人が揃えてくれたわけだし、早速情報収集を始めますか。
あっ!勿論、麗香さんは手伝ってくれないよ!!へへ!!!いっつも通りで安心だね!!!!(涙)。
でもまあ、得られる情報は少ないだろうな。
反乱を起こした貴族は既に分かってるし、その内のテルク樹海方面の貴族は死んだか捕まえられたか。
一部、大穴方面に逃れた者もいるらしいけど、領土を失った貴族なんて戦力外同然だろうな。
3時間後。
必要そうな資料に全て目を通した結果は・・・まあ、無駄ではなかったかな?って感じ。
貴族の資料からは、戦闘能力が高い貴族と、その私兵の中で戦闘能力が高い魔物。
つまり、要注意人物として扱った方がいい魔物が分かった。
他にはぁ~・・・。特には有力そうな情報はないかな。
次はエンデルに住む犬についてだけど・・・。
これも、エリゼさんから事前情報をある程度聞いてたから、あまり収穫はなかったかな。
それと、麗香さんがいつの間にか調べてくれてたことなんだけど、ゴローは古の地の精霊の加護を受けていて、
魔法が使えるらしい。系統的には『地』になるらしいけど、訓練さえすれば、他の系統も多少は扱える
ようになるとのこと。
ここまで分かってゴローの何が分かってないのか?と聞かれると、詳しい犬種かな。
エンデルの犬!以上のことは何も分かってない。
まあ、資料を読み漁っても結局サッパリなんだけどね。
はぁ、・・・こういう場合は専門家に聞いた方が良いのかな?
う~ん。・・・まっ、ゴローのことについて詳しく考えるのは戦争が終わってからでもいいかな。
よしっ!今日はこんなところにしよう!!
「あの、資料を読み終えたんですけど、どこに返せばいいですか?」
俺は近くで麗香さんと話をしていたエレナさんに声を掛ける。
するとエレナさんは、近くにいた司書?さんに
「これをAの4に。これはDの16に戻して置いて」
と声を掛けて、資料を手渡した。
それから「もうお帰りで?」と少し寂しそうな顔をしながら俺に聞いて来た。
俺は少し困惑しながらも「え、ええ」と短く返事を返す。
するとエレナさんは「そうですか」とションボリした声で言って、俺達を出口にまで案内してくれた。
(外に出る時も、入る時と同じ騎士に厳重な持ち物検査にあった。
てか、アイテムボックス持ってたら持ち物検査とか簡単にパスできちゃうじゃん!
と思ったが、ヤヴァそうだったので口には出さなかった(汗)。)
外に出ると、エレナさんが急に麗香さんの手を取って
「麗香様、いつでもいらしてくださいね」と”恋する乙女”みたいなことを言ってた(汗)。
まっ、女性から好かれるのはいつものことだしなぁ~、と思って遠目で見ていると、
次はこっちに向かって歩いて来るエレナさん。
これはもしや!俺にも優しい言葉を掛けてくれるパターンか!!と期待していると・・・。
「ハインリッヒ様。お付き合いしている過程で麗香様を悲しませるようなことをなさいましたら、
四肢胴体をバラバラに引き裂きにまいりますので、どうかご覚悟を」
と、清楚系完璧淑女ヒロイン枠からは到底出なさそうなドスの効いた声で言われた(涙)。
俺は衝撃と共に、この世界に俺に優しい人物は一人もいないのだという絶望から、「はい」と短くしか返せなかった。
うう。どう頑張ったって俺が麗香さんを悲しませることなんて出来ないよ。
何なら俺の方が、日々辛い目に遭ってるって言うのにぃ~(涙)。
(この日一日、ツェーザハルトはベッドの上から動けなかったと言う。)