第86話
子犬の後ろに付いて暫く走っていると、川の流れる音が聞こえて来た。
そうして、もうしばらく走ると、月の光に照らされて輝いている川が目に映った。
俺は異空間道具箱の中に入れていた、冒険用の水筒を取り出して、中に川の水を一杯に詰めると、
子犬を抱きかかえて、麗香さんの下へと急いだ。
洞窟へと帰って来た俺は子犬を降ろし、麗香さんの頭を軽く持ち上げて、
口の中にゆっくりと水を流し込む。
続けて、俺は上の服を脱いで、麗香さんの頭の下に敷いた。
結局、柔らかそうな物を見つけられなかったから、今はこれで我慢してもらうしかない。
・・・これで、やっと一息付けるな。
今日は色々とありすぎて、未だに混乱している。
まあ、展開がとてつもなく早いのはいつものことだけど(汗)。
今日は、見張りをしながら麗香さんの面倒も見ないといけなし・・・眠れないな。
一晩中気を張っていたせいで、めっちゃ疲れた。あと、めっちゃ眠い。
はぁ、睡眠が不要だった頃が懐かしいなぁ(涙)。
それはさて措き・・・麗香さんの熱は一晩の内に完全に下がって、今は全てが安定している(多分)。
急に話が変わるんだけど、俺は一晩中、今後について考えてたんだよね。
まあ”どうやって帰るか”についてが殆どなんどけど(汗)。
多分、レティシア姫誘拐(救出)の一件で各都市とその交通網の警戒が厳重になってると思うんだよね。
ええっと、要約すると『めっちゃ帰りづらくなってる』ってことかな?
「クゥ~ン」
なんて考えていると、子犬が俺の足を”トントン”と叩きながら、物欲しそうな目で見つめてくる。
そう言えば、この子は俺に付き合って昨日の夜から何も食べてないんだったよな?
「悪かったな。一緒に食べ物を探しに行こうか」
と、俺は子犬の頭を撫でた。
・・・んだけど、やっぱり麗香さんを一人ここに残して行くのは不安だなぁ。
どうしようかと考えている時、洞窟を出てすぐにある木の枝に小鳥が止まっているのが目に入った。
そこで俺は新しく手に入れたスキル(死霊術師に進化した時)のことを思い出し、針の様に細く小さい形の『水弾』を作ると、小鳥の頭を狙って放った。
『水弾』は見事に命中して、小鳥は木の枝から落ちる。
何故、こんな惨いことをするのかって?
まあ、その、非常事態だから、仕方ないのよ。
軽く説明すると、俺が新たに手に入れたスキルは『死霊術』、そのまんまだね(笑)。
{死霊術:媒体(生物の死骸)を元に、簡単な命令を聞く『死霊』を作りだすことが出来る。}
規制スキル(法律で使用制限が掛けられているスキル)に指定されているスキルでもある。
理由は・・・どんな生物にも適応できちゃうし、無限に作れちゃうから(汗)。
それに街中とかだったら、異臭問題とか、下手をすると腐った肉を
街中にまき散らしたりすることになるから。
まっ、詳しい話はまた今度にして、『死霊』に洞窟周辺の見張りをやってもらおうと思ったのだ、
小鳥には申し訳ないけど。
(ついでに、死霊術のことはエリゼさんから教わりました。)
俺は仕留めた小鳥を食べようとしている子犬のことを押さえながら、『死霊術』を行使する。
すると、死んでいたはずの小鳥が動き出した。
「あの洞窟に近づこうとしている存在を見つけたら、俺に報告してくれ」
俺はそう言って、小鳥を空に放った。
・・・こういうところだけは、しっかりとファンタジーしてるんだよな。
ところで、ファンタジーしてるってなんだろう?
子犬は、小鳥を食べさせてくれなかったことでなんか拗ねてるし、さっさと何か食べ物を探しますか。
ここでお世話になるのが『探査魔法』。魔石集めの時にも、リネットちゃん探しの時にも
役に立ってくれた、かなり優秀な魔法君だ!
原理は既に(第4話で)説明してるから、省かせてもらうZE!
と言うことで、『探査魔法』で見つけた動物を狩ったり、食べられそうな木の実を集めたり。
ここでもなんと、この子犬が活躍した?!こいつ、意外とこの辺りのことに詳しいみたいで、
獣道を教えてくれたり、食べられる木の実がある場所を教えてくれたりと・・・
子犬とは思えない働きをしてくれた。
「アンアン」
そして何故か、終始楽しそうにしてた。
もしかすると、こいつは家族と離れて暫く経つんじゃないのか?
この辺の地理とかにも詳しいし、子犬にしては頭がよすぎる。
でも、まあ、今は考えなくてもいいだろう。今はこいつと俺の食事、
そして麗香さんが目を覚ました時の食事のことを考えておかないと。
・・・こういう時は、胃に優しい系の物の方がいいのかな?その辺りは詳しくないんだよねぇ。
まっ、肉も木の実もあるわけですし、何とかなるでしょう!うん!!そういうことにしておこう!!!
~死霊術に関する法律のちょこっと説明篇!~
1:冒険者又は騎士や自警団などの、武力行使が認められている組織に属している者以外の死霊術の
使用を規制する。
2:人、魔物、一部の魔獣への死霊術の行使を禁止する。
3:異臭防止のために、死霊を町や村などに連れ込むことを禁止とする(一部例外有)。
・・・etc
(異世界なのに、意外と法律がしっかりとしている(汗)。)