ハーフビラ 妖精と妖精憑き
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〜グローside〜
「う〜ん。・・・そろそろだよ〜。注意してね〜」
「わかったわ。」「はい。」
グローたちは目的地のすぐそばまで来ていた。
そして息を潜めながら洞窟に近づいていく。
グローが先頭になり、前方に神経を研ぎ澄ます。
バイルはサイドの異変をチェックする。
ヂーラは後方と広い範囲の索敵をする。
あと少しというところで、グローが片腕をあげる。
ストップの合図だ。グローが先陣を切り洞窟の入り口の横に張り付く。
中を伺う仕草をする。
と、中からコツコツと音が響いてくる。
足音のようだ。バイルはグローを見る。
グローは、動くなとまたもや片腕をあげる。
ここの洞窟一帯にものすごい緊張感が走る。
コツ・・コツ・・コツ・コツ
徐々に、その靴音の正体を日が照らす。
そして、同時に声が響く。
「ほほほほ。お客様とは珍しい。私とトルーどちらに御用でしょうか。」
グローは片手を上げながら男の前に出る。
「あんたか〜、うちにちょっかいかけたのは。」
「はて、なんの話でしょう?」
「とぼけるな。・・・子供たちはどこにいる?。」
グローは上げていた手とは反対の手を背中に回し、例の伝書コットに最小限のオーラをスッと流す。すると、伝書コットはまるで生きたかのように羽ばたきグローの後ろ・・・男の死角になる位置から飛んでいく。その時・・・
”ピュン”
洞窟から現れた男から、紫の光が飛び的確に伝書コットを撃ち抜いた。
グローの額から汗が垂れる。
洞窟から出てきた男はものすごいプレッシャーを放っていた。
「おお。大事なものでしたかな。これは、失礼。てっきりモンスターの類かと。お客様を傷つけては紳士の名折れですから。」
男はシルクハットを取り、背筋を恐ろしく伸ばしお辞儀をする。
「それと・・・後ろに居られる方々も私たちに御用がおありのようで。よろしければご案内致しましょう。久しぶりの客人にトルーも喜びます。」
そう言って男はニコッと君の悪い笑顔を作る。
グローは、上げていた手を下げて男を睨む。
「ねぇ、僕の質問に答えていないんだけど〜?子供達はどこ?いるよね〜?」
手の合図とともに武器を構えた二人が立ち上がりじわじわと男に詰め寄る。
「せっかちな方ですね・・・。ピーチクパーチクと・・・。そんなに煩いと、立派な紳士には慣れないですよ。」
「僕、紳士目指してないし〜。」
グローは軽口を叩きながらも、男を睨む。
「はぁ、困った方だ。言っているでしょう、案内すると。トルーも待っていますし・・・ついてきなさい。あぁ、3人全員ですよ。残る方がいましたらお申し出ください。楽に殺して差し上げます。」
そう言う男から、尋常じゃない殺気が漏れる。
グローを中心に固まる。伝書コットが無くなった今誰かしらが呼びに行くべきだろうが・・・優先は子供達の安否だ。それに下手に動くとここで戦闘になってしまう。子供達がどこにいるかわからない今それは避けたい。
「どうしたんですか。まさかここまできて、全員が残るとは言いませんよね?」
男は、どっちでもいいぞと不敵に笑う。
グローは二人が近くにいることを確認し
「わかった。」
と一言だけいい、足を進める。
二人も後についていく。
洞窟をあり得ない緊張感の中で、進んでいく。戦闘をいく男は杖を回し上機嫌だ。
グロー達はものすごく長い時間が流れているような感覚に陥りながら進む。
しばらく進むと、少し灯りが見える。
どうやら、そこだけ洞窟の天井が抜けているようだ。
「あら、アヴァ。お客さんそんなにいたのね。」
その光の真ん中にいる、小さい女が声を出す。
あれが妖精だろうか。
「えぇ、トルー。この方が、子供達がどうのとうるさいのでね。トルーの楽しみになればと連れてきたよ。」
「まぁ!それは、いいわね!あなたち、あの子達の親なのかしら?」
そう言って、トルーと呼ばれた妖精がグロー達3人の周りを飛ぶ。
「親にしては、若いわね。あなた、マスクしているけど顔は好みよ。うーん、私あなたみたいな女嫌いだわ。あなたはまだまだ青い果実ね、熟すまで待てないわ。」
散々な言われようにすぐにでも殺しに動きたくなるが、我慢する3人。警戒は解かない。
「で〜?子供達は、どこにいるの〜?」
「そうだったわね。いるわよ。奥にいるわ、ついてきなさい。」
そう言って妖精は、奥に飛んでいく。
3人はどうやら子供達が生きていそうなその妖精の口ぶりに安堵する。
だが、その影でトルーの口は楽しそうに歪んでいる。もちろん3人には見えていない。
それぞれ、武器を強く握りながら進む。やがて奥の方への入り口をくぐったその先の光景に絶句する。
真っ赤な壁一面に、人体の一部と思われる物がいくつも花の形をして置いてあり、子供の皮膚や髪の毛などで奇妙なデザインが描かれている。
「ほら〜、私の可愛い玩具達こちらにおいで〜」
そうトルーが言うと、ふらふらと顔から精気が抜け落ちた3人の子供達がやってくる。
この光景に、バイルは顔を青くし今にでも吐きそうだ。グローは持っている剣をカタカタさせている。ヂーラは、怒りを抑えるのに必死のようだ。
「どう?私の玩具かわっ・・!」
「トルー!」
トルーの言葉を途中で遮り、首に剣を突き立てたのはグローであった。
バイルとヂーラは子供達を担ぎ奥の方へ下がる。
「・・・なんのつもりよ」
「僕、こういうの大っ嫌いなんだよね。」
そう言って、グローは妖精の首をかっきろうとするが妖精はスルッと抜け出し代わりにアヴァと呼ばれる男の紫の光が飛んでくる。
「っ!!!」
グローは光を弾き、バイルとヂーラが戻ってきたところで体制を整える。
「ふふふ。いいわね、真ん中のあなた。その目とても素敵よ。もっと見せてちょうだい。」
「うるさい。」
グローは剣から斬撃を二発放つ。後ろからバイルが矢を放ち、ヂーラが飛んでくる紫の光に対処する。3人の連携は初パーティーとは思えない程に完璧だった。
戦いが今のにも始まりそうな時、トルーは焦って怒っていた。
「ちょっと!アヴァ!壁壊れたらどうすんのよ!」
「ご、ごめんよトルー。」
「ほんっと、使えないわね。あなたちも!ここで暴れないで。」
トルーが扇子を広げて、黒い風をお越しグローたち3人を先ほどの明かりの指す方へ吹き飛ばす。
「うん、これでいいわ。」
トルーとアヴァも、広い方に移動する。
が、入り口を抜けた瞬間に耳の中をヂーラの叫び声が荒らす。
「・・・なぜ子供達をあんな風にしたんだ!」
トルーはその質問に妙な昂りを見せ、顔がうっとりと赤らむ。
「ふふふ・・・なんで?そんなの、決まってるじゃなぁい。私は子供の希望から絶望に落ちた時の顔が好きなの。だけど、そんな新鮮な表情は幸せに生きてる子供からしか取れないのよ、残念なことにね・・・で、絶望に染っちゃったら面白くないから可愛く飾ってるってわけ。優しいでしょ??それに、私は子供の幼い魔力が大好きなの〜」
満面の笑みで意味のわからないことを嬉々として喋るトルー。
そこに、アヴァと言う男が補足を加える。
「トルー。ここでは、魔力はオーラと呼ばれているよ。」
「どうでもいいわよ、そんなこと。」
アヴァの発言をバサッと一刀両断するトルー。
アヴァは小さくなってごめんと呟く。
一方、グロー達はトルーのあまりのいい様に怒りが身体中を駆け巡り今にも爆発しそうで肩や腕が震えている。
その表情を見たトルーが嬉しそうに言う。
「ふふふ、そう!その怒った顔も好きよ!だけど・・・子供には負けるわねやっぱり。」
トルーが、そう言った途端ヂーラが走り出す。
ヂーラの目の前に、アヴァが立ち塞がりヂーラに向けて光の鞭を出す。
それを死角に、グローはトルーの後ろへ回り込む。
”タルーボ”
グローの剣から、ものすごい量の風が出て一直線にトルーへ向かう。
トルーは、扇子を構え黒い風でグローの風を霧散させる。
そこへ、バイルの放った矢が上から降ってくる。
トルーを囲んだ八本の矢は、トルーの逃げ道を塞ぎ直撃しそうになる。
・・・が、それを見たトルーは目に見えぬ速さで扇子を仰ぎ矢を弾く。
そしてものすごい殺気をのせた黒い風をバイルに向けて放つ。
「あなた、邪魔だわ。」
バイルは、その風のあまりの早さに最低限の防御しかできず体を硬直させる。
その瞬間バイルとトルーの間にグローが入り、風を正面から受けて壁に叩きつけられる。
「グロー!!!」
バイルがグローに駆け寄ろうとする。
そんなバイルの耳に背筋が凍るような冷たい声が脳を冷やすように入ってくる。
「ふーん、あなた達・・・そう言うことなのね。面白くないわ。」
バイルの背中に悪寒が走る。
そして、トルーはバイルの首筋に噛みつく。バイルの首もと肩は血が少し滴っていてトルーはその赤く煌めく血を吸っているようだ。バイルの顔は青ざめ、力が抜けたように座り込み、首筋から離れたトルーは満足そうな顔をしてバイルの前に回り込む。
「さぁ、あなたも私の魅力に溺れなさい。」
そう言って、バイルを黒い風で包みこむ。
「いやぁぁぁあああ!」
洞窟に響くバイルの声。
崩れた瓦礫から、グローが勢いよく叫ぶ。
「バイル!」
その声に振り返ったトルーの顔は嬉しそうに歪んでいた。
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〜ヂーラside〜
なんだ、この男。・・・何回攻撃してもまるで効いていないかのようにピンピンしている。
「あなたは何を考え込んでいるのです。ほらほら、ちゃんと戦いなさい。」
「っく!」
男から出る紫の光は、鞭のようなしなる動きをしながらヂーラを襲う。
ヂーラも得意な棒術で応戦するが、なかなか攻めの筋が見えて来ず防戦一方になりつつある。
「はぁ、防戦だけじゃ面白くないですよ。久々の戦いだと言うのに・・・残念です。」
心底残念そうに言うアヴァにヂーラは焦りを隠せず叫ぶ。
「うるさい!お前一体なんなんだ。ただのアンゲルじゃないだろう!!」
「私をあんな下劣な種族の一員にしないでいただきたい。」
ヂーラの言葉を聞き明らかに不機嫌になるアヴァ。
そして、アヴァは片手を胸に回し呟く。
”シラカス”
紫の光の鞭が何本にも増え、男とヂーラの周りを丸く囲む。
今までは一方向からきてた紫の光鞭が同時に五方向から向かってくる。
っつ!!
心の中で舌打ちしたヂーラは目を瞑り集中する。
”へカントケイル”
ヂーラの棒と腕がヂーラの体の周りからいくつもも出てきて、鞭を弾き返していく。
その技を見て、さっきとは打って変わって笑顔見せるアヴァ。
「ほほほ。いいですね〜。戦闘はこうでないと。」
そう言ってアヴァも腕を広げ手数を増やす。
ヂーラもそれに対応する。
そして、ヂーラの手数が上回り男の鞭を全て弾き返した。
その瞬間正面が空き、アヴァとヂーラの間の時間がものすごくゆったりと流れる。
ヂーラは地面を蹴り、真正面からアヴァに近づく。
アヴァも咄嗟に後退しながらも攻撃を入れようとするが、ヂーラの方がわずかに早かった。
そして・・・ヂーラの攻撃が多重に入り男は吹っ飛ぶ。
ヂーラは追い討ちをかけようとするが、バイルの悲鳴が洞窟に響き渡る。
「いやぁぁぁあああ!」
ヂーラは思わず振り向きそっちに向かおうとする。
・・・が、それを見逃さなかったアヴァの鞭が後ろから伸びている事に気づかず足を取られてしまう。
・・・しまった!
「油断は禁物ですよ。青二才。」
そう言って、男はヂーラを鞭で拘束し壁へと打ちつける。
「ほほほ、どうです?痛いですか?」
ヂーラは肩を強打したようで肩から多量の血が流れ、意識が途絶える。
アヴァは、まるでゴミを見下ろすように冷たく視線を落とす。
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〜グローside〜
瓦礫の中から飛び出たグローは、バイルの元へ走り出し傍にいるトルーに向かって斬撃を放つ。
トルーは歪んだ口元を扇子で隠しながら飛んで裂ける。
バイルを包み込んでいた黒い風が止み、ぐらりと倒れ込むバイルを抱き上げサッと後ろへ後退するグロー。
「あらあら、あれを受けてそんな動きができるなんて大したものね。」
トルーは扇子を閉じ、余裕そうな表情を浮かべる。
「黙れ!」
そう言いながら、グローはバイルの口にポーションを流し込むが・・・バイルが気を失っているせいかうまく口の中に入って行かない。
「無駄よ。そんなもの。私の魅力には叶わないわ。」
「バイルに何をした!」
グローは抱いていたバイルを降ろし、ものすごい速さでトルーに突っ込む。
そしてトルーに向かって剣を振るうが、トルーはなんとも無いかのごとくひらりと避け、おしゃべりを楽しむ。
「ふふふ。隷属♪」
「隷属!?」
「そうよ♪血の契約をさっき交わしたの。恐怖が混じってる血って最高に美味しいの。・・・ちなみに、隷属された子って容姿はそのままだし私が死ねっていうまで死なないわよ♪良かったわね〜♪」
グローが怒りのあまり顔を歪める。
もちろん、攻撃の手を休めてはいないはずだがトルーは風に舞い散る木の葉のごとくひらりと体を返す。埒が明かないため、一旦正面に回り込みオーラを練ろうとするグロー。
その時、後ろからグローにグサッと何かが刺さる。それはグローを貫通し、床に刺さった。グローはその見たことあるものに目を見開き足を止め振り返る。
トルーは恍惚な表情をし、顔を赤てうっとりとした声を出す。
「あぁ。素敵だわ。」
振り返ったグローにまたもや矢が飛んでくる。
そこには、顔が真っ青になっていて無表情なバイルが立っていた。その目には涙が伝っていた。
飛んできた矢をグローは剣で弾き返すしたが・・・その表情はとても言葉では言い表せないものになっていた。
グローの中にどす黒いものが込み上げる。
「うぉぉぉあああ!」
体の奥底から出た叫びだった。
もう一度振り返りトルーに飛びかかる。
バイルの矢が背中に刺さるが気にもせず、血が滲む剣にありったけのオーラを纏わせトルーの黒い風に引けを取らないほどの風を作り出す。
そんなグローを見たトルーは、体をくねらせ目はグローを通り越して明後日の方を見ている。
「やだぁ!!もう興奮しちゃうぅぅ。」
そう言いながら、トルーはグローじゃなくてバイルに攻撃を放つ。
それを見たグローは、すぐ様切り返しバイルとトルーの攻撃の間に入る。
「ぐっ!!!」
トルーの方向に向いているグローは、バイルに後ろから矢で射抜かれ、トルーの攻撃はギリギリ剣で弾かせようとするが体勢が崩れたためか頭をかすってしまう。
生暖かいものが頭から流れ地面に赤いアートを描いていく。
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