ハーフビラ ハンターと鬼ごっこ
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〜櫓〜
ハーフビラの門の横に聳える櫓からは、村全体がよく見える。
そして、一番星の光る空の下。
紺の髪を靡かせ、洗練された体を風に預ける女性と
銀髪の長い髪に星の光を纏う、どこか儚げな少女が今宵のハーフビラに華を添える。
「バイル。お疲れ」
「あら、ラルじゃない!あ、そっか。グローはぬいちゃんと訓練しているのよね。」
「うん。なんか張り切ってた。」
「ふふふ。グローはぬいちゃんの才能にワクワクしているようだったわ。
今日のね、話し合いの時にあなたたちの話題も出たのよ。」
「そうなの?」
「そう、団長がね。一から十を全て順を追って説明をしていたわ。ちゃんとあなたたちのことを伝えたかったんでしょうね。」
「そうなんだ。」
「それにしてもぬいちゃんすごいじゃない!今日気配感知を覚えたのに早速ゴスを救って敵の情報まで手に入れたんでしょ?それを聞いたグローがとても嬉しそうにしていたわ。私、久しぶりに見たのよ、あんな顔をするグロー。・・・ハンターをやってた頃以来だわ。」
「ハンター。」
「そうハンター・・・。まだ、ラルには言ってなかったわよね。」
目を伏せるバイル。
「何を?」
「ハンターをやめた理由。」
「うん。聞いてない。」
「せっかく二人きりなんだし。少し長いけど聞いてくれるかしら。」
「うん。聞きたい。」
「ありがとう。いきなり言うとね、ハンターをやめたのは私のせいなの。」
「バイル?」
顔を上げないまま続けるバイル。
そんなバイルをラルは真っ直ぐ見つめる。
「ふふふ。大丈夫よ事実だもの。・・・グローと会ったのはこのアーエでハンターを始めたばかりの頃。最初は成り行きのパーティー5人くらいで組んでいて、各地を回ろうって若い者同士で張り切ってたんだけどね。やっぱり時間が経つにつれてそれぞれ道が分かれていったわ。」
そう言うバイルの顔は、出てきたばかりの月に照らされて美しく切なげに輝いていた。
「私はグローについて行くことにしたんだけど。世界は広いわねやっぱり・・・。驚きの連続だった。まだ、若輩の私たちにとっては険しい道のりだったわ。でも、それが幸せでもあったの。グローと乗り越える困難はいつも、過ぎた後には輝いていたわ。なんでかしらね。死にそうって思った後でも記憶の中では輝いているのよ。
本当不思議だわ。」
「冒険」
「そう、グローの顔はいつでも輝いていた。戦いなら尚更ね。でもね、今からちょうど三年前に私に病が見つかったの。」
「え?バイル、病気なの?」
「ふふふ、安心して?死ぬような病気じゃないわ。普通に生活していればね。」
「普通?」
「そう、私の病気はオーラの絶対量が減るっていうハンターにとっては致命的な病気なの。日に日に、オーラの回復が間に合わなくなって狩りの頻度もだいぶ減ってね。ついには全盛期の稼ぎの三分の一になってしまったの。」
「そんな・・・。」
「だから、グローが提案してくれたの。一緒にアーエに戻らないかって。
私たちはやっぱりホーキー寄りだから暮らすならアーエの方が体質的に会っているからね。そして、私たちはハンターをやめた。」
「そうだったんだ。」
「でもね、今でもふと思うの。グローは今でも冒険したいんじゃないかって。私に気を遣って・・・私が足枷になって彼を縛り付けてるんじゃないかってね。」
「バイル。グローはバイルのことが大好き。絶対に離れたくないと思う。だから・・・」
「ふふふ。ありがとう。ごめんね、久々にあんな顔見たから昔を思い出して浸ってしまったわ。大丈夫よ。私もグローのことが大好きだから、離れたくないわ。」
「うん。二人は離れない。」
「うん。ありがとう。なんだか自信出てきたわ。」
「ラルも、バイルに相談ある。」
「あら?珍しいわね。何かしら?」
「ラルもハンターになりたい。」
そう言ったラルの顔は真剣そのもので固い決意が感じられた。バイルは少し動きが止まったが風が吹く同時に口を開く。
「・・・本気なのね。さっきは楽しかったって言ったけど多分思ってる何倍も過酷よ?
ちなみになんでなりたいの?」
「世界の甘いもの自分で買いたい。全部。」
ラルの突然の告白に意表をつかれたバイルは少し吹き出すも先程までとは打って変わって月の光を反射するような満面の笑みで答える。
「っぷはは。なんかラルらしくて素敵だわ。それじゃ、私はラルを応援しましょう。だけど、これだけは誓って。必ず自分で叶えるのよその夢。」
「うん。絶対に食べる。」
「ふふふ。村長やみんなが知ったら猛反対するでしょうね。」
母のような優しいい微笑みを月に照らしながらバイルはラルを見る。ラルもそれに応えるかのように微笑む。
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〜鬼ごっこside〜
「はぁはぁ・・・。くそっ。あいつら本当に速い・・。」
息を切らせながらも走り続けるぬい。
ええっと次は、グローだよな。
よし近い。
足音もなく行われる奇妙な鬼ごっこは、月明かりにほんの少し照らされるだけの暗闇の中で白熱して行われていた。
グローとリッギ、それぞれ2回捕まっている。ぬいは見つけるのは容易だが捕まえるのに苦労しているようだ。
「・・・。いや〜なかなかやるよね〜。だんだん近づき方上手くなってるし。これならリッギさんもOKしてくれるかな〜。」
屋根の上で座りながらそう呟くグロー。
「っと!」
空振りした肉球が屋根の上にぷにっと押される。グローは立ち上がってこちらを見ていた。
「はぁはぁ・・・お前な〜!気づいてるんだったら、普通に喋りかけてこいよ!ムカつく!」
「あはは〜。さぁ追いかけっこの始まり〜」
「くそっ!見てろー!」
その瞬間、足に風の光を纏わせたぬいは空を掴んでいた。
「ぉぉぉぉ〜!いいね〜!さぁ〜こっちこっち」
また、肉球が空振りする。
なんとか追いつけるようになった。
が!!!!くっそー!ギリギリで交わしやがってー!余裕そうな笑みもムカつく!!
絶賛怒りMAXなぬいである。
にゃふとしての本能が刺激されているのであろうか、だんだんしなやかさと素早さが洗練されていく。
「っお!今の危なかった〜!」
グローがスレスレで避けるが体勢を崩したその時。
「フー!!!」
「おわっ!あ〜捕まっちゃった〜。」
何とか、最後はグローの顔面に張り付いて捕まえることが出来た。
「はぁ・・はぁ・・・。よしっ。次は・・。」
グラッ視界が歪み、足に纏わせた風が消える。っお、落ちる!!!
「っと!そろそろ限界だね!ここまでにしよう。」
そう言うと俺が落ちないように支え、手に乗せたグローは指から風の光を空に放つ。
「にしても、こんな小さい身体によくそんな力あるよね〜。僕の想像以上だったよ〜。」
「はぁ・・・。もっと余裕で捕まえたかった・・・。」
「ははは〜!今のぬいにそんなことされちゃったらいよいよ隠居だね〜。」
「やー!楽しかったねー!ぬいくん!お疲れ様。」
颯爽と現れるリッギ。全身黒のグローに対して全身白のこいつは夜にめちゃめちゃ目立つ。
「どー?リッギさん、これならラルとぬいを作戦に入れてもいいよね〜?」
「そうだねー・・・。いいと思うけどもう少しオーラの使い方を身につけて欲しいから後2日って所かな。ぬいくんなら行けるでしょう。」
「ふ、2日?作戦??」
もう寝たいんだけど・・・なんでこの2人ピンピンしてるんだ。悔しい。
「そう!実は妖精憑きのいる場所の目星はいくつかついてるんだ。だけど相手がどんな力を持っているかわからない以上深追いが出来ない状況なんだ。」
リッギが説明してくれる。
そこにグローも入ってくる。
「そ〜。僕としては、僕1人で突っ込んでもいい〜って思ったんだけど〜。団長にとめられてね〜。」
「お前は少し落ち着くんだ。今はバイルもいるからあんまり無茶をするな。」
「そうだね〜。うん。まぁ、それに納得したからこうやってぬいを試験しているんだけど〜。」
「でも、俺なんだ??俺にゃふだし、遥かに強いじゃんお前ら。」
ちょっとムスッとして言う。
なんかこいつらの笑顔見てると本当にムカつくんだ。まぁ、何度もスカスカと躱されて頭にきてるのもあるんだが。
「そんなことないよ〜。団長がぬいの気配察知をめちゃめちゃ買ってるんだよね〜。」
「そう、それで作戦に入れようってなったんだけど。僕とヂーラは君のこと全く知らないからね。こうやって直接見せてもらったわけ。」
「ヂーラ?」
「ほら、僕と一緒に来てた難しい顔した男の子。」
「ああ。うん。いた。」
「そう〜。僕は普通に賛成だったんだけど〜今のぬいがどのくらい出来るか気になったからテスト役を志願したってわけ〜。」
「にしても、今日は上出来だった。後は、少し戦闘慣れするために躱したり防御したりを覚えよう。明日もよろしくね。ぬいくん。」
「っていうことだから〜。明日は昼頃に訓練場ね〜。」
まじか、また明日も今日みたいに疲れるのか・・・。でもこいつらに負けたままは嫌だし。ラルと早く一緒に戦えるようになりたい。
ぬいは素直に頷く。
「わかった。ラルに言っとく。」
「うんうん〜。」
「じゃあ、僕はルーグに報告してくるよ。グローはぬいくんをお願いね。」
「はーい。じゃあ、リッギさん。奥さんがいない寂しい夜に泣かないでくださいね〜。」
すると、グローの横腹にリッギの足がくい込む。グローは少しふらつくが何事もなかったように元に戻る。
「もう〜そんなすぐ手出してたら奥さんに逃げられちゃいますよ〜。」
「足だ。馬鹿。」
「うわ〜!屁理屈だ〜!」
「無駄口叩いてないでさっさと行け!ちゃんとぬいくんを休ませるんだよ。」
「はーい。じゃあ、行こっか。ぬい。」
そんな感じで別れた俺は、グローの手の中にいた。もう走れない。身体に力が入らないのだ。グローの事は好きでも嫌いでもないが、まぁ危害を加えて来ることは無いと分かっているのでとりあえず身体を預ける。
「お疲れ様〜。」
俺たちはすぐ櫓についた。さすがグロー、速い。バイルとラルの2人はなんだかスッキリとした顔つきになっていて更に輝きを増してた。
「グロー!ぬい!おかえり!」
「おかえり。」
「ただいま〜!楽しかったよ〜。」
「ただいま。」
グローは、俺をラルの元へ手渡した。
ラルが撫でてくれる。
ラルのいい匂いがする。暖かい・・・
ずっとこのまま温もりの中にいたい・・・。
・・・・・・。
「・・・寝た?」
「寝ちゃったね〜」
「え!?早くない!?さっきまで起きてたわよね?」
ラルの手に行った途端、寝てしまったぬいを見て2人は不思議そうな顔をしているがグローはそんなぬいを優しく見ていた。
「ははは。オーラの量を測るために全力疾走を結構続けたからね。だいぶお疲れだね。」
「ちょっと、グロー。ぬいに無茶させたんじゃないでしょうね?」
「少しだけだよ〜、バイル。それにこれから狩りに行くなら絶対に知っとかなきゃ行けないことだからね〜。」
「・・・。そうね。確かに。」
「大丈夫。バイル。ぬいは幸せそうに寝てる。苦しそうじゃない。」
「うん。そうね。きっとラルと一緒に戦いたいから頑張ったんでしょうね。」
「うん。」
ラルはぬいを愛しそうに何度も撫でる。
ぬいは、胸を上下させて気持ちよさそうだ。
「それでね〜ラル。本格的にラルとぬいも作戦に参加してもらおうと思うんだけど〜。」
「うん。」
「ぬいをいきなり戦闘に入れるのはまずいから、明日から少しずつ慣らしたいんだ〜。ラルも一緒に訓練しない〜?」
「うん。やる。ぬい頑張ってるから。ラルも強くなる。」
「うん〜いいね!じゃあ、お昼に訓練所集合ね〜。見張りありがとう〜。」
ラルはコクっと頷く。
その間もぬいを撫でていた。
「じゃあ、バイル。そろそろリッギさん来るから君もゆっくり寝るんだよ〜。」
「うん。わかったわ。グローも気をつけてね。無茶はしないで絶対に。」
「うん、分かってるよ。」
そういうとグローはバイルのおでこにキスをして愛おしそうに頭を撫でる。そんな2人は関係ないとばかりにラルはぬいを見つめている。
「はいはいー。お二人さんが熱いのは分かったからグローはさっさと行ってらっしゃい。」
そう言って現れたのは、夜にめちゃめちゃ目立つリッギだ。
「バイル。今のリッギさんの前で、イチャつくとリッギさんが泣いちゃうからここまでね〜。」
グローが軽口を叩くと、リッギは手刀をグローに向けて放つ。グローはさっと後ろに躱し、「じゃあ、バイル。おやすみ〜。」と颯爽に森へと消えた。
「本当に変わらないよね。あいつ。」
「リッギさんも相変わらずですね。あの頃が懐かしいです。」
「はは、確かにな。バイルもラルも今日はありがとう。後は俺に任せて家に帰ってゆっくり休んでね。」
「うん。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
それぞれが思い描く未来を夢見る。
瞬く星のように時代や環境は変わり、
月のように心には満ち欠けがある。
だが、必ず登る太陽はその道を照らし新しい発見をくれるだろう。暗闇に迷いそうになれば、上を見上げると良い。
動かずに輝き続ける星が道標になるだろう。
・・・そんな都合のいい星も太陽が与えてくれる発見もほんのひと握りの者しか見つけられない。
そしてまた夢を見るために寝る。
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