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ヴォルターが近づくと、ハンスの鼻に何時ものそれがやって来た。ヴォルターからは外国の香水、例えばスイスやフランスのような、クラスメートの誰とも違った爽やかな香りがぷんとするのだ。
「調子はどうだ? ハンス?」
こっちは絶好調だ、と続ける代わりにヴォルターは募金缶を横に振る。ジャラジャラと硬貨が擦り合う音がして、羽振りの良さを伝えていた。ハンスもまた、応答をする代わりに募金缶を振る。カランカランと、幾つかのコインが缶の中でぶつかる音がした。
「こんな調子…… 僕には無理だよ。やっぱり……」
俯いたハンスの顔は青く、元気が無い。ヴォルターはそれを払うように、ことさら陽気に話しかけた。
「そんなことはないって! まだ始まったばっかりだぜ」
「でも……」
「いいか? お前は出来るやつだ。結果が伴わないだけで、他の誰よりも頑張れるやつだ。俺が言うんだから間違いない」
「ちっ、違うよ」
「全くなー。ちょっとは自信を持てよ。わかった! コツを教えてやる。ざっと掴めば、後はお茶の子さいさいだ。いいか」
ヴォルターは自然な声の掛け方から、稼げそうな時間帯まで、事細かに教えてくれた。それは学校の先生の授業よりも親身で、また楽しく愉快にさせるものばかりだった。ハンスは彼の洗練された身振りや格好、ましてや人を惹きつける朗らかな調子を持てずに、形だけ真似たところで、それが無駄に終ることを知っていた。けれど、本当に熱心に教えてくれる姿に心打たれて、話の区切り毎に真剣に頷いたのだった。
ハンスは勉強も運動も下から数えた方が早く、何をするにしてもドベの方に残る何処にでもいる落ちこぼれだった。一方ヴォルターは勉強も運動もよく出来て、何をするにしても一番で、人当たりも良く話上手だったから、街が誇るような人気者だった。ハンスのような子にも優しく接するその姿勢こそがヴォルターの人気を不動のものとしていたのだが、とにかく二人は親友であり、それはハンスにとって心から嬉しく有難いものだった。
最後にハンスが力強く「うん!」と答えると、ヴォルターは照れくさそうに笑いながら募金活動へと戻っていった。その別れ際に思い出したかのように
「なあ。グスタフって奴、知ってるか?」
「うん、一つ上の学年の……」
「小汚い方法で、金を集めてるって噂だ。一応、気をつけとけよ」
「ん…… 負けないでね」
「んっ? 何だ?」
「負けないでね! そんなのに! ヴォルターが一番になるって、僕、信じてるから!」
「おう! 負けるもんか! お前も頑張るんだぞ!」