第94話
アザゼル宰相は1時間くらい、ブツブツと狂ったように独り言を言っていた。
その間、俺はどうしていいか分からず、唯々その場に立ち尽くすしかない。という、最悪の状況だった。
まあ、アザゼル宰相は正気を取り戻した時に謝罪してくれたんだけど(汗)。
なんと言うか、アザゼル宰相って、この世界の数少ない常識人だと思ってたんだけどなぁ。
ま、それはさて措き、俺達は早速本題に入ることにした。
と言っても、カザル王国での任務が終わったことを伝えるのと、
大帝都貴族資料館への入館を出来るだけ早くできるようにお願いするだけなんだけどね。
「なるほど・・・分かりました。ハインリッヒさんの任務は陛下直々に任されたものですし、
なにより、一刻も早く戦争を終わらせ、私達文官をこの生き地獄から解放する重要な仕事ですからね」
アザゼル宰相は、また死んだ魚以上に死んだ魚の目をしながら、そう言った(汗)。
その後は、宰相に急な仕事が入ってしまい。
半分追い出される形で部屋を後にする。
その時に「フィアナさんをここに呼んでいただけますか」とお願いされた。
でも、急ぎではないから、見つけたらでいいらしい。
なんと言うか、いつか過労死する魔物が出てきそう。・・・アザゼル宰相が一番危ないだろうけど。
さて、ではこれからロルフさん達の下へ向かおうと思う。
理由は二つ程ある。一つは、カザル王国に着いて早々に落ちちゃった・・・遺跡?ダンジョン?で
戦った少女人形、確か『AG74』だっけ?の修復を頼みたいんだよね。
あの戦闘の報酬ゼロだったし・・・。それに、あの少女人形について色々と調べてみたい。
でも、今の俺の知識じゃ多分、何もわからない。だから、ロルフさん達に一旦あの少女人形を預けて、
直してもらおうと言うわけさ!
もう一つは・・・俺の弱点を克服できるかもしれない方法を思いついたから、
それを試す手助けをして欲しいんだ。
俺の弱点、それは『前衛がいないと戦えない』ということだ。
少女人形との戦いの時には、麗香さんには随分と苦労を掛けてしまった。
ゴル・ドゴ子爵との戦いの時には、ラインハルトに苦労を掛けてしまった。
えっと、つまりだねぇ。俺もある程度、近接戦で戦えるようにしたいっとこと。
・・・なんて、考えていると、ロルフさん達の工房が見えて来た。
俺が扉をノックしようとした瞬間『ドォン!』って感じの爆発音が工房から聞こえてきた。
「大丈夫ですかっ!」
俺は慌てて、中の状況を確認する。
工房は、真っ黒な煙が充満していて視界は最悪。しかも、地面にはあらゆる物が散らばっている。
が、今はそんなことを気にするよりも、誰も怪我人がいないかを気にしないと!
と、視線を向けた工房の奥から全身埃まみれのロルフさん達が出て来た。
駆け寄って「大丈夫ですかっ?!」と
体を隅々まで確認しながら訊ねたが、
軽く手で押しのけられ、
「ドワーフはなっ!体が頑丈なんじゃっ!気にせんでも問題ないっ!」
とご自慢の体を見せつける様に言ってきた(汗)。
確かに、ものすっごい筋肉質で出来たこの体なら、そう簡単に傷つかないか。
「それよりもっ!帰って来とったんかっ!若いのっ!」
続けてロルフさんは、体にまとわりついた埃をはたき落としながら、そう聞いてきた。
俺は「ええ、つい数時間程前に」とロルフさんのはたいた埃が鼻や口に入らないように
手で覆いながら言う。
それでも、口の中に小さな埃が入ってしまって、軽く咽てしまった。
「まあいいかっ!若いのっ!片付け手伝えっ!」
はぁ。この世界の魔物達は、俺に冷たいようです。・・・いや、ロルフさん達はドワーフだったな。
まあ、いいけど。今は、ロルフさん達の片づけを手伝おう。
べ、別にロルフさんのためじゃないんだからねっ!早く、AG74を修理してもらいたいだけなんだから!
2時間後
「やっと終わったぁ~」
疲れ切った声でそう言うと、綺麗になった地面に座り込む。
メアリさんは、そんな俺の肩をポンポンと叩きながら、「うふふ。お疲れ様」と言ってくれた。
ああ(涙)。お疲れ様。なんていい響きなんだろう。こんな優しく言ってもらうのは初めてだ(涙)。
・・・それにしても、一体どういう経緯で爆発が起こったんだ?
まあ、アニメや漫画の知識で考えるなら
「新たな魔道具の開発を終えて、実験をしていたんじゃが・・・」
みたいな感じ!
でも、真相が気になる!!ので、俺はロルフさん達に直接質問した。
「あの。なんでこんな大惨事になってんですか?」
俺の言葉を聞いた3人は、顔を見合わせた後に、困った様な表情をした。
そして暫くの沈黙の後、ヨルヒムさんが「見れば分かる」と、俺を工房の奥へと案内した。
そこには、大量の魔石と人や魔物の体を模した、人形が大量に置かれていた。
まさか、と思ってヨルヒムさんの方を見ると、彼はゆっくりと首を縦に振る。
「正確に言えば、『軍事利用可能な絡繰人形』の制作・実験を行っとる。
その過程で、魔法陣の効果を強力なモノにしすぎて、従来の魔石ではその負荷に耐えられなかった。
結果として、ドカン!と爆発したわけだ。
まあ、そもそもこの技術自体、机上の空論と言われとるし、技術者のただの暇つぶしだ」
まあ。なんたる偶然と思いながら、俺はAG74のことを、ヨルヒムさん達に話すことにした。