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第10話

「ガルㇽㇽㇽ」


状況を説明しよう。

俺は仕事を終えて、急いで麗香さんとフィアナさんと合流、本部での出来事を話して、

カエラ男爵低に戻った。

そして、それと同時に彼女、獅子族の子供が目を覚まし、暴れ出した訳だ。

(ついでに、悪魔ふたりの勝負は、フィアナさんの圧勝利で終わったらしい。)

現在は、カエラ男爵とその側近、そして俺達3人で彼女の取り調べを行おうとしているところだ。

が、彼女はこちらを警戒するだけで、一向に何も話そうとしない。

とりあえず、彼女のことは側近の人に任せておいて、俺達は現状の整理を行うことにした。

最初に、俺達は誰一人として確かな証拠を押さえるに至らなかった。

と言うか、麗香さんもフィアナさんも証拠をがあることを確認したら、押収は後続のB級冒険者に全て任せてしまったらしい。

例え、B級冒険者が組織と繋がりがなくとも、冒険者協会内に繋がった者がいれば、

押収された証拠が組織の手に戻る。

組織も表立って俺らを消そうとはしないだろうが・・・何かしらしてくる可能性はある。

だが、一番の問題は襲撃がバレていたこと。

依頼の内容を知っているのは、カエラ男爵、俺達三人、冒険者協会ベベール支部長のみ・・・。

それ以外の場所から漏れなくもないが、一番濃厚な路線から潰していくのが妥当だろう。

俺が色々と考えていると、情報を漏洩した者に心当たりが、

とカエラ男爵からあることを聞かされた。

その心当たりとやらに、俺達三人、特に麗香さんとフィアナさんが驚きを隠せなかった。

「ここ数日、敵の本部で普段見かけない 仮面の魔人 が何かをしていた」

麗香さんは、食い気味に仮面の魔人の仮面の特徴について、カエラ男爵に問い詰めていた。

仮面の特徴は、完全に一致。

でも、彼だと断定は出来ないだろう?

仮面なんて似たような物が沢山あるし、たまたま同じ仮面を被っていただけかもしれない。

だが・・・麗香さんがそこまで仮面の特徴にこだわると言うことは、あれはただの仮面では

ないのだろう。


それはさて措き、俺達は 敵の組織は貴族派閥の過激派である と結論付けた。

魔帝国には『貴族派閥』と『魔王派閥』がある。

魔王派閥は魔王様の意向で、無益な考え方や無意味な行動をしない、国益のことだけを考えて

行動する良識家の派閥。

つまりは、人間との戦争と言う無益で意味のないことをあまり好まない、言わば 親人派 の

魔物である。

それに対して、貴族派閥は 反人派 の魔物のこと。

例外はあるが、基本的には貴族派と魔王派で対立している。

そうする中で、貴族派の中で反乱を画策する 過激派 が誕生した。

これらは、貴族の支援を受けつつ、魔王派の貴族を排除したり、人間を奴隷にし、

人間の国との仲の悪化を狙ったりと、魔王派にとって不利益なことをしている。

元々、人間と魔物の仲は 良好 とは言えない。

なんせ、人間協会と魔物協会と言う、対立組織があるくらいだからだ。

この二つの協会は、基本的には冒険者協会と同じ役割を担っているが、

一つだけ大きな違いがある。

それは、国の手助け。戦争に参加することである。

しかも、かなり協力的だ。

冒険者協会は、戦争には参加しない、絶対中立組織だ。

両国に拠点を置き 『民間人の味方』 を名乗り、魔獣や犯罪者だけを標的に活動を行っている。

それに対して、魔物協会や人間協会は戦争にかなり協力的である。

まあ、片方にしか味方しない傭兵と思ってもらって構わない。

それはさて措き、近年・・・魔物協会が 貴族派閥 との仲を深めていると言う情報がある。

彼らが戦争に参加するのは、人間を下等種と見下し、人間を殺す対象と定めているからであって

国のためではない。

人間との戦争を反対している魔王様より、人間との戦争を是としている貴族と仲良くする方が

よいのだろう。

現魔王様は歴代の中でもかなり優秀な方らしい。

故に、歴代の中でも最も人間との無益な戦争に終止符を打とうと努力している方でもある。

まあ、人間との戦争を無益で意味のないことと断言している時点で、好感は持てる。

過激派の全容は未だに分かっていないが、国家の中枢にまで浸食していることだけは

分かっていた。

だが、あの様な立場の方までもが影響されていたとは、夢にも思わなかったそうだ。

仮面の魔人、その正体を麗香さんは話してくれた。

彼は、魔帝国元帥ドイル公爵家の長子。

名を スティア・公爵フュルスト・フォン・ジェイミール と言う。

魔帝国軍最高位司令官の子息にまで、過激派の影響が及んでいるとは・・・。

一大事であるが、証拠がない。

俺達はどうにもならない問題を一旦措いといて、目の前の問題に取り込むことにした。

カエラ男爵とフィアナさんは、現状の確定している情報を資料にまとめる。

そして、俺と麗香さんは獅子族の子供の尋問を行うことになった。



はてさて・・・どうしたものか。

獅子族の子供はこちらを睨みながら、低い声で唸るだけで、こちらの問いかけには

一切答えようとしない。

人は三大欲求の内、食欲が満たされない時は気が立つし、この子にはまず食事を与えよう。

それで、多少は落ち着いてくれるかもしれない。

俺は、メイドさんに頼んで食事を持ってきてもらった。

おっと、先にこれだけは言っておかないとな。


「麗香さん、僕が良いと言うまで何もしないでください・・・よ」


麗香さんは・・・麗香さんは、部屋に置いてあるソファーに座って、紅茶を嗜んでいる。

この人、始めから全部俺に任せる気だったんだな。

え?それより、獅子族の子供を牢に閉じ込めなくていいのかって?

ふっふっふ、愚問だな。

この部屋の窓は絶対に開かない仕様になっているし、地動蟲ワームの保護粘液で作った

強化ガラスを使用しているから、獅子族とは言え、子供では割ることは絶対にできない。

扉も外側から鍵を掛けられる仕様だし、樹霊トレント木材を使ってるから、

これもまた獅子族の子供では蹴破れない。

と言うことで、最早ここが牢屋と言っても過言ではない・・・と言うか、

そういう目的で作られた部屋だし。

要は、位の高い者、主に貴族を軟禁する為の部屋だ。

基本的に、そんな事態になることはないだろうが、あって困りはしない。

それはさて措き、俺は獅子族の子に俺が丸腰であることが分かる様にしながら、

食事を彼女の前に置く。

そして、彼女の前で全ての食事を一口ずつ食べて見せる。

まだ彼女の拘束を解くのが不安だから、俺は彼女の口元まで食事を運び、

食べてもらうことにした。

彼女は俺を睨みながらも、見事に完食した。

さて、俺は今二択で迷っている。

彼女の拘束を解くか否か・・・。

縛りっぱなしと言うのもアレだが、彼女が逃げ出さないとも限らない。

時間があれば、ゆっくりと信頼してもらい、後々に拘束を解くということも出来たのだが、

今は時間がない。

結局俺は、彼女の拘束を解くことにした。

万が一俺を倒して逃げようとしても、俺の何十倍も近接戦が得意な麗香さんがいるし

問題ないだろう。

それに、食事を食べて獅子族の子供は多少落ち着いた様子。

まあ、大人二人がいて、部屋の外にも兵士がいる状況で、逃げ出そうとは

考えないだろうし・・・。

だが、警告はしておこう。


「暴れたり、逃げたりしないでね」


警告、威圧的に言うかどうか迷ったが、警戒されては意味がないから、出来るだけ優しい口調で

言う様に心掛けた。

そして、俺はゆっくりと彼女の拘束を解く。

多少は警戒を緩めてくれたのか、抵抗はしてこない。

やはり、腹が減って苛立っていただけなのかも?

俺がそんなことを考えていると、獅子族の子供は何時の間にか俺の目の前からいなくなっていた。

しまった、と思い後ろを振り返ると・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

彼女は、麗香さんの膝の上に座り、お菓子を美味しそうに頬張っていた。

少し・・・少しだ、状況を理解する時間をくれ。

どうして、さっきまであんなに俺達を警戒していた女の子が、厳格そうな雰囲気を纏っている

麗香さんに近づくんだ?否、もう近づくとかの次元じゃない。

密着じゃん!膝の上に乗っちゃってるじゃん!で、何で麗香さんは普通にしてるの?

この状況、俺の反応が間違ってるの?え?!俺なんか変?


「兄様と姉様は、母様みたいに優しいですか?」


ふと、お菓子を食べる手を止めて、女の子が話かけてきた。

そう問いかけて来た彼女の目は、幾つもの感情で支配されていた。

恐怖、不安、孤独、後悔、諦め・・・・・そして、それは俺が鬱病になった時の目と似ていた。

俺は、何も言えなかった。

彼女を理解してやることは俺には出来ない。

自分のことを理解していない相手からの、安い言葉は、更にその人を傷つけるだけだ。

それは、過去の経験からも分かっている。

恐らく、彼女は前世の俺よりも辛い経験をしている。

そんな彼女に、俺は何も出来ない。

俺が黙り込んで俯いていると、麗香さんが彼女の頭を優しく撫でる。

同情とか、共感とか、理解とか、そんな意味のない、無駄で無意味で、人を傷つけるだけの

手じゃない。

ただただ、優しさ・・・それだけ。

同情は 他人事 みたいな感じがして嫌いだった。

でも、麗香さんのは同情じゃなくて、ただの優しさ。

自らが、彼女のことをまったく分かっていないと示しながら、分かってあげようとする、

真の優しさ。

無駄に共感しようとしたり、アドバイスしてきたりする者なんか比べ物にならないくらい、

安心できる手。

普段は、冷たくて、淡々としていて、お礼も言わない様な麗華さんが、こんなに

優しい手つきで子供の頭を撫でられたなんて、誰が分かっただろうか。

獅子族の子供は、涙を流しながら、静かに自らの語ってくれた。

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