ハーフビラ 前兆と力
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〜村長宅〜
「お待たせしました〜!」
「おお!ビーメさん待っておったぞ。」
「早かったな。ビーメ。」
バイル、グロー、ラルの3人が練習場で試合をしていた頃・・・
+ハーフビラの村長のルーガ
+自警団団長兼次期村長のルーグ
+トリ小屋と自警団本拠地の護り役ビーメ
この3人が村の真ん中あたり、井戸の見える位置にある他より少し大きな家に集まっていた。
「で、親父。ヴァンリーからの手紙がどうのという話だったが・・・本題に入ろう。俺たちを呼び出してなんだってんだ?」
「ふむ。これじゃ。」
そう言うと村長のルーガが徐ろに2枚の手紙を出す。
ルーグは、その2枚の紙を受け取り眺める。
ビーメはソワソワしながらも一緒に覗き込む。
「ヴァンリーからともう1つは、ダーラ、ザダル、ドーマのサインが入っておる。」
「これは・・・」
「まぁ・・・!」
「あぁ、なんとも嫌な報告だが・・・。近隣のハーフビラの村長3名のサインが入っておる以上無視は出来ぬ。事も事だしの。」
「これは・・・とりあえず、見回りの強化と情報共有ってとこか。」
「あぁ。そうなるじゃろうな。というかそれしか出来ん。」
「そうは言っても、この村と他の村合わせても対応には限界があると思うわ。」
「あぁ・・・。しかし、ここまで情報がないとヴァンリーを通して国の警護に要請しても出向いてはくれないだろう。」
「まぁ。なんせ、子供がいなくなった経緯も場所も時間も分からないんじゃあの。勝手に迷子になったのだろうと思われるのがせきの山じゃろう。」
「っでも!!!迷子なんて人数じゃないわ!分かってるだけでも10人!異常よ!?」
「あぁ。異常だ。」
「なら!!!!「だが。」
少し興奮気味のビーメを抑え、ルーグが話を続ける。
「たかだか麓のハーフビラの子供10人だ。その為にわざわざ国は動かない。そしてそんな時の為の自警団だ。うちにはグローがいるし、ドーマさんの所にはリッギもいる。ザダルの所はザダル本人がしっかり対応してくるだろう。」
「じゃが、こうも原因が掴めないと今ひとつ対応策を練れないの〜。」
「とりあえず、子供達は村の外から出ないように厳重注意。自警団の方は村の強化のために狩りの時間を少し減らし警護の時間帯を多くしよう。俺も直接見回る。」
「そうね・・・今のところ事は起きていないから厳重に警備を固めるチャンスよね。村にパニックが起きてからじゃ遅いわ。」
一通り意見と方針を出したところで、それぞれ結論をつけていく。
「そうだな。では、今夜自警団の面々を呼び出し・・・いや、とりあえずグローとガミルに話をつけてそれぞれのやりやすいように陣営を固めてもらうか。」
「たしかに、お昼みたいな感じで集まるならいいけど夜集めると目立つわね。」
「あぁ。それとな、明日ヴァンリーと共にリッギとヂーラが来るそうじゃ。それぞれ情報を持ってな。」
「ヂーラ???・・・あぁ、ダーラさんの息子か。」
「そうじゃ。昔はお前さんともよう遊んでたの〜。」
「あぁ、こんな形で久々に会えるとはな。とりあえず、今夜の見回りは俺がしよう。ビーメは明日トリ小屋の面々に騒ぎににならないように慎重に伝えてくれ。公に伝えると不安になりすぎるてパニックを起こす人もいるから、しっかり対応すると伝えてくれ。」
ビーメが頷く。
「よし。話は纏まってきたの。」
「あぁ。」「ええ。」
「この状況がいつまで続くかはわからん。
最低でも1ヶ月かそこらじゃろう。下手すると原因が分からないまま過ぎ去る可能性もある。焦りすぎないようにするんじゃ。」
「わかった。俺は早速グローとガミルに話をしてくる。夜の警護体制も整えなきゃな。」
「えぇ、私はとりあえずトリ小屋にいって子供達の無事を確認後ちゃんと家に帰すわ。」
「あぁ、頼んだぞ。2人とも。」
「おう。」「ええ」
得体の知れない不安が3人を襲おう。この不安はいずれ村に伝わるであろうが、今できることをやるしかない。村長のルーガは部屋を出ていく二人を見ながら、眉毛を下げてため息をつく。
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〜練習場〜
だいぶ日が傾き、強い日差しが木々を強く輝かせている。
グローとラルの試合の後、ラルとバイルの試合も終わり、あれやこれやと試合について雑談している。次の狩りの陣形を変えてみるとか明日はどこまで行くとか。
俺にはあまり関係ない話だ。
「うん!わかったわ!今度からは捜索範囲を広げて個々の陣営管理をしっかりするのね。」
「うん〜。ここら辺の魔物なら全然余裕だと思う〜。」
「わかった。」
いい感じに話がまとまりそうなところなんだが・・・、俺はずっと引っかかっていることがあるのでラルに耳打ちする。
<ラル、村長に言われたやつ話さなくていいのか?>
「あ」
ラルがハッとして声を出す。
「うん〜?」
「どうしたの?」
2人の視線がラルに向く。
「ルーガが明日は狩りをはやく切り上げてって。ヴァンリーが来る。」
「りょ〜かい」
「え!?ヴァンリー来るの!?楽しみ〜!!!」
グローは興味がなさそうな返事をするが、それに反してバイルはとても嬉しそうだ。
「うん。私も楽しみ。」
ラルが珍しく自分の感情を言葉に出す。
誰なんだろうか、ヴァンリーとは。そんなに楽しみなことなのだろうか・・・。
俺の中でまた1つ気になることが増えたのだった。
「じゃあ、明日は午前中に1人1羽とって午後はヴァンリーのところに行きましょう!」
「え〜午後は狩りなし〜?」
「だって!ヴァンリーが来るのよ!?これはチャンスよ!洋服を新調したいの!」
「バイル〜今の服とっても可愛いのに、変えちゃうの〜?」
「うるさいわね!乙女は進化しなきゃ行けないの!」
「そっか〜」
なんだか、2人に置き去りにされている俺たち。会話の意味は分からないが、とにかくバイルにとってはまたとないチャンスでとても楽しみなのだろう。
掛け合いを続けている二人を傍観していると、急にバイルからラルの方に言葉が飛んでくる。
「ラルも、そうした方がいいわよね!」
「うん。クッキー持ってくるって約束した。」
クッキー??あの甘いお菓子か。ラルはお菓子が好きなのか?というかこの世界にもあるんだな。
「はやく。食べたい」
ラルはとても目を輝かせて嬉々として話す。
「あら!そうなのね〜!私も楽しみよ〜!」
女の子2人はとても楽しそうである。
今度は俺とグローが置き去りにされ、夕焼けの紅掛空色に染まった背景と化す。
そんな感じで二人がワイワイしていると、見た顔がこちらにやってくる。
「よ〜!まだいたのか!ちょうどいい。」
やってきたのは、団長だ。
「あ〜団長だ〜。」
「団長!もうお話終わったの?」
「おう!今終わったところだ!だから、軽く振っとこうと思ってな!」
と言い、団長は剣をふる仕草をする。
「お前達はこれからどうするんだ?」
「どうするも何も、この時間だもの。私とグローは櫓の警備に行かなきゃ。」
「僕は〜バイルの側で少し寝て交代〜。」
「ぬいと寝る。」
それぞれが今後の予定を話す。
「おおそうか!そっか、お前達が今日の夜警護だったな!ありがとう。」
「な、何よ改まって、、、」
バイルは照れながら、少し目線をずらす。
グローはなんか嫌そうな顔で団長を見る。
「グロー、マスク・・・破けたのか?」
団長がキョトンとしながグローの顔辺りをマジマジと見る。
「あ〜、これは・・・ちょっとね〜!」
グローは嬉しそうにはぐらかす。
団長は不思議そうにグローを見る。
そんなやりとりの隣で俺は、何をやったかは覚えていないが、俺のせいなのは分かっているので何か言われないかとビクビクしていた。
「なんだよ。まぁ・・・いいか。どうせ試合で暴れすぎたんだろう。」
「そんなとこ〜」
「なら・・・グローお前ここに残れ。」
「え〜?俺寝るんだけど〜?」
団長の眼差しは真剣だが、グローは探るように団長を見ながら嫌だと伝える。
「なになに!?今からグローとやるの!?団長!」
「あぁ、昼は残念だと思ったがまだ暮れるには少し早いしな。こいつは見るからに暇そうだし。なに、軽く合わせるだけさ。」
なんだか変な空気が流れるが、気にしていないのかラルは欠伸をする。
俺もラルにつられ、ふぁーと大きな欠伸をし目に涙を浮かべる。
「しょうがないな〜。バイル〜先行ってて〜」
「えー?私1人で行くの?気になるし見たいんだけどダメ?」
「そんな可愛い顔しても、ダメだよ〜。暗くなっちゃうからお願い〜。」
「はぁ、、、」
ガクッと肩を落とすバイル。グローはそんなバイルの背中をぽんぽんと叩く。
「大丈夫。団長ボコって、出来るだけはやくそっち行くね〜」
「まぁ、別に遅くてもいいけど、団長だけはボコって来てね。」
「おい。俺がボコられるわけないだろう勝手に話を進めるな。」
そう言いながら、各々立ち上がり練習場を後にする。
グローと団長は残り、女の子2人を見送る・・・姿が見えなくなり訓練場には静かに風が吹く。
静寂を破ったのはグローだった。
「で~?俺になんの話ですか〜?」
「ははは。バレたか。」
「わかりますよ〜。あんなに露骨に何かありそうな顔して〜、バイルを1人で行かせちゃったじゃないですか〜。」
「まぁまぁ、とりあえずお前と打ち合いたいってのは本当だ。軽く付き合え。」
「しょうがないな〜。」
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〜ラル宅〜
俺とラルは家についていた。
ラルは土を被った髪を濡れたタオルで吹き、軽く梳かしていた。
「ラル。」
「どうしたの。」
ラルは不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「あ、あの時・・・・俺覚えてないんだけど、グローのマスク破ったの俺・・・だよな??」
「そうだよ。覚えてない?」
「あぁ、なんか。身体が熱くなって気づいたらラルの肩にいた。」
「んーとね。グローが後ろにいて、ぬいが肩に乗ったと思ったら爪から風っぽいのが出てた。」
「風??」
「そう。魔晶核が光ってたから、神素を使ったんだと思う。」
「ていうことは、俺はラルたちと同じような力を使ったのか?」
「うん。多分。」
「なるほど。身体が熱くなったのは、ラルが危険だと思ったからかな。」
「心配してくれたの?ありがとう。」
ラルが近づき頭を撫でる。なんだか安心して少し頬が緩む。
でも、わかった。俺にもラル達みたいな力が使えるんだ。ちょっと嬉しい。これで生きていく為の力があるってわかった。
「ラルの"魅カレ”はどんな技なんだ?」
「刀に力を貯めて、相手が間合いに入った時に力を外に放出して切る。」
「自分で考えたのか?」
「ううん、グローが考えてくれた。ラルはみんなと少し違うから。」
「違うのか?」
「そう。ここの人達はホーキーに近いから風を使う。」
「ホーキー?」
待て待て、少ない言葉に情報が多い。
ラルは雑種だけど他のみんなとは違う、そしてホーキーに近いと風を使う?
「ホーキーは、純種の事。背中に体を覆うような大きい羽があって足は長くてとても凛々しいらしい。」
「らしいって見たことないのか?」
「うん。ホーキーはアーエの王族。ここには来ない。」
ホーキーは種族のことか。この世界には純種と呼ばれる種もいるんだな。前世で言う、ペルシャみたいなやつの事か。ペルシャの猫はあったことがある。あいつは、暑苦しい毛をしている癖にめちゃめちゃ品が良くてこっちを見下していたからあんまり好きになれなかった。まぁ、猫にもよるんだろうが。
と昔の記憶を探りながら、まだよく分からないので聞いてみる。
「アーエとはなんだ。」
「国。」
「国なのか。」
「そう。自由で愛が溢れる国らしい。
ここの村もアーエの中。」
「らしいって、どっからの情報なんだ?」
「ヴァンリーが言ってた。」
「ホーキーのこともか?」
「そう。」
ヴァンリー。名前だけは覚えたがイマイチ何者なのかがわからない。知っていることといえば、[クッキーとか洋服とか持ってきて女の子に人気がある]ぐらいの情報しかない。
「ヴァンリーてのは何者なんだ?」
「アーエの商人。いつも甘いものを持ってきてくれる。」
「そうなのか。」
「そう。明日はクッキー。とても楽しみ。」
そう言いながら、ラルはいつの間にか食事を用意してくれておりテーブルの前に座り昨日と同じようにテーブルをトントンとする。
さっとテーブルに乗りご飯の前に座る。
あぁ、美味しそうだ。これをまた食べれる事に感謝だな。
ぬいは、徐々にこのご飯から離れられなくなっていた。
お互いにご飯を食べ終え、ラルはお皿を片付けたり寝巻きに着替えたりしている。
俺は毛繕いをし、身だしなみを整える。今日はいっぱい砂を被ったからな・・・隅々まで綺麗にしないと。
全て終えたであろうラルが、サッとぬいを抱き上げてベットに入る。
ラルの爽やかな甘い匂いが鼻をくすぐる。とても心地いい。
「おやすみ。ぬい」
「おやすみ。」
今日は色んなことがあった。死後の世界を臨んでいたはずなのに、この世界のことを知るたびにものすごくワクワクしていた。この世界で生きるのも悪くないと。
だが、今まで味わってきたあの苦く苦しい思いは忘れることはない。ラルは優しい。今日、それを確信した。ここにいれば俺はまた優しく暖かい生活が続けられるだろうか・・・いや何度もその期待は裏切られたんだ。
やはり・・・。
そこまで考えてやめた。
もう俺はラルの傍にいたいと思っていた。
ラルの優しさに甘えたかった。そして、そんなラルの傍でラルのことを・・・。
そう考えながら、暗く深いところに身を委ねるていく。
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〜真夜中〜
「何してるの〜?」
突然聞こえてきた声にふたつの影はビクッとして、尻餅をつく。
「こんな夜中に、こんなところにいちゃダメだよ〜。」
ふたつの影は、ビクビクしている。
「とりあえず〜ほら。立って。」
「ごめんなさ〜い!」
「ごめんなさい。」
ふたつの影はふらふらと立ち上がる。
一人は涙ながらに謝り、もう一人は淡々と謝る。
「も〜。泣くくらいならこんな夜にハーフビラの外へ出ようとしちゃダメだよ〜。」
「はい。」
「・・・はい。」
「とりあえず、櫓に上がって〜?話聞くから〜。」
そう言って、三つの影は櫓を登る。
ギシギシと音が立ち、櫓のなかで寝ていた女が眠そうに目を開ける。
「ん〜?グロー?どうしたの?」
「ごめん、起こしちゃったね〜。バイル。」
「あら、後ろの子達は?・・・・ガニと、ギディ?こんな時間にどうしたの?二人とも。」
ガニとギディと呼ばれた子供は、黙って俯いている。
仕方なさそうにグローが答える。
「さっき、柵に空いた穴から外に出ようとしてたんだ〜。」
「ちょっと!危険じゃない!柵の外は森よ!?夜はモンスターがたくさん彷徨いてるんだから」
バイルはとても心配そうに二人を見る、グローはよっこらせと座りながら二人の表情をよく見ようと月明かりのある場所に二人を立たせる。
「さぁ〜話してもらうよ〜。なんでこの時間に外に出ようと思ったの〜?いつもは寝ている時間でしょ〜?」
「今日、変な人にあったんだ。」
最初に口を開いたのは、淡々とついてきたギディだった。
それをガニがチラチラと見ていたが、意を決したようにガニも喋り出す。
「そ、そうなんだ!あの男が、あんな事言うから・・・」
「ちょっと!・・・男?なんの話?」
バイルはイマイチ掴めない話に困惑し、グローは静かに目線で先を促す。
「今日、ガニがまたコカトリスの世話をサボろうと誘ってきたから俺も一緒に・・」
「お、おい!それは関係なぃ「いいよ〜続けて〜?」
ギディの話を遮り、大声で訂正しようとしたガニだがグローに物理的に言葉を遮られる。
そんなガニを呆れたように、バイルがジト目で見ている。
ギディが続ける。
「そ、それで俺もサボりたくなって一緒に裏の大樹の方にいたったんだ。あそこは、人通りもないし樹に登れば見つからないと思って・・・・」
ギディがそこまで喋った時、またもやガニが遮る。
「そ、そう!その大樹の麓に知らない男がいて木を見上げていたんだ!そして、微笑んできた。」
今度は、グローも遮らなかった。
ガニは続ける。
「見たこともないやつだった!だけど、身なりがよかったから村長のお客さんだと思ったんだ・・・。」
ちょっと不安になったのか、ガニはグローをちらっと見る。
「いいよ〜?続けて〜?」
「う、うん。それで、手招きされたから俺もギディも不思議に思ったんだけど、男の近くに行ったんだ。そしたら、男が・・
”やぁ、こんにちわ。このハーフビラの子かな?”
・・・って聞いてきたんだ。だから俺らは不思議と思ったけどそうだと答えたんだ。」
今度はギディが口を開く。
「そしたら、その男はニカっと笑って
"そうかそうか"
って嬉しそうな顔をしたんだ。」
ガニが続ける。
「でもその後僕らを舐めるように見て、こう言ったんだ。」
”何か、欲しいものはあるかい?”
二人の声がハモる。
何故か語り口調になっていく二人に、バイルとグローは呆れつつも先を促す。
「最初は何言ってんだって思ったけど、男が金やら力やらお菓子やおもちゃとか言ってくるから悩んじゃって。」
そう言って、また俯くガニ。逆にギディは顔をあげる。
「俺は、基本めんどくさがりだから何をしなくても怒られないところに行きたいって答えたんだ。」
何が欲しいかの問いに対して、微妙にズレている気もするが子供ならではの発想なのだろうか。ギディの斜め上の回答にバイルは苦笑いをする。
「お、俺は、力って言った・・・将来はハンターになりたいんだ。強くなって有名になりたい。」
こちらも意外な答えだが、まだわからなくもないのでとりあえず頷く二人。
そんな二人の反応を確認して、ガニが口を開く。
「そしたら、男は言ったんだ。
”とてもいい望みじゃないか。私はそれが叶う方法を知っているが知りたくないか?”
って。」
「それで?男に何を言われたから、こんな夜中に抜け出そうとしたのよ。」
話がなかなか確信に迫らないのでバイルが催促する。
それに対して、ギディが答える。
「男はなんかニヤニヤしながらこう言ったんだ・・・
”大人に内緒で、森の崖の上にこればその夢への答えがある。だけど少しでもバレたり怪しまれたらダメだよ。なんたって、その夢を叶えてくれるのは私じゃない。妖精なのだから。その妖精はすごい力を持っているんだ・・・君たちが生まれる遥か昔からいるからね。君たち二人のどちらの願いも叶えてくれるよ。私との約束が守れるいい子ならね。もし、森の崖までいい子のまま来れれば案内してやろう。いい子の君たちを待っているよ。”
そんな感じで喋った後、男は村の方じゃなくて大樹の木の裏に行ったんだ。気になって後ろを覗いたらいなくなっていたよ。」
ギディが話を締め括る。
バイルもグローも、眉間にシワがよっている。
「それで、君たちはそれを信じて妖精に会いに行こうとしたということのかな〜?」
「・・・ぅうっ、ごめんなさ〜い!」
「ごめんなさい。」
またもや、泣き出すガニと俯いて淡々と謝るギディ。
呆れた顔をしながらも、心配そうに二人を見つめるバイル。
「まぁ〜、事情はわかったよ〜二人とも。」
「そうね、事情はわかったけれど。とても許容できるものじゃないわ。
二人とも、もし崖に辿り着けたとしてもその後無事に帰れる保証はない。」
「そうだね〜。それにこの世にそんな都合のいい妖精はいないからね〜。」
「グローのお兄ちゃん妖精に会ったことあるの?」
さっきまで、わんわんと泣いていたガニが泣き止みグローの顔を不思議そうに見る。
「あぁ。これでも元ハンターだったんだ〜。バイルもね〜。妖精には、会ったことはないけどシャークの聖女がそう言ってたから間違いないよ〜。悪戯好きで乱暴者、機嫌を損ねると大変だって〜。」
「えぇ、確かにそう言ってたわ。そのときの彼女の話ぶりに圧倒されて絶対に妖精と関わらないようにしようと思ったもの。」
「シャークってアクァっていう国の純種?」
「そうだよ〜。よく知ってるね〜。」
「ヘー!すごい!!!アクァに行ったことがあるんだ!」
「なんでハンター辞めたの?」
グローとバイルの話に目を輝かせて興奮するガニと表情に出さないものの興味津々という感じのギディの質問に答えていく。
「まぁ、色々あってね〜。ハンターよりも平和で静かにバイルと過ごすことを選んだんだ〜。彼女と家庭も築きたかったからね〜。」
「ちょっと!子供の前で・・!恥ずかしいから!」
「ははは〜。照れてるバイルも可愛い〜。」
ガニとギディはそんな二人を見て呆気に取られ、口を開けたまま成り行きを待つ。
ある程度、2人の掛け合いが終わったと思ったら急に空気が変わり真剣な眼差しをしたバイルが風を背に受けながら喋り放つ。
「・・・でもね、二人とも。夢を持つことはいいことだけど、その大事な夢を他人に、ましてや顔も存在にも会ったこともない者に託すのは一番ダメよ。夢っていうのはね、自分にとっては大事なもので人生を賭けてでも叶えたいものだけど。他人にとってはどうでもいいことなの。叶おうが、叶わなかろうが・・ね。確かに応援してくれる人はいるわ。けど、人生をかけてまで応援し協力してくれる人なんていないに等しいの。みんなそれぞれ自分の叶えたいことがあるから。だから、夢を叶えたいのなら自分で手に入れなさい。他人の危ない誘いに乗って他人に委ねるなんて馬鹿なことしちゃダメよ。下手したら、その行動で自分の人生を捨てることになるんだから。」
月明かりの中、凛とした声で熱く語るバイルを微笑ましく愛おしそうにみるグロー。
バイルの声はちゃんと二人に届いたのか二人とも目を開いて真っ直ぐバイルを見ている。
「さすがだね〜。バイル。惚れ直しちゃったよ〜。」
「・・・私ったら、つい熱くなっちゃったわ。」
グローはニコニコし、バイルは顔を赤らめて視線を下に下げる。
「うんうん。二人とも、バイルの言葉はちゃんと受け取ったようだし今日はもう帰ろう〜。早く寝ないとお母さんにまで怒られちゃうよ〜。」
そう、グローが続けると二人の顔が青ざめそわそわし始める。
「ガニ。もしハンターに本気でなりたいなら空いてる時間に剣を教えるよ〜。僕の剣なら多少のとこは通用するはずだから〜。それから先は君次第だけどね〜。
「わ、わかった!お願いします。」
ガニはペコっとお辞儀をする。
そんなガニを羨ましそうに見るギディ。
「お、俺も参加してもいいですか。・・・興味あるんです。」
「う〜ん?何をしなくても怒られない世界とは程遠いけどいいの〜?」
「はい。グロー兄ちゃんと、バイルお姉ちゃんと話してみてすごくかっこいいと思って・・・・」
ギディは気まずそうにグローを見る。
「はは。冗談だよ〜。やる気があるなら一緒にくるといい〜。」
「は、はい!」
「グロー、早く行かないと本当に騒ぎになっちゃうわ。」
「そうだね〜。」
「ほら、君たち帰るよ〜。降りて〜。」
小さなふたつの影をきちんと家に帰して、二人は櫓に戻りながら難しい顔をして考えに耽る。シンと静まり返った村の闇に吸い込まれるように進んでいくが、その足取りは軽くはない。
櫓に戻るとそこに見知った男の姿があった。
「思ったより早かったですね〜。団長」
「団長!いつの間に!」
ルーグは二人をちらっとみて視線を森にむける。
「あぁ、グローが来なければ俺があの二人にお説教していたところだ。しかし、よかったのか?元ハンターとかいって。」
「も〜、団長どこから聞いてたんですか〜。」
グローは盗み聞きされたのがすごく嫌だったのか、少し怒り口調だ。
「最初からに決まっているだろう。」
「違いますよ〜。場所〜。近くに気配はなかったのに〜。」
「あ。そこなのね・・。」
なんだか、話がだいぶズレている二人に呆れながら座るバイル。
二人は以前立ったまま、視線を合わせている。
「で、本当によかったのか?ハンターとはきっぱり別れをつけたと言っていたから嫌な記憶の部類だと思ったんだが・・・。」
「いいですよ〜。別に〜、今の生活が壊れることはないし。この村に根を深く張るいい機会ですよ〜。」
「ええ。私もそこに関しては意義ないわ。」
「そうか。ならいい。逆に村の子供達もいい刺激を受けて育っていくだろう。ありがとう。」
「今日の団長怖い〜。」
「そうね、何か企んでいるの?」
本気で嫌そうなグローと照れながらもちょっと引っかかるのかバイルは目線はそのままに顔をちょっと傾げる。
「おいおい。グローそんなに嫌そうにするな。それに、バイルもそんなに深い意味はないさ。警戒するな。さ、そろそろ本題に入ろう。」
「ほら〜本題とか〜。はぁ・・・・・めちゃめちゃ嫌だけど、そうも言ってられなさそうですね〜。」
「そうね、話は全然解決してないわ。団長全部聞いてたんでしょう?どうするか決めたの?」
「あ、あぁ。まぁ一応な。だが、とりあえず今日明日でどうこうできるような問題じゃなさそうだ。明日には、リッギとヂーラも来るそうだ・・情報を持ってな。それ次第だろう。なんせ相手は妖精憑きの可能性が出てきたからな。」
「リッギさんも来るのか〜。絡まれそうで嫌だな〜。ヂーラって人はお初だ〜。」
「ちょっと!なんの話!?リッギさんとヂーラって人がなんの情報持ってくるの!?ていうかなんでくるの?」
「??なんだ、言ってなかったのか?」
ルーグは不思議そうにグローを見る。
「僕の中でもどうやって伝えるか方針が決まってなかったし〜、それを考えてる時にガニとギディ見つけちゃったからね〜。」
ごめんねとバイルに目配せをし、言い訳をする。
バイルは少しムスッとするが、こんなことで争っている暇はないと思ったのか、
「ちゃんと説明してね」
と話し合いを促した。
「じゃあ、俺から説明しよう。」
そうして、月に照らされる中不穏な雰囲気が村中を支配し暗闇をさらに濃くしていく。
………………………………………………………………
〜ラルの家 2日目の朝〜
「ぬい・・・ぬい!」
「!!!」
ラルの声で目が覚める。
あ、、れ???いつの間に寝てたんだ?
今までの猫生で、ほとんど熟睡なんてしてこなかった。
意識を失うってことは死ぬも同義だったし、そもそも警戒を解くことはなく、小さな物音でも反応して起きてしまっていたから・・・な。どうやら俺は安心して深い睡眠をしてしまったらしい。緩んでいるな・・・。
寝起きから落ち込む俺に心配そうな顔をしたラルが覗き込む。
「ぬい?大丈夫?」
「あぁ。大丈夫だよ。起こしてくれてありがとう。」
「今、バイルとグローがきてる。」
「え???」
扉の奥を見ると、バイルは目を開き口を半開きにしてグローは目尻を下げて楽しそうにこちらを見ている。というか、グローはマスクを新調したんだろう今日は口元が隠れている。
「・・・・・。」
「・・喋った。」
「言ってなかったっけ?」
ラルは、不思議そうにバイルを見つめている。
「そんなこと一回も言ってなかったわよ!」
「ぬ〜〜い〜〜♪」
目を見開き、ラルに聞いてないと抗議するバイル。
そして俺の名前を呼びながら、いつの間にか俺の横に座っているグロー。
・・・・やってしまった。これは弁解のしようがない。最悪だ。
熟睡していたことに続いて、気配も悟れずうっかり喋ってしまった。
はぁ。ため息が出る。思わず頭をかかえる。
メンタルが著しく下がりもうどうでも良くなってきた。こんなに近づいているグローから距離を取る気にもなれない。
本当に俺はどうしちゃったんだ。
はぁ・・・・・
「ぬい〜〜!!」
「うるさい。なんだよこんな朝から人の家に来て」
俺は何度も喋りかけるグローに全てのイラつきをぶつける。
・・・で、なんで不満ぶつけられてるのにこんなに笑顔なんだこいつ。
「本当に喋ってるわ・・・。」
バイルは、まだ信じらないようでずっと固まってる。
「ははは〜。悪かったねこんな朝はやくに〜。」
・・・だからなんでこんなに笑顔なんだこいつは。
「朝ご飯一緒に食べるって。」
ラルがテーブルにご飯をセッティングしながら説明してくれる。
「そう〜。ちょっとラルとぬいに伝えたいことあってね〜♪
ほら〜バイルも座りなよ〜。」
なぜか、家主ではないグローがバイルに着席を促す。
俺は、ご飯が用意されている場所に行き、ラルの方にお皿をこれでもかと寄せグローと距離を取る。
「いただきます。」
「いただきます。」
ラルが初めにご飯の挨拶をしたので、俺もすぐ続いて言う。
気分は最悪だがご飯は美味しいので少しずつ目を覚ましながら改めて二人の様子を伺う。
「いただきま〜す。」
「いただきます。」
続いて二人もご飯の挨拶をする。
バイルは俺をチラチラと見ながらも、美味しそうに食べている。
問題はグローだ。食事だからマスクを外しているのだがずっとニコニコしてこちらを見ている。
「さ〜て、朝ごはんを一緒に食べに来たわけなんだけど〜・・・。」
ラルがグローを真っ直ぐみて頷く。朝の光を瞬く銀髪はやはり美しい。そして透き通るよなお月様の目、やっぱり綺麗だ。
「その前に、ぬいは本当ににゃふなの〜?」
ラルに見惚れていた俺に豪速球で飛んできたグローの言葉は綺麗にクリーンヒットし、俺は危うくご飯を吹き出しそうになった。
・・・が、元猫なので平然を装う。
「にゃふだよ。」
俺が平然を繕っている間に、ラルが答える。
「そっか〜。にゃふなんだね〜。」
「そう。」
俺も自分が本当ににゃふか自信はないが、一応頷く。
「じゃあ、なんで喋れるのよ。」
そのバイルの問いに3人の視線が俺に向く。
もう言い訳も何もできないので、素直にいう。
「すまんが、俺もわからない。」
「そっか〜。じゃあ、なんであんなところに倒れてたの?」
「あんなところ??」
「森よ。ラルが森の中で倒れているあなたを見つけて拾ったのよ。」
そういえば、そんなことを昨日話していたな・・・。
だけどそんなこと言われてもわかるわけがない。
「悪いが、本当に何もわからないんだ。気づいたら目の前にラルがいて初めてラルの前で喋れることを知ったんだ。だから、ラルに会った以降の事しかわからない。」
嘘は言っていない。流石に、別世界にいたとか前世は猫として9回生きてるとか言っても混乱を招くだけだ。それにまだラルにも言ってないんだ。こいつらには尚更いえない。
「そっか〜。なるほどね〜。」
「不思議なこともあるもんね。
でも確かに昨日喋っていたら大騒ぎになっていたかもしれないし、混乱も呼び寄せていただろうから黙っていて正解だったかもしれないわ。」
最初から絶対に喋らないでおこうと思っていた俺は今日が不測の事態なので今日を一からやり直したいではある。
一方、ラルの方はなんで喋らない方が良かったのか不思議なようで首を傾げながら「なんで?」とバイルに問う。
だが、答えたのはバイルではなくグローだった。
「そうそう〜。実はこれが本題なんだけどね・・・。最近近隣のハーフビラで子供の誘拐が多発しているんだ〜。確認の取れている報告で〜10名。それで、うちとしても警護を強化しようって話になっていたんだけど〜。」
「昨日、事態が急変しちゃったのよ。」
「どいうこと?」
ラルが頭に?をたくさん浮かべて問う。
俺も何がなんだかわからない。
まず、なんで俺が喋れることに対する話題が急に警護の話になるんだ?
それで?子供が誘拐?事態が急変?
「昨日の夜ね〜。うちの子も攫われそうになったんだよね〜。
ガニとギディの二人がね〜。まあ俺とバイルで未然に防げたんだけど〜。」
「わ、私は寝ていたのよ。グローが気づかなければ二人は今日このハーフビラにはいなかったわ。」
「でも、バイルが熱く語ってくれたからあのふたりも大人しく帰ったんだと思うよ〜。あれはかっこよかった〜。ラルにも見せたかったね〜。」
「もう!恥ずかしいからやめて!」
「ははは〜。照れない照れない〜。」
ラルも俺も朝から何を見せられているのか。
誘拐や急変の話を早く聞きたい。
ラルも同じ思いなのか、珍しく鋭く突っ込む。
「で?二人に何があったの?」
「そ、そうなよ。あのふたり変な男に唆されたみたいで・・・・・」
バイルは真剣な眼差しになり、昨日の夜何があったのか今ここで何が起こっているのか説明してくれた。割と長い話だったので俺とラルはご飯もちゃんと食べながら話をきく。
にしても、聞きなれない単語が多いな・・・。願いを叶えてくれる妖精?妖精付き?妖精はわかるが、見たこともないし前の世界でも姿形色々言われてたからいまいちピンとこない。
でも、なるほど・・・もし昨日俺が喋っていたとしたらこのハーフビラにとって、1番のイレギュラーといえば俺になるのだろう。そうなると隔離されてラルとは一緒に居れなかっただろうし何より真っ先に疑われそうだ。
「てな感じで、そのことについて私達のチームがどう対応するかの相談と情報共有ってことで、狩りにいく前に一緒に朝ご飯を一緒に食べようてグローがね・・・。ごめんね、ぬいちゃん起こしちゃって・・。」
「い、いや・・・・ダイジョウブデス。」
あまりにも今更すぎる謝罪に困惑するも、今朝の起床の流れは記憶の彼方に押し込んでいたのでぎこちないが大丈夫と答える。
「いやまさか、ぬいちゃんが喋れるとは思わなかったわ。今日一の衝撃ね。」
「本当だよね〜!!楽しくなっちゃうよ。」
グローの感想に心底呆れながら、ジト目で見る。
「うん。ぬいは喋れて綺麗で可愛い。自慢。」
ラルがそういうから急に恥ずかしくなって俯く。
「うん!仲良しでいいわね〜!」
「それじゃあ、ぬいもラルと一緒に戦えるようになるといいね〜。」
グローのその言葉に俺は顔をあげる。
戦う?
こいつまさか・・・俺と試合をしたいのか?
グローの顔は笑顔だ。
「グロー。だめ。ぬいは戦わない。」
「でも、にゃふだし狩りに連れて行けばいい相棒になるんじゃないかしら?」
「相棒・・・。それはいいかも。」
ラルの顔が少し明るくなる。
ラルは俺を狩りには連れて行かないつもりだったのか。
少し残念には思うが、それもラルの優しさなのだろう。
そう思いラルの顔を見上げる。
「へへ、相棒。」
そう言って、俺の顔をツンツンしてきた。かわいい。なんだ、この可愛さは。どうやら完全にラルの虜になってしまったらしい。
「お、俺も狩りに行きたい!ラルの相棒になってもいいか?」
「なろう。」
俺は気づいたら相棒になりたいといい、ラルはそれを承諾してくれた。
とても嬉しかった。
ここにきて・・・いや猫生で久しぶりに心から笑顔になった。
「よ〜し、決まりだね〜。
じゃ〜今日からの警備と狩りだけど・・狩りは俺とバイルで行く〜。」
「え?」
「え?」
聞かされていなかったのか、バイルまでも驚いている。
でも、なんで今の流れでそうなるのだろう。
そう思っていると、
「なんで今の流れでそうなるのよ。」
全く同じ疑問をバイルが口にする。
「ラルは〜、練習場でぬいに戦い方を教えてあげて〜。それに、さっきバイルが言っていたように相手は妖精付きの可能性があるんだよ〜。しかも、この森にいるんだよね〜。
ってことは、ハーフビラの警護は外の相手に警戒するより中の人を誰も外に出さず、誰もハーフビラの中に入っていないかを厳重に注意する必要があるんだ〜。」
「うん、それはわかるわ。」
バイルとラルは素直に頷く。
「そうなると〜必然的に、ハーフビラの中には自警団のメンツが多い方がいいんだよ〜。だから、ラルとぬいには常に警戒していて欲しいんだよね〜。
それと、僕は団長から森を探るように指示をもらっていてね〜。そうなると、チームの人数は少ない方がいい。まぁ、最初はラルも連れていこうかなと思ったけど〜。新しい相棒もできたからね〜。最初の狩りで何かあったら嫌でしょう〜?」
「うん。」
ラルはまたも素直に頷く。
その隣でバイルは難しそうな顔をしている。
「・・・確かに、今の森は何があるかわからないものね。わかったわ。」
「今〜、ハーフビラの中は団長とガミルが常に見張っているから〜。ラルは警戒もしつつ団長達の補佐に回って欲しい〜。あと、早くぬいを強くしてね〜♪」
「グロー・・・ぬいに何させる気よ。」
バイルはジト目でグローを見ながら呆れている。
何かを察知したのか、ラルが俺を抱いてグローから守ってくれる。
暖かくていい香りがする。
「まだ、何もしないよ〜。ただ、近いうちに狩りに連れて行ってもいいかテストするだけ〜。相棒として連れて行けるかをね〜。」
「そっか・・・相棒。」
ラルは、納得し俺をみて頷くが。バイルは、なんだか疑うようにグローを見ている。
俺と戦いたいだけだろうと思いつつ、絶対にコテンパンにしようと心に誓う。
「さぁ〜。それじゃ〜。各々警備を頑張るってことで今日も張り切っていこう〜。」
「なんでそんなにテンション高いのよ・・・」
なぜかものすごく張り切っているグローを、バイルはジト目で見ながらも立ち上がり伸びをする。ラルもささっと食器を片付けて身支度をしている。
グローがこちらを見ながら近づいてきた。顔を後ろに引き嫌だアピールをするがその場を退いたりはしない。
<ちゃんとラルを守るんだよ〜>
グローは顔だけ近づけて、小声で言った。
俺は言われたことにあまりしっくり来ず、思わずグローの顔をマジマジと見るがグローはそれだけ言うと満足そうにバイルの元へ行く。
なんなんだ?ラルはもちろん守れるなら守りたいが、今はまだラルの方が強いんだから守られる方だ。そこの認識は誤ってはいけない、そこを間違うと一気に死が近づく。野良の世界では常識だった。
だから、グローはなぜこのタイミングでそれをいうのか不思議でたまらなかった。
「じゃあ、ラル〜。ここは任せたよ〜。」
「ラル!行ってくるわ。」
「気をつけてね。行ってらっしゃい。」
「うん〜。」「えぇ。」
そう言って、ラルの家の前でふたりと別れる。
俺とラルは練習場に行く前に、裏手にある大樹に行く。先ほど話している中でこちらもよく警戒するようにとグローが言っていたからだ。
「ラル・・・。」
「何?」
「俺、頑張る。ラルの側で一緒に居られるように。」
「うん。私も。」
そう言って、肩に乗っている俺をラルは撫でてくれた。
暖かい気持ちで満たされているなか、例の大樹に着いた。
「これか・・・。」
「そう。」
二人揃って、その大樹を見上げる。
「ん〜。まぁ、大きいが普通の木だな。」
「うん。特に変わったところはなさそう・・・。」
「一応近くの柵とかも調べて欲しいって言ってたよな。」
「うん。」
柵の点検をするため、木から少し離れて周りを散策する。
大樹と柵の間には見晴らしのいい整地された砂地と所々に草と野花が生えている。
ゆっくりと見てみるが、特に気になる所はない。
ラルは目をキョロキョロさせながらもしっかりと見渡している。
「どうだ?なんか変わったことあったか?」
ラルは首を横に振る。
「そうだよな〜。特に穴とか空いていないしな。
そもそもなんで人がいない場所にスッと来れたんだろうな〜、その変な男。
村の中でも人目につかないのってここくらいなんだろう?」
「うん。」
「村の中を知っていないと無理だよな。それに子供以外が来てもおかしくないのに、なんでこんなところでこの木を見ていたんだろう。」
「確かにな!!!まるで子供が来るのをあらかじめ待っていたかのようだ!」
急な大声にラルと俺は振り返る。先ほどの大樹の後ろ・・・村側に誰かが立っている。
今日も汗を瞬かせ、うるさい輝きを放っているガミルだった。
「おはよう!ラルア。ぬい!」
「おはよう。」
まさか、こいつにも話せることバレたのか?
いやこの距離で聴こえているはずがないんだが・・・
「それにしても、喋れるんだな!ぬい!」
普通に聴こえていたらしい。
なんでこの距離で聞こえるんだよ。おかしいだろ。
俺は挨拶を返す気になれず、近づいてくるガミルの顔をじっと見る。
「そう。ぬいは今日ラルの相棒になった。」
「そうなのか!それはいいことだな。しっかり育てるんだぞ。」
「うん。」
ラルは、自慢気にガミルに報告しガミルは俺が喋れたことにあまり言及せず、受け入れていた。こいつ、外側は熱いが意外と中はさらっとしているのか?
「にしても、相棒か!!!羨ましい!俺も切磋琢磨できる相棒が欲しいものだ。
グローはライバルとしてはいいが、相棒としてはバイルがすでにいるからな・・・。ゴスは弟子に近いし。俺も今度狩りに行くとき何か拾ってきて育てるか!!ぬいみたいに意思疎通できるやつもいるかもしれんしな!!」
そうでもなかった。全然サラッとなんかしていない。うん。多分ズレてんだこの人。だから、俺がしゃべることに対して興味がないんだ。
ちょっと謎が解けてスッキリした。
「なんでここにいるの?」
相棒うぬんかぬんには興味なかったのか、話題を変えるラル。
ナイスだ。
「ん?あぁ、一応俺も夜から何度も大樹の周りを見歩いていてな。何もなかったんだが一応変化が見られないか定期的に確認中なんだ。多分、団長もそうしていると思う。なぜ、この大樹に男がいたのか気になるからな。」
それは、俺も気になる。そもそもなぜ子供をそんな周りくどく誘うのか。なぜ、この大樹のしたで立っていたのか。
「・・・まぁ、わからないのはしょうがない!森に関してはグローが何か見つけてくるだろう。だから、俺は子供達を守るために走り回るだけだ。」
「うん。」
「じゃあ、俺はもう行くぞ!このハーフビラを隅々まで回るのが仕事だからな!」
そう言って、謎の暑苦しさを残して去っていくガミル。大樹もだいたい見終わったし、ガミルも団長も来るならあまり心配は要らないだろう。
俺たち二人は、予定通り練習場にいくことにした。
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「それで・・・神素を集めるには自分のオーラが必要。オーラに神素が反応してこの晶球に集まってくる。」
訓練場で、俺は昨日中途半端に聞いていたオーラと神素について教えてもらっていた。
「その晶球には勝手に集まってくるんじゃないのか・・・」
「そう。これにオーラを通すと・・・」
ラルの腕についている晶球が光る。優しい光だ。
「こんな感じで集まる。そして自然と体に神素が合わさって流れてくる。」
ラルが、手に小さく丸い光を出す。
「これを体から離して出すには燐核を使った媒体を使った方がいい。燐核はオーラと神素が混ざったものを外に出てくれる石、それを使って武器や道具を作ると力が還元される。でも、ぬいは多分いらない。」
「そうなのか?」
「うん。モンスターにとっては魔晶核は晶球であり燐核。」
「じゃあ、この額の宝石にオーラを流すんだな。」
「そう。」
そういって頭に意識を集めてみるが、何も感じない。
「オーラを感じるには・・・」
「なんだ、本当にここで練習してたのか!」
次から次へと・・・今度は誰だ。あんまり振り返りたくないので推測する。
この声は聞き覚えがあるな、うん。間違いないだろう、さっきとは違うマッチョの登場だ。それにしてもだ、どうもここの人は急に現れる。俺が緩んでいるのか、気配を消すのが上手いのか・・・前者も後者もってところか。はぁ、気を引き締めないとな。
「団長、どうしたの?」
ラルもそんなに歓迎してないようだ。あからさまではないが、少しぶっきらぼうだ。
「グロー達と門の方であってな。お前達のこと聞いたんで、少し寄ってみたんだ。それで、ぬい。調子はどうだ?話は聞いているぞ。」
そうニヤニヤしながら、聞いてくるルーグ。
なんかすごいムカつく・・・けど、もういろんな人にバレいているからな。今更どうこうしてもややこしくなるだけだ。
俺が口を開こうとすると、先にラルが言葉を発す。
「いま、オーラについて教えていた。」
「ん?オーラの感じ方か?」
「そう。」
「で、感じ取れたのか?」
ルーグはこちらに視線をむける。
・・・どうしてもしゃべらせたいみたいだな。はぁ。
「まだだよ。この魔晶核が2つの役割を果たすってとこまでだ。」
「ほぉ・・・。これは面白いな。」
「何がだよ。」
「何って、お前さんが喋れることだ。まぁ、意思疎通出来るってのはいいな。どれ、俺も少しだけ付き合ってやる。」
そう言って、ラルと俺の間にドシンと座る。
いや、頼んでない。
なんだか、ラルとの時間を邪魔されるようでというか邪魔されたのでムスッとしながら嫌だと言う。
「いいよ。ラルがいる。」
「ぬい。ルーグはラルにオーラについて教えてくれた。ラルより教えるの上手い。」
そうラルに反対され、渋々団長の顔を見て先を促すのだった。
「ははは。まぁ、いいじゃないか。俺だってお前さんがどんな力を使うか気になるんだ。」
そう言って、ルーグは魔晶核をじっと見て「触るぞ」と一言添えて魔晶核に指を触れる。
すると、魔晶核がぼんやりと光る。それと同時に身体がほんのり熱くな・・・?なんだこの感覚。血が巡るのとはまた違う。だけどなんか身体の中を掻き回されているような。
うぅ・・・気持ち悪い。
「あぁ。ははは。すまんすまん。ちとやりすぎたな。」
「ルーグ。ぬいを虐めないで。」
「すまんて、怒るな。なに、すぐ元に戻るさ。」
先程の気持ち悪さが徐々に引いていき、次はなんだか身体がふわっと熱くなりなんとなくオーラの在り方がわかった気がした。
吸った酸素を身体の隅々まで充満させた時のような感覚だ。神素を取り込むと血流に酸素が運ばれていくようにオーラによって身体全体に行き渡るのだろう。
「はやいな。もう分かったのか?」
「キレイ。」
一瞬、2人が何を言ってるのか分からなかったがすぐ気づいた。魔晶核が光ってる。
それもぼんやりとじゃなく、ハッキリと俺の目にも少し見える。というかあれ・・・?なんだこれ。
感覚が研ぎ澄まされたのか、気配が一気に感じられるようになった。このハーフビラで一体誰がどこにどんなことをしているのか。
そして、ハッと気づく。
「大樹!誰かいる。ここの人達と違う異質な感じ。それともう一人いる・・これは多分ゴスっていう斑の髪の男の子。」
「なに!?」
「!!!」
すぐさま、3人は立ち上がり大樹へと向かう。
さすがは、団長か。俺より遥かにはやい。
ラルはどうやら俺に合わせてくれてるみたいだ。ここに来て初めての全力ダッシュ・・・なかなか思う通りに行かない。悔しい。
そうして大樹に辿り着いた。
大樹の下に立っている男がこちらを見る。
「ほう。次から次へと・・・。こんな早くに見つかるとは思いませんでした。」
何だこの男。嫌な匂いがする・・・。
上辺は高貴な香水の匂いだが、その中に混ざる腐ったような臭い。とても気持ち悪い。
団長はゴスの前に立ち、ゴスはその後ろで経たり混んでいる。
「なんのつもりだ。お前はなんなんだ?何しにここへ来た。」
「ほほほほほ。質問が多すぎではありませんか。一体あなたになんの権利があって質問しているのです。全て答えません。
ですが・・・私に気づいたご褒美。私の名前だけでも手土産に置いていきましょう。
"アヴァラス・アエテルヌム・ノビリゥス"
以後お見知り置きを」
そう言って男はシルクハットをとり深くお辞儀する。その姿勢は不気味な程伸びていて男の線の細さが如実に現れている。
「あなた、死んでいるの?」
ラルが問う。
「答えないと言ったでしょう。」
男はキッとラルを睨むがすぐにため息をつく。一瞬だったがすごい殺気だ。ラルが少し震えている。
「はぁ、・・・ここら辺なら特に支障もなく動けると思ったんですが。なるほど優秀な方がチラホラいるようだ・・・」
そう言って男は俺らを1人ずつ舐めるようにみる。眉唾を飲み身体を強ばらせる。
「・・・とりあえずお暇しましょう。」
そう言って、男は影形もなくスーッと消えていった。
俺は瞬時に先程の容量で気配を探る。
だが・・・この気配はハーフビラの人達だよな。さっき感じていた違和感のような気配はない。
ルーグが俺を見ていたので首を振って答える。
「そうか・・・。おい!ゴス大丈夫か!何があった。」
ゴスの顔色は悪く。
喋れそうにない。
ルーグはゴスを担ぎ俺たちの方を見る。
「こいつをはやくビーメに預けよう。ラルとぬいも一緒に来い。もうご飯の時間だろうし、一緒に食べよう。そろそろヴァンリー、リッギとヂーラも来るだろう。」
俺たちは、なんとも言えぬ空気の中その場を後にする。
なんだろうか、あの男。
高貴な香水の臭いの中に微かに腐ったような臭いがあった。
大きめのシルクハットに青白い肌心無しか牙もあったように見える。
そして、ラルは何故あんな問いをしたのか。
3人の足取りは決して軽くはないが、急ぎ自警団の拠点に向かう。
団長は、ゴスをビーメに預けた後村長を呼びガミルも呼んだようだ。
テーブルには重苦しい雰囲気が乗っているが皆静かに着席し先を伺う。
あの煩いガミルですら、難しい顔をしている。
最初部屋に入ってきた時は「ゴス!無事か!」と叫んでいたからゴスの話を聞いてすっ飛んで来たのだろう。先程ゴスの容態を確認してきてからこんな感じだ。
まぁ、そうだよな。弟子みたいな存在だと言っていたからな。
「まず、状況だが。進展はあった・・・悪い方に。」
ルーグが重く口を開く。
村長であるルーガが頷きこの場を仕切る。
「そうみたいじゃの、それじゃあ1から順を追ってまとめよう。」
それから俺たちは話し合い・・・というか主にルーグとルーガでこの状況を説明整理して行く。
纏めるとこんな感じだ。
ここら一体のハーフビラで、子供の行方不明が相次ぐ。今現在確認されているのが10名。
現在ハーフビラ同士で情報交換と協力体制が敷かれようとしていた。
その矢先に、今回の騒動の原因であろう男が妖精付きの疑いが出てきて更に今日姿と名前を晒していった。
「で・・・だ。俺から混乱を招く前に言っておくことがある。」
「なんじゃ?」
「今回の件とは関係がないと思うが、ぬいは他の魔物と違い言葉を使って意思疎通をすることが出来る。」
「そうなのか?」
村長のルーガ以外は知っているので、そんなに場の空気は変わらない。
「あぁ、俺もよく分からないが喋れている。」
「本当じゃの。不思議じゃ。」
「だが、大樹にいち早く辿り着けたのはぬいの察知能力によるものだ。だからぬいの事はイレギュラーだが今回は関係ない。」
団長が、断言してくれる。
確かにタイミングとイレギュラーな感じがマッチしすぎているからな。疑われるのも無理はないが断言してくれるのはとても嬉しい。
ラルに迷惑をかけなくて済む。
「そうじゃの。ぬいがいなければ敵の素性すら分からなかった可能性があるからの。
ありがとう。」
村長はそう言って、俺にお礼を言ってくれる。少し照れくさい。初めての感覚で少しテンパっていたと思うが上手く伝わり進展する方向へ導けたのは素直に嬉しい。
「俺から質問があります。」
「なんだ、ガミル。」
「先程の説明に無かったのだが・・・何故ゴスはあのようになったのですか?」
あの場にいることが出来なかったのを悔いているのか、腕がプルプルしている。
「それは、俺もわからない。」
"ガタン!"
急に大きい音が部屋中に響き、気づいたらガミルが立っていた。ガミルは顔を提げ震えているが、気にしないかのようにルーグが続ける。
「駆けつけた時、男がゴスの近くにいてゴスがふらついた瞬間だった。すぐさま距離を取らせたが・・・。ずっと喋れもしない状態にある。これは俺の憶測だが・・・オーラを流されたのではないかと思う。それも多量に。あの男のオーラ・・・いやあれは気配だな。やけにずっしりと重かった。」
「そうですか・・・ありがとうございました。」
ガミルはもう一度座り直すがやはり難しい顔のままだ。
部屋の空気はこれ以上ないくらい、重たくなっていた。
そこへビーメが現れる。
「みんな、お待たせ!お昼が出来たわよ。」
ビーメの声はこの重たい空気を少し揺らし、ぼんやりと明るさを取り込んだ。
「おお!待っておったぞ。ありがとう。ビーメさん。」
「ありがとう。ビーメ。」
「ありがとう。ビーメさん。」
「ありがとう。」「ありがとう。」
俺はラルに言葉を被せながらも感謝を言う。
「それで、ゴスはどうだ?」
団長の言葉に、皆がビーメさんを見る。
ビーメさんは、せっせとテーブルセッティングをしてくれており顔を下に向けていた。
だが、少し顔を上げて朗らかな笑顔を見せてくれる。
「ええ。顔色もだいぶ良くなって、今は安定した寝息をたてて寝ているわ。」
その言葉に、皆がの肩が安心して下がったように見える。俺も安心したのか今になって、ものすごく美味しそうな料理が目に入る。
ありがたいことだ。美味しいものを毎日食べれることに感謝だな。それを用意してくれたビーメさんにも。
「さっ!みんな食べて〜!難しい問題も元気な状態で考えた方がいいわよ〜!」
そう言って、ビーメさんが食事を促す。
草原に咲く花のような暖かい人だ。
皆で挨拶をし、食事を始める。
.....................................................................
〜薄暗い洞窟〜
「あら〜?もう帰ってきたの?私の可愛いアヴァ。でも、変ね〜。お使いを頼んだのに荷物が見えないわ。」
「あぁ。ごめんよ、トルー。少し邪魔されてしまってね。だけど大丈夫すぐ変わりを連れてくる。その前にトルーの顔が・・・」
バチン!
男が倒れる。
「役立たずね!!!あなたもう死にたいのかしら?」
「ご、ごめんょ」
バチン!
「謝罪は要らないわ。」
そう言って歯ぎしりをした後、女は倒れた男を見る。男は下を向き震えている。
「あぁ。愛しのアヴァ。私はあなたがいないとダメなのよ。だから怖がらないで。
だけど次また失敗したら私怒っちゃうわ。」
「あぁ、トルー。うん、君のために頑張るよ。」
「ふふふ。いい子ね・・・。
いつものしてあげる。」
そう言って、女は男に濃厚な口付けをする。
5秒ほどの口づけの後、男は恍惚な表情で虚ろな目をして遠くを見つめたまま動かなくなった。
「・・・チッ。あーあ。玩具もう少ないんだよね〜。飽きちゃって捨てちゃったからな〜。うーん、でもやっぱりあの絶望に変わる顔は見たいから新鮮じゃなきゃ意味ないわ。」
そう言って女は自身の身体ほどある扇子を叩き閉じ、奥へ行く。
「はぁ〜い。私の玩具達こちらへおいで。」
生気のない顔をした子供達がフラフラと立ち上がり女に寄る。
そして、また女は舌打ちをする。
「・・・やっぱりこんな顔になったあなた達は嫌いだわ。だからせめて私が可愛く飾ってあげる♪」
そして、赤く染まった壁一面に飾りを足していく。赤黒くなったその壁にまた新しく赤がたされる。そのアートのような壁を上から差し込む僅かな光が美しく照らす。
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