ハーフビラ 訓練と伝説
....................................................................
〜次の日〜
「っはぁはぁ・・・」
「ほら〜!まだ続けるよ〜!」
俺とラル、そしてグローと今日はヂーラが訓練場で励んでいる。
「あ!今のずるい!」
「ははは〜!戦いじゃずるいなんて言ってられないよ〜!」
「くそー!」
そう、ただいまグローとぬいの千本ノックならぬ千本剣撃の最中である。
ぬいは、ひたすら剣を躱し必要な時は防御する。グローは突きや回り込み、フェイント等の技をしかけて剣に緩急を付ける。
先程オーラは使わないと言ったはずなのに、急に剣撃を飛ばしてきたのでぬいは怒っている。
「そっちが、その気なら俺も!!!」
|"フェリ・ベスティギア"《猫の足跡》
「っ!!!」
その時、ぬいの渾身の一撃が繰り出される。
ぬいは朝、少しでもグローを見返そうとオーラを使ったオリジナル技を練習していた・・・。
「なぁ、ラル。やっぱり技を使う時って名前とかあった方がいいの?」
「んー。あったら使いやすいというか、ここぞって時に頭にスっと浮かぶよ。」
「そうなのか・・・。じゃあやっぱり考えるか・・・」
「どんな技?」
「こう、手を当てた時に風を圧縮した空気が出るようになったんだけど」
そう言って、ラルにやってみせる。
スっと地面に置いたぬいの手から、四つの旋風と真ん中の球体に留まっている風が出る。そして手をクイッと体の方に捻ると地面に奇妙な形をした跡が大きく残った。
「ぬい!すごい!そして可愛い」
そう言ったラルはぬいを抱き上げ頬にスリスリする。最近、ラルのスキンシップが大胆になってきたが嫌ではない。むしろ好きだ。だけど、少し照れくさいのでスっと地面におりる。
「ラル、ありがとう」
「うん。ぬい天才。」
そんなやり取りが朝にあった。
今、ぬいの前にいるグローの肩には4つの楕円とその下に少し大きく丸い跡が洋服を破きくっきりと残っている。
「やるね〜いや〜楽しいよ!」
「なんでそんな笑顔なんだよ!」
まだまだ続く剣撃とグローの余裕な表情を見てイラッとするも、ちゃんと発動しグローに当てることが出来たので気分があがる。
「うんうん〜ちょっと余裕出てきたみたいだし少し早くするよ〜!」
「うわ!おい!」
そう言って、どんどん際どく鋭いところを狙ってくるグロー。さすがに目で追えなくなってきて1度距離を取る。
「っはは!楽しかった〜。ぬい、休憩しよう。」
「ぬい、よく頑張った」
そう言って、ラルが俺を持ち上げる。そして撫でてくれる。うん。俺頑張った。
「なかなかやりますね、そのにゃふ。」
「でしょ〜。最近の僕の楽しみ〜」
「ぬいは天才。」
なんかべた褒めオンパレードで顔が熱くなる。ラルの手からおりて少し離れて空を見てみる。ふぅ、落ち着け俺。
「なんか〜照れてるね〜ぬい。」
「あれ、照れなんですか。」
「ぬい、可愛い」
恥ずかしいが悟られないように、すまし顔をする。褒められ慣れていないからしょうがない。どうしたらいいか分からないもん。
「さて〜それじゃ、次はラルとヂーラね〜。僕も少し見てるよ〜。」
「こんな可愛らしい人に怪我をさせないか心配です。」
「大丈夫〜。そんなこと言ってると君が怪我するよ〜」
「行くよ。ヂーラ」
そう言って、2人は位置につく。
グローが間に入りスタートを切る。
俺は大人しく座り2人の様子を見る。
そして、グローが俺の隣に座る。
一対一で話すのは初めてかもしれないな。
「ぬい〜、一体いつあんなことできるようになったの〜?」
グローが試合をボ〜ッと見ながら聞いてくる。
俺もラルを見ながら応える。
「今日の朝、練習した。」
「へ〜。それであれだけ威力出たのか・・・やるね〜。」
「一度、似たようなのグローにやっただろ?あれをもう一度再現しようとしたんだけど、微妙にしっくりこなかったからちょっと変えてみて今のが出来たんだ。」
「そっか〜。・・・ちなみに、ぬいはどこまで知ってるの〜?」
それまで試合しか見ていなかったグローがこちらを真剣な眼差しで見てくる。
なんの話かさっぱりわからないが、会話の空気が変わったので俺もグローの方を向いてみる。
「ん?何を?」
「ラルのこと〜」
ラルのこと、美しい・銀髪・ツノも綺麗・強い・優しい・一緒にいると落ち着く・・・どこまで?
「う〜ん、改まって言われるとな〜。どこまで?ん〜?」
「そっか〜。まぁ、そんなもんだよね〜。本人も自分のこと知らないだろうしね〜。」
なんだこいつ、ムカつくな。
俺は、そのムカつきを全面に出して口調も強くする。
「そういうお前は何か知っているのか?」
「え〜知らないよ〜。」
グローの顔がへにゃっとなる。
なんなんだこいつ。
「なんだよ。じゃあ、何が言いたいんだ。」
「うーん。じゃあ、この国については?」
また、話そらしやがって!
でも、そういえばここの国のことを教えてくれたのはラルだったな。
「あ〜、それならラルが教えてくれたぞ。アーエって言う国で、確か自由で愛が溢れる国とかって言ってたな。」
「じゃ〜、ホーキーについては?」
「なんだよ、質問ばっかり。ホーキーは確かアーエの王族で純種とか言うやつだろ?」
「ピンポーン。うん、よく知っているね。」
「だから、なんなんだ。気持ち悪いぞ」
「はは、いや〜悪いね。じゃあ、ハンターについては何も聞いてなさそうだね。」
「ハンター?」
「そう。モンスターを狩ったりその腕っぷしを生かして野良の傭兵とかするんだ。」
「へ〜。職業ってやつか。強い奴が多そうだな。」
「そう。で、多分ラルはそのハンターになりたいって思ってる。」
「ん??なんでそんなこと知ってんるんだ?ラルが言ってたのか?」
「いや、勘だよ。僕も一応元ハンターだったんでね。」
「!!そうなのか。へ〜だから強いのか。」
「そう〜。まぁ僕の場合、期間が短かったからね〜。あんまり強さに拘ることなく純粋に冒険を楽しめたよ〜。」
「へぇ。そうなのか。で、ラルがハンターになるのになんか問題があるのか?」
「いや、なること自体は問題はない〜。ただ彼女の容姿というか〜、彼女はすごく珍しい髪と目をしているんだ〜。ぬいと一緒でね。」
「なんだ?それで差別とか?」
「うん。ある程度雑種には純種に近い何かがあるんだ絶対ね。僕の此処とか、バイルの気持ちい胸の羽とか。」
「おい。」
「まぁ、要するに。ラルはどの種族にも当てはまらない。」
「??本人は、ノーマとアンゲルって言ってたぞ。」
「オーラはね〜。オーラというか・・・ノーマには念、アンゲルには魔力って呼ばれてる〜。」
「あ、そっか。呼び方がそれぞれ違うんだったな。」
「そう〜。見た目はね〜、ノーマは総じて髪は黒いんだ。あと角もあるね。アンゲルは、金髪で長く尖った耳がある。両方とも目はいろんなタイプがいるんだけどね〜。」
「ん〜?なら、髪だけじゃないか?変わっているの。」
「それがね〜、ラルの場合、耳は尖っているけど長くないし、角もあるけど普通はあんなに目立たないんだ。」
「そうなのか。」
「だけど、そのラルの容姿と重なる者を聞いたことがあるんだよ。それは伝説上の者なんだけど〜・・・」
「けど?」
段々話に吸い込まれていく俺。
こいつが何を言いたいのかいまいちわからないがなんだか壮大な話のような気がする。
すると、グローの目がちらっと試合中の二人をみる。
「残念〜、此処までみたい〜。二人がもう終わる。」
すごい気になる。なんでこんな気になるところで終わるんだ。
そう思いながらも戦っている二人を見る。
”叉ラターレ”
ラルが、まるで重力を感じていないようにトントンとヂーラの周りを回る。
ヂーラはラルの動きが掴めないのか、棒を構えてじっと様子を窺っている。
ラルがヂーラの真上に飛んだ、ヂーラも目で追いかけ此処ぞとばかり棒を築き上げる。
その瞬間、ヂーラの足が崩れ倒れる。そして、気づくとラルがヂーラの首の横に刀を刺し見つめていた。
「はぁ、参ったよ。お嬢さん、強いですね。」
「ふぅ、勝てた。」
グローは立ち上がり、二人に近づく。それに俺も走りながら着いていく。
「お疲れ〜二人とも。」
「ラル、お疲れ。」
そう言って、俺はラルの肩に乗る。ラルは浅く肩で息をしているので俺も少し揺れる。
グロ〜はマスク越しだが笑顔なのがはっきりとわかる。
「いや〜いい勝負だったんじゃない〜?」
そんなグローの問いに先に答えたのはラルだった。
「うん。負けそうだった。」
「いや〜、まさか此処まで強いとは。次回が欲しいところです。」
そう言って、ヂーラは悔しそうにラルを見つめる。
グローは、ぱちっと手を合わせて視線を集める。
「さて、じゃあ〜この後だけど〜、ぬいは昨日と一緒で鬼ごっこね〜。」
「わかった。」
鬼ごっこは約束だからな。今日こそは参ったと言わせたい。
「ヂーラくんは、ガミルのとこ行って大丈夫だよ〜。」
「うん。今日は楽しかったです。ありがとう。」
ヂーラはペコっとお辞儀をする。本当に礼儀正しい青年だ。
グローは嬉しそうに首を縦に振る。
「ラルは〜、昨日と同じようにバイルと櫓にお願い〜。」
「わかった。・・ぬい頑張って。」
ラルは肩にいる俺の手をフニフニしながら励ましてくれる。
俺はコクっと頷く。
そしてラルの肩から降りて、グローの足元に行く。
ラルは、ニコッと笑って口を開く。
「じゃ、行ってくる。」
「それでは、私も。」
「いってらっしゃい!」
「じゃ〜またね〜!」
俺とグローは二人を見送る。
二人の背中が見えなくなったところで俺はモヤモヤを晴らすためグローに声をかける。
「で?話の続きは?超気になる。」
「うーんと、伝説上に似た者がいるってとこまで話したよね〜。」
「そう。そこから。」
「僕も伝説についてはあまり知らないんだ。このことはシャークの聖女から聞いてね〜。
その聖女からはあんまり広めないでって言われただけど〜。」
「ん?シャーク?聖女?」
はぁ、聞き慣れない言葉で全然わからん。
「シャークはアクァっていう国の純種。そこで、聖女と呼ばれる5人の中の一人と話したことがあってね。聖女は教会で怪我を直したり神にお祈りをして民の支えとなるんだ。」
「へ〜、そんな職業もあるのか。」
「まぁ職業というより、生まれ持った定めって感じだったけどね〜。王様みたいな〜。」
ふーん、王様か〜。今は正直どうでもいい。
「へ〜。そうなのか。それで?」
「金と銀の輝きを持つものが現れる時、古の傷跡が蘇る。だったかな〜。」
「金と銀の輝き?古の傷?」
「そう、その聖女がいうには。金と銀ってのは容姿のことだと思うって。髪とか目とか・・・」
「なるほど・・・ラルだな。」
「そう〜。詳しい話はわからないんだ〜。だけど、ラルを見た時にその話を思い出してね〜。聖女はこうも言ってた。あなたたちの周りにそんな方がもし居たり現れたりしたらどうか純種とは関わりを持たないで欲しいと伝えて。必ずトラブルに巻き込まれる。ってね〜。」
「なんだそりゃ。」
純種と関わるなって、相手は王族とかだろう?こっちから関わることなんてないんじゃないか?
「まぁ、普通にハンターやるくらいならそんなに関わることないから大丈夫だと思うんだけどね〜。それに、ラルが本当に伝説と関係あるかもわからないしね〜。」
「ふ〜ん。で、俺に気をつけて欲しいと。」
「そう、俺はバイルと子供作って家庭を持ちたいからね〜。ラルにはついて行ってあげられないんだよ〜。」
「でも、俺。そもそもにゃふだし、しゃべったら変みたいだからな〜。あんまり自信ないな〜。それに、まだラルがハンターやりたいって決まったわけじゃないからな。」
「うん〜。そうだね〜。あ、リッギさん来たし。この話は此処まで。聖女にも広めるなって言われたし、ぬいも内緒ね〜誰にも言っちゃだめだよ〜。」
俺は素直に頷き、リッギが来るのをじっと見つめる。
リッギは、いつもの爽やかスマイルだ。
「ごめん、待たせたね。ヴァンリーがうざかったからちょっとね。」
「ヴァンリーならしょうがないですね〜。」
いつもふっかけあってる二人が今日はヴァンリーのことで意見が合っている。
「さ、遅くなる前に始めようか。」
「賛成〜。」
「わかった。よろしくお願いします。」
「よし。スタート」
そして二人は飛び、姿を消す。
こうして、また音が鳴らない鬼ごっこが始まったのだった。
…………………………………………………………..
〜自警団拠点〜
「ゴス!ゴスが気がついたと!!!」
そう言って慌ただしく入ってきたのはガミルだった。
部屋の中には、ルーグ、ビーメ、そして上半身を起こしガミルを見つめるゴス。
ガミルの後ろにはヂーラもいる。
「ガミルさん。心配かけてごめんなさい。」
「いや、それより・・・大丈夫なのか?」
ガミルは部屋にヅカヅカと入りゴスの側へ行く。
「うん。もういつも通り元気。」
「ダメよ。もう少し休まなきゃ。」
ビーメはそう行ってゴスの持っていたカップを受け取る。
団長もゴスを宥めるように落ち着いた口調で話す。
「そうだな。まだ安静の方がいいだろう。顔色は随分と良くなっているがまだオーラは使わない方がいい。」
それに同意するガミルが、急にものすごい速さで頭を下げる。
「そうだぞ!ゴス!・・・すまなかった。」
「え!?なんでガミルさんが謝るんですか!?」
「俺は、普通より耳が良い。だから、村のことならどこからでも異変に気がつけると思ってた。・・・だが!!!実際はどうだ!!俺は何も気づく事無く終わって来てみればお前は・・・」
ガミルは頭を下げたまま、激しく悔やんでいた。
そんなガミルの背中に手を置いたのは団長だった。
「ガミル。そんなに悔やむな。」
「ですが!団長!俺はこいつの師匠なんです。俺が守ってやらねばならなかった!
俺の知らないところで倒れるなどあってはならない・・・。本当にすまない。」
団長の言葉に勢いよく頭を上げるが、後半に連れてもう一度頭を下げるガミル。
そんな、ガミルになんと言葉をかけたらいいかわからないゴスの表情はとても切なそうだった。
「ガミルさん・・・。」
団長は、そんなゴスを見て心配そうに言う。
「ゴス、まだ喋れるか?」
「はい。」
ゴスは、表情は変わらないがはっきりと団長に向かって頷く。
「なら、その時お前の身に何があったかここで話してもらえるか。」
団長のその言葉に、部屋にいる全員がゴスをみる。
ゴスは、思い出すように窓から外を眺めぼんやりと話し出す。
「はい。・・・あの時僕は、ガミルさんと被らない時間帯に大樹を見に行きました。
そこには大樹を見上げている男がいました。いるようで居ないようなそんな不気味な男です。
俺が剣を構えると、そいつはニコッと微笑んできました。気づくと傍にいて、"良い子は大人しくしていなさい。"と呟いてきました。俺が剣を振るうと素手で受け止めていました。そして僕の晶球に手を当ててオーラの流し込んできました。そのオーラはまるで、泥のように重く身体が言うことをきかなくなりました。意識も朦朧として吐き気もあって視界が暗くなってた・・・後の事は覚えていません。」
ゴスは全て話した後、団長を向き申し訳なさそうに俯く。
「そうか。分かった。ありがとう。」
全員がこの話を聞いて眉間に皺を寄せ空気を張り詰めらせていた。
団長が、またものすごく落ち着いた声でゴスに言う。
「もう、お前は寝るといい。まだしっかり休むんだ。ガミル、ヂーラ俺と一緒に来い、もう一度状況を洗い直す。グロー達からの報告もあがっているからな。行くぞ。」
ガミルとヂーラは素直に頷く。
「あなた。私はゴスのご飯を用意するために残るわ。」
「あぁ、ビーメ。よろしく頼む。」
ぬいがこの世界に来て4回目の夜が深けていく。風は吹乱れ、空は曇り今にでも雨が降りそうだがその雫はまだこのハーフビラには届かない。月明かりも届かぬ先が見えない闇は今日も深い眠り誘い静かで長い時間を紡いでいく。
.....................................................................
〜どこかの部屋〜
2人の男がいる。
1人は、机の資料に向かってひたすらに紙をめくり印を押している。
もう1人は、印を押された資料を集めわかりやすいように仕分けしていく。
「・・・そういえば、妖精憑きの噂が流れているらしいですよ。」
「妖精憑き?」
「えぇ、先日。麓のハーフビラの男が国家警備隊の方に依頼が出来ないか聞いてきたそうです。」
「・・・。」
机に向かっている男の手が止まる。
「まぁ、証拠もなく子供がいなくなるだけという事件だったようなので追い返したそうですが。」
「・・・。」
「南に位置するハーフビラだそうです。」
「何が言いたい?」
「いえ。これが本当であればハーフビラが4つほど消えるでしょうな。ただの感想ですよ。タリスリー坊っちゃま」
「坊っちゃまって言うな。爺。」
「で、如何なさいます?」
「妖精憑き・・・。」
完全に紙から手を離し、考え込む男。
「僕が行く。ここは叔父上に任せよう。」
「かしこまりました。」
そう言って、まとめた資料をもって男は出ていく。
「妖精憑きか・・・。」
高級そうな家具が重く並ぶこの部屋に似合わぬ少し高い声が静かに響いた。
.................................................................