ハーフビラ 探索と自警団
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翌朝。
緊張と不安で深い睡眠をすることもなく。
ただただジッと。このラルという生物に寄り添っていた。
風が木々を揺らして遊ぶ中、そんな木々を微笑むように光がキラキラと瞬いてる。
そんな風景が窓から見える。
眩しさに少し目を細くするも、この綺麗な光景をゆっくり見たことはなかったのでセンチメタルになりながら昨日のことや記憶のことに思いを馳せる。
もぞもぞとシーツの擦れる音がし、ラルが頭を起こす。
「っ!!!」
顔を近づけたラルに、思考より反射が勝ち。
ベッドから落ちるも、華麗に着地を決める。
落ち着きを取り戻して上を見ると、少し残念そうにムスッとしたラルが寝癖と共にこちらを見ている。
「モフりたかった」
「第一声がそれか。」
「おはよう。」
「おはよう。」
軽い挨拶を交わしラルはソッと床に足を下ろす。ふわっと香る爽やかな香りに鼻がムズムズするもまだ親しくもないラルを見てなんだかホッとする。
「今日はハーフビラを見るんだよな」
「そう。」
「もう行くのか」
俺は、気持ちが急いていた。不安の原因が無知だと知っているからこそ早く外に行きたかった。
髪を櫛で梳き、まだ目が半分空いていないラルの煌めく銀髪を眺めながら先を促す。
「・・・まだ。ご飯食べてない。」
そういうとラルは立ち上がり何やら、ゴソゴソと準備を始める。
「あ。そうか」
しばらくご飯の習慣がなかったため、忘れていた。
”””キュルル”””
どうやら、お腹は空いているらしい。
その可愛らしい音に少しびっくりするも、はずかしさにどう誤魔化そうか思案する。
「ん」
ラルは元々いた箱より少し高いテーブルの方に座っていて。目の前に自分の分であろう赤い皿を置き、隣には小さい黄色の皿を置いた。
黄色の皿には、昨日と俺が食べたものと同じものがのっている。
トントン
ラルはこちらを見ながら皿の傍を軽く叩く。
「いいのか。」
「うん。」
ラルはさも当然の如く頷き。ラル自身も白いスプーンのようなものを持つ。昨日、食べたものと全く一緒の匂いに安心した俺はスタッとテーブルに乗り、お皿の前に腰を落とす。
「いただきます。」
ラルがぽつりと呟く。
ん?どこかで聞いた言葉だ。どこだったか、・・・まぁいいか。多分前世に似たような習慣にあったような覚えがあるのだろう。
「ぬいも言う。」
「え?何を?」
「いただきます。」
「なんで?」
「食べ物を食べれることに感謝。」
なるほど。確かに食べ物にありつけること。そしてそれを安心して食べることが出来ること。それに感謝しなくて何に感謝するというのか。
「わかった。いただきます。」
「召し上がれ。」
うん。美味しい。昨日も思ったが、この黄色の物は口の中で溶けるように旨さだけを残し、茶色のものはカリカリとした食感に先程の黄色の物の旨みと共に口の奥へ運ばれていく。実に旨い。
「なんで泣いてる。」
「え?」
こっちを除くお月様の眼が少し泳いでいる。
「不味い?」
「・・・・。」
まさかそんなことを言われるとは露ほども思わず、そんなことを心配したのかと思わず笑みがこぼれる。
「いや、逆だ・・・
美味しい。」
「そう。良かった。」
ラルは安心したように自分の皿へと向き直る。
皿の上が何も無くなるまで無心に食べ続け、先に食べ終わったラルが何やら着替えを始める。
俺が食べ終わると俺の顔を見て、指を伸ばしてくる。
「口、ついてる。」
どんどんと近づいてくる指に恥ずかしさを覚え急いで口の周りを舐める。
指がピタッと止まる。
「無くなった。」
「・・・。」
俺は何も無かったことにしたかったため、目を逸らしスルーする。
「ぬい」
・・・俺はまたスルーする。
「足にもついてる」
慌てて足を舐めた。顔を隠しながら。
「可愛い。」
そう言って僅かに頬を緩ませる彼女はまるで女神様の様だった。
さらに恥ずかしくなりまた顔を隠す。
「そろそろ行こ。」
そう言う彼女に抱き上げられ、肩にのせられる。初めての目線にありとあるゆる光景が我先にと目に飛び込んで情報を与えてきた。
その中でも輝きを放っていたのはタンスの中間に置かれている丸いガラス玉2つ、金の足が木の根っこのように生えている。そしてその隣には、細長い棒のような少し平たくて白と金で装飾されているもの。
ラルはそのガラスと棒を手に取り腰と手首にはめる。
「それはなんだ?」
「燐刀と晶球」
「???」
言われてもさっぱり分からない。
「戦う道具」
「ああ。なるほど。」
護身用か??
「じゃあ、行くよ。」
ついにこの世界の全貌が見える。これからをどう生きるのか。
俄然興味が湧いてきた。
眩い光を隙間から覗かせている扉に手をかけその光を全身で浴びる。
遊ぶ風に翻弄されながらも楽しそうにわらう木々。
それを微笑むかのように瞬く光。
コココココココココココ
そして、なんだかリズムを刻んでいるような甲高い音。
まるで、鶏のような・・・・・
「待ってーーーーーーー!!」
神秘的な絵画が一瞬にして平凡な一枚になった。
「あーー!ラルア姉ちゃん、その子捕まえてーーー!!!」
ラルは瞬時にその音の主の前に立ちはだかる。
一瞬にして目の前に壁ができてしまったその音の主は、
ココココココココココココココ
といいながら足を滑らせる。
ラルはすぐさま足を掬い、それを持ち上げる。
「はぁ、、はぁ、、はぁ、、、あ、ありがとう。」
「いいよ。」
走って息を切らしている子にその逆さまに持ち上げたものを渡す。
にしても、なんだこの生物は。
黄色の一本足、薄緑の大きな体に赤のライン、嘴は黒く根元に米粒ぐらいのきらきらした石。そして、
ココココココココココココココココ
そう、この変な音。
何から何まで騒がしい。
「このコカトリス、私が扉を開けた瞬間に私を踏み台にして飛び出したの!!!
もう、朝からこんなに走って嫌になるわ!」
「お疲れ様。」
「あら?」
少女の目線が俺で止まる。
水色の髪の下にちらりと見える緑の髪が肩よりも短くまとまっている。
そして耳の先が白い羽根だった。
何を言っているかわからないだろうな。
俺もわからない。ニンゲンではないようだ。
だが、驚きを悟られたくないのですまし顔で見つめ返す。
「にゃふかしら。かわいいわね!!ラルア姉ちゃん!」
「そう。ぬい。」
「ぬいって言うの!可愛くて素敵!
ところで、そのにゃふ拾ってきたの?」
「うん。森の中にいた。」
「ふーん、にしても大きい魔晶核ね。とても綺麗!
もっと近くで見てもいい?」
黙って腰をかがめる。ラル。
目線が平行に交錯し、子供が手を伸ばす。
少し顔を後ろにひき、手が届かないようにする。
「あ〜、嫌われちゃったかしら。
しょうがないわね、徐々に仲良くなっていきましょう。
ラルア姉ちゃん、今日も狩り?」
「ううん。今日はぬいにハーフビラを見せる。」
「そうなの!いいな〜!私も一緒にいたいんだけどお母さんに怒られちゃうから行くね!」
そう言って少女はずっと鳴いてる鳥を軽く引きずりながら、小走りで奥の方に行った。
「なあ」
「あの奇妙な音を出す生物はなんだ?」
「コカトリス。」
「コカトリス?」
「モンスター。」
モンスターのコカトリス。モンスターのにゃふ。なるほど。
モンスターというのは前世でいう動物みたいなものか。
「にしても、騒がしいモンスターだったな。」
「同感。」
そういいながら少女が走っていった方へ歩いていくラル。
やがて数件の家ともう少し奥の方に門のようなものと、中心に井戸が見えてきた。
「おお!!ラルアじゃないか!!おはよう!今日もいい天気だな!!最高だ!」
「おはよう」
ラルの家にいても聞こえてきそうな大きな声で挨拶してきたのは
上半身裸、肩にタオルを巻き、額に汗が煌めき、鬱陶しい輝きを放っている。
そして、胸から肘にかけて茶色の羽を敷き詰めたマッチョである。
さすがにすまし顔はできず、とりあえず目を細める。
「うんうん。今日も元気そうで安心だ!」
じゃ!と言って男は走っていく。
「あれは?」
「ガミル」
「モンスターか?」
「違う。」
「違うのか。」
ラルは少し考えて
「雑種」
と言った。
「あれも雑種なのか」
「うん」
「コカトリスと同じぐらいうるさいな。」
「うん」
なんか見たことない生物だらけで、不覚にもワクワクしてきた。
やがて井戸のそばにやってくると
「おお ラルじゃないか」
そう声をかけてきたのは、頭が光っている老人だった。そして、めっちゃ眉毛長い。
え?地面までついているんじゃないか?
「おはよう。ルーガ」
「お前さん昨日は帰ってくるや否や、部屋に引きこもったみたいだが何かあったのか?」
眉毛のせいで暗く瞳の見えない目元がこちらを向く。
ラルはルーガの隣に座って俺を見せようとするが俺はラルの頭にこれでもかと身を寄せ、一応距離は保つ。
「ほう。珍しい色だがにゃふか。」
「昨日、森で拾った。」
「こんなに大きな魔晶核のにゃふは見たことないが・・・」
瞳が見えないその目で何を見ようというのか、視線だけが突き刺さる。
「まだ小さいし、かわいいもんじゃの。
飼うのか?」
「うん。ぬいっていう。」
「え?」
声にもならないほどの掠れた声で驚きの声をあげる。飼われるのか俺。
老人の耳には遠かったのか、スルーされて話が進む。
「そうか。大事にするんじゃぞ。」
「うん」
「今日は狩には行かんのか。」
「うん。村の案内する。」
「そうか、それはいいな。ゆっくり回るといい。
じゃあ儂は日課のトリ小屋に散歩に行ってくる。お主も後で行くといい。
そのかわいい相棒も一緒にな。」
「うん。」
そうしておじいちゃんと別れたラルはまた奥の方に歩いていく。
その道中でもチラホラと声をかけてくる人達がいた。皆どこかしらに羽のようものがあり、中には嘴のようなものが付いているものもいてとても不思議な光景だ。
だがあまり嫌な感じはしなかった。皆笑顔で幸せそうな感じがしたからだ。
すると、ラルが門の前で止まりふと上を見上げる。
釣られて目を細めながら見てあげる。
「バイル!」
ラルが初めて聞く大きい声で叫んだ
その瞬間高い塔みたいなところから、何かが飛び出してきた。
咄嗟に臨戦態勢に入る。
何かは綺麗に着地をして、スクッと立ち上がる。
「おはよう。ラル。」
「おはよう。バイル」
紺の髪、耳は紺の羽。目元には赤く小さい羽が3つずつついていて、大胆に開いた胸元には白い羽がファサっと乗っている。
とてもセクシーな女性だ。
「思ったより遅かったわね。昨日はゆっくり出来た?」
「うん。」
「そう。それは良かった。」
彼女の視線が俺で止まった。
「その子も元気そうね。噛まれたり、攻撃されたりしなかった?大丈夫?様子を見る限り大丈夫そうだけど。」
「うん。可愛い。」
俺はドキッとする。心臓の鼓動がラルにも聞こえるんじゃないかとさらにドキドキする。
「そっか。なら私も大歓迎だわ!体の割にこんなに大きい魔晶核がついていたから少し不安だったのだけれど。」
「うん。とても綺麗。」
ドキドキが更にドキドキする。
少し息も荒くなったが、気づかれないようにポーカーフェイスを保つ。
「ふふふ。ラルらしいわね。」
「おはよう〜」
後ろからのんびりと歩いてきたのは、首まで覆われた服を着た、黒髪黒目の若い男。
よく見ると肘から手にかけて黒い羽がある。
「遅いわよ、グロー。もう昼じゃない。」
「まだ、朝だよ〜」
「昼だと思う。」
そんな3人を見つつ、もう昼になったのかと内心驚く。そういえば、太陽が真上にあるような????まぁ、いいや。
「それ、昨日のにゃふ?」
「そうだよ。ぬい。」
「へ〜もう名前つけたんだ〜。」
「いい名前ね。」
2人の視線が刺さっている俺は、ラルの頭にこれでもかとくっつく。
「ぬい。くすぐったい。」
そう言われてしまったので少し離れる。
「あら?言葉が分かるの??」
「うん。」
・・・まずい、昨日ラルが「にゃふは喋らない」と言っていた。ということはふつうは話が通じるわけないんだ。やってしまった。
普通じゃないものは興味を惹かれる。
興味を引かれると絡まれるので非常にまずい。
ぬいは1人でソワソワする。
「ね〜それよりも、、、暇だし訓練所行かな〜い?」
先程のんびり現れた男が、いい感じに流れを変えてくれた。ナイスだ黒い男。
「あんた、さっき起きたばっかりでしょ。寝起きで暴れると体壊すわよ。」
「大丈夫〜。」
「はぁ、、、まぁでも。そうね。今日は狩りにも行かない予定だし私も久々に練習したいから賛成よ。ただ、ご飯食べてからにしましょー。」
「うん。お腹空いた。」
「え〜。お腹すいてないよ〜。」
「寝坊助は黙ってて。」
「は〜い。」
何やら訓練所には行かず、先にご飯を食べるそうだ。俺もあまりお腹は空いていないが・・・。
”””きゅるるる”””
空いているようだし、賛成だ。
「ぬいちゃんのご飯は、何あげたの?」
「干しコカとコカ玉」
「そう。ならどこにでもあるから困らないわね。」
あの美味いものは、ホシコカとコカタマというのか聞いたことないな。
この世界は不思議な食べ物を食べるんだな。
(低めのいい声):もちろん、干しコカは干したコカトリスの肉だ。コカ玉は、コカトリスの卵の黄身だけをといたものを指す。
この時、ぬいはあの煩いモンスターを食べていたなど微塵も思っていない。
たわいもない話をしながらついたのは、
何やら騒がしい小屋の隣にある、少し大きい家だ。
騒がしい小屋からは、朝聞いたあのコカトリスの鳴き声がする。
「こんにちはー!」
バイルというセクシーな女性が声をあげる。
「はーい!!あら!いらっしゃーい!バルちゃん、グロー、ラル」
「こんにちは。」
「こんにちは〜。」
家の中から出てきたのは、ロングストレートの緑髪で笑顔がぱっと花咲いたような女性だった。
「そっか〜。もうお昼なのね!」
「うん。私たち3人の分とこのぬいの分をお願いしてもいいかしら?」
「ぬい?」
「この子。」
そう言ってそっと俺を掴んだラルが手のひらにのせて、みんなの前に俺を差し出す。
俺は首を後ろにひき、触るなアピールをする。
「まぁ!可愛い〜!! 毛色が珍しいけどにゃふかしら???」
「そう。昨日拾った。」
「まぁ!いいわね〜!!ラルにぬいちゃん!とても似合うわ〜!!」
「へへ」
何やら嬉しそうな声をあげるラル。
表情はみえないがホワホワしたのが伝わってくる。
そして、緑の女性は俺を触ることなく顔を上げる。触るなアピールは成功みたいだ。
「それでぬいちゃんは何を食べるのかしら??」
「干しコカとコカ玉。」
「分かったわ!まかせて!じゃあ3人のは・・・」
「こんちわー!!!」
先程まで暖かい公園のような空気が流れていたのが一変して雑多な感じになる。
「あら、ガミル!今日は早いのね!」
「こんにちわ。ビーメさん。」
「こんにちわ!ゴスもいらっしゃい。」
そう言ってやってきたのは、
朝逢ったむさ苦しい筋肉質な男と少し背の小さい茶色と黒の斑らな髪をした男の子だ。
「ちょっと!声のボリュームデカすぎよ。ぬいがびっくりして固まってるじゃない。」
「おお!バイルにグロー!ラルアもいるじゃないか!」
「あ!ラル、、、」
バイルがなかなか鋭く突っ込むが、煩い男は華麗にスルーをし声のボリュームはそのままに挨拶を続ける。
斑らの男の子はラルをみて二へっと笑う。
ラルは無言で手を振っている。
「ビーメさん、とってきたぞ!」
そう言って煩い男が掲げたのは、コカトリスに似てるが色と大きさが微妙に違う生物だ。
全体的に白く嘴は真っ赤だ。
「二羽捕れたっす。」
そう言って斑らの男の子も掲げる。
「あら!今日は収穫ね!だからこんなに早かったのね。ありがとう。」
「ああ!今日はなんか気合がはいってな!本当はもう一羽行こうと思ったがゴスがお腹すいたと言ってな!」
「だって、ガミルさん。もう一羽っていうのが3回ぐらい続くじゃないですか。二羽取れば十分でしょう?」
「ゴス、まだ鍛錬が足りんな!取れる時にいっぱい獲るんだ。」
何やらゴチャゴチャ言っている所を、ビーメと呼ばれる笑顔が素敵な女性が仕切り直す。
「はいはい。二人ともお疲れ様。じゃあ、お昼ご飯を作ってくるから座って待ってて?
今日のご飯はコットの唐揚げよ!」
「おお〜早く食べた〜い!」
「あなたさっきお腹すいてないって言ってたじゃない。」
ころっと意見が変わるグローにすかさず突っ込むバイル。
ビーメは奥の方へ小走りで向かい、それ以外はガヤガヤとしながらも全員がテーブルにつく。
「それにしても自警団全員揃っての食事は久しぶりだな!!!」
ガハハと笑いながら言うガミル。
「おい、誰か忘れていないか。ガミル」
ずしっとした声にガミルはしまったという顔をしながら立ち上がる。
「団長!いたのですか!?」
「あぁ、裏で剣を振っていたのだがな。ビーメのやつが珍しくみんな揃っていると言うから顔を出しにな。」
「お〜団長、また髭伸びましたね〜」
「グロー、お前は相変わらず間延びしているな。」
「う〜っす。」
「して、ラル。その肩に乗っているのがバイルとグローが言っていたにゃふか?」
「そう、ぬいっていう。」
そう言って、俺をテーブルに乗せる。
視線が俺に集まる。ただ一人ゴスという斑らの男の子の目はラルに釘付けだ。
「おお!変な毛だが実に可愛らしい子ではないか!」
ガミルがスーパーボリュームで言う。
変とか・・・お前には言われたくない。
ガミルの胸には朝と変わらず茶色と白の羽がわさっと生えている。
見るからにお前の方が変だ。
「どこで拾ったんです?」
さっきまで、興味ないとばかりにラルを見ていたゴスが会話に参加する。
「森の西よ。」
「西というと、川のあたりか?」
何故かバイルが答え、団長のおっさんも流れに乗る。
「そう。そこからもうちょっと奥に行ったところね。」
「珍しくラルが先頭を走ったんだよね〜」
「それは珍しいな、ラルはグローについていくだけだったのに。」
団長は不思議そうにグローからラルに視線をうつす。
「やっと、ラルも自分で突き進む楽しさを知ったのだな!!!」
「違う。」
「照れなくていいぞ!今度からは一緒に、、、、」
ガミルの言葉は団長に物理的に遮られる。
「ちょっと黙ってろ、ガミル。
で?なんで先頭を言ったんだ?お前は強いがまだグローについて行った方が安心だろう?」
「誰かが助けをもてめてる気がした。少し焦ってた。」
そういうラルはちょっと目を伏せ俺に視線を向ける。
グローが続ける。
「そうそう〜、急に先頭に飛び出るからびっくりしたよ〜。まあ面白そうだから何も言わなかったけど〜。」
「私はヒヤヒヤしたわよ。どんどん進むしグローは何も言わないし。」
なんだか、よくわからないがちょっとラルが責められているような気がしてムッとする。
「お待たせ〜!!!できたわよ〜!!」
猛烈な匂いとともにビーメが大きなお皿を三つ持ってきて並べる。
うす茶色のサクサクっぽい衣に包まれて少しテカテカしているコロコロとしたものだ。
「おおお!これはたまらん!」
「美味しそう!」
「いただきま〜す。」
それぞれ、思い思いの反応をしフォークのようなものを手にとっていく。
「は〜い!これ、ぬいちゃんのね!」
俺の前にも皿が置かれる。
ラルの家で出たのと同じようだが少し匂いが異なる。
首を傾げていると、
「ビーメさん家のコカ干しはとても美味しいよ。」
ラルが顔を近づけてこそっという。
家によってご飯が違うのは当たり前か。。。
そう思い口をつける。
「美味い!美味いぞ!」
「ちょっと!ガミル。落ち着いて食べなさいよ!」
ガツガツと小さい何かが飛んできそうなガミルにバイルが呆れた顔をして指摘する。
「美味いに決まっているだろう。俺の嫁の作ったものを不味いと行ったやつは 「はいはい、殺すんですよね〜」
「お、おい。グロー俺のセリフをとるな」
「あー!!!ガミルさん俺の食べかけ食べないでください!!!」
「ははは!まだまだ鍛錬が足りないな!ゴス!」
ワイワイと食事が続いていく。なんだろうか、こういう騒がしいのは苦手のはずだったんだがな。
驚きの連続でどうも警戒心が薄れている気がする。
「どうかしら〜??ぬいちゃんはちゃんと食べている??」
「うん、美味しいみたい。」
「ふふふ。」
「本当だ。なかなか美味そうに食べているな。」
「もう!あなたのご飯はそっちよ。」
「なんだよ、ビーメ。俺だってラルの拾ってきたにゃふが気になるんだ。」
「じゃ〜、団長の分いただきますね〜。」
「あ、グローそれ私にも分けて。」
「おい、お前らやめろ。まだ食べ足りないんだ。」
まだまだあるそのコロコロしたものを奪い合うように皆が口に入れていく。
「ふふふ。最近は、狩と見張りを交互にしているからみんなばらけていたものね。
こうしていると、とても楽しいわ!」
「そうだ!!この後はみんなで試合でもやるか!!!!!」
突然、小さいカスを飛ばしながらがミルが叫ぶ。それに団長が嬉しそうに反応する。
「おお!いいな、それ。俺も相手が欲しいところだったんだ。」
「ダメですよ!コットはまだ二羽しか獲れていないんですから!」
そう言ってゴスは身を乗り出して煩い男と団長に抗議する。
「そうよ。あなたの気分でみんなを振り回しちゃダメ。」
「ビーメ・・・わかったよ。」
「あ、、でも、団長命令だったら・・・」
ちらっとラルを見て、ゴスはは目を伏せる。
「・・・いや、すまん。大丈夫だから狩に専念してくれ。」
そう団長に言われちょっと残念そうに椅子に座り直したゴス。
それを見ていたバイルは、密かにため息をついて可哀想な目でゴスを見る。
「ゴス。残念だったわね。」
「っな!何が?」
「なんでもない。
それよりも団長。私たちは訓練場に行く予定よ?団長も来る?」
「ほんとか!!おお!行くぞ!グローをやっとボコボコにできそうだ。」
「団長じゃ、無理だね〜」
「おい、舐めすぎじゃないか??いい度胸だ。痛い目を見せてやる!!」
今すぐにでもと言わんばかりに目と目で火花を散らせている。グローと団長・・・力的には均衡しているのだろうか?どちらも譲る気は無さそうだ。
「おーい、ルーグはいるか?」
突然の声に皆が一斉に振り返る。
そう言って、入ってきたのは朝井戸で会った眉毛が地面に着きそうなルーガと呼ばれた老人が頭を光らせやってきた。
「親父!」
「お義父さん!」
「おお!ビーメさんも!!!!自警団お揃いじゃの。」
「ええ。今みんなで、ご飯を食べていたところよ。村長。」
このおじいちゃん村長だったのか。
みんなが村長に注目している中、ラルはずっともぐもぐしていた。
そんなラルを見つつ、俺も皿に残った旨みを綺麗に舐めとる。
これが大事なんだ。やはり、最後まで綺麗に食べてこそ食への感謝が伝わるってもんだ。
それに残したら明日食べ物にありつけなっかたときにめちゃめちゃ後悔するからな。
村長と一通り挨拶をし終えたところで団長が切り出す。
「で、親父。どうした?今日は日課のトリ小屋にはもう行ったんだろう?」
「あぁ、そうじゃった。ルーグ話がある。ビーメさんも手が空いたらきてくれるか?」
「え、ええ、わかったわ。」
なんだか引き締まったような雰囲気になり皆が少しずつソワソワし始める。
「な〜んだ、団長をいじめるのはお預けですね〜。」
「ほざけ、ボコボコにされなくてよかったな。」
「私も団長とグローの戦い見たかったな〜。残念〜。」
「なんじゃ。皆で試合でもするつもりだったのか?」
「あぁ。この生意気な小僧を久々にしごいてやろうと思ってな。」
「それは間が悪かったな。わしも見たかったが・・・また今度の機会に用意してくれ。」
「わかった〜。」
「は〜い。」
「じゃ、俺はいくからな。ちゃんと後片付けするんだぞ!ビーメに負担をかけるなよ!」
「へ〜い。」「わかっているわ。」「ああ!任せてくれ。団長!」「はい。」
各々軽く返事をし、空いた皿を持って奥の方へいく。
「綺麗に食べたね。」
そう言って、ラルは俺の皿をとり自分のと重ねて持っていく。
その瞬間に、腕を登って肩の定位置につく。
うん。安心する。
「あ、そうじゃ。ラル!」
村長の言葉に反応してラルが振り返り、首をかしげる。
「明日は、ヴァンリーが来る日じゃ。今日手紙がきておったぞ。」
「本当!?」
「あぁ、だから明日は早めに狩を切り上げるといい。
バイルとグローにも言っといてくれ。」
「うん。わかった。」
そういうとラルは、嬉しそうに目をキラキラさせながら歩いて行った。
「さて、それじゃ行こうかの。ビーメさんも待っておるぞ。」
「はい。お義父さん!すぐ伺います。」
「では、ビーメまた後で!」
「はい!」
そう言って、各々準備をしそれとなく別れていく。
にしても、やはりここのご飯は美味い。
なんといってもあの黄色のものが美味い。
口の中にずっと居続けて欲しいが儚く散り、そして幸せをこれでもかと残していく。もう最高だ。
なんだかんだ楽しくご飯を堪能できた俺はとても満足した気持ちだった。
ラル、バイル、グローと俺はすぐ裏にある練習場に来ていた。
少し広めの広場に、弓用の的や棒が何本か立っている。
「さ〜、やろ〜。」
「何よ、そのはじめ方。気が抜けるわね」
と言いつつも、伸びをしたり屈伸をしたりと二人とも身体を動かしていく。
ラルも肩に俺を載せたまま器用にストレッチをしている。
試合といっていたな・・・何か勝負するのだろうか。
「で、最初は誰からにしようかしら」
「最初、やりたい〜」
「まぁ、そうでしょうね。グローは決定よ。ラルはどうする?」
「次がいい。」
「そう。わかったわ!なら、グロー。手加減なしよ。」
「おっけー。バイルとやり合うのも久々だな〜。」
「そうね。あなた相手だと油断は出来ないけど、今日こそ参ったといわせてやるわ。」
「ははは!楽しくなってきたね〜」
スっと、ラルが2人の間にはいる。
集中力が研ぎ澄まされるのが空気を通して伝わってくる。2人は真剣な眼差しで互いを見ている。なんだか、こっちまで緊張してきた。
「はじめ」
ラルがスっと上に飛び距離を取る。
最初に動いたのは、バイルだ。よく見ると身に付けているネックレスが光を放っている。
スっと後ろに下がり、背中に背負っている弓を取り矢を2本作り出し真っ直ぐグローに向かって放つ。
一方グローは、真っ直ぐ突っ込みながら腰に挿していた剣を抜き、光のような風を纏わせ1本を弾きもう1本は避ける。
避けられた矢は、素直に後ろに流れ地面に刺さり消える。
2人の攻防が続く。
そんな激しい攻防の中、俺はこの不思議な光景をラルに説明してもらおうと密かに喋りかけていた。
「ラル。なんだ、あの矢は。消えたり出したり・・・何より光ってる。」
「あれは、バイルの力だよ。バイルは、”ウェント・アルカス”っていってた。」
「どういう仕組みだ?」
「神素って空気中にある力を、体の中にあるオーラと合わせて外に出すとああなる。」
「神素?オーラ??」
「そう。神素は絶対に空気中にあるもの。
オーラは体内エネルギーらしいけど、国や文化によって言い方が変わるみたい。」
「みたいって、ラルも知らないのか?」
「うん。」
「なるほど。ここではオーラって言うんだな。」
ラルが珍しくいっぱい喋ってくれたおかげで何となく理解は出来た。
その時、
ドゴーン!!
ものすごい音と土煙があがる。
煙の中から2つの影と声が聞こえてくる。
「へ〜やるじゃん〜。」
「あんたねー!そんな大技使って私が怪我したらどうすんのよ!」
「大丈夫〜。俺が知ってるバイルはこんな事で怪我しない〜。」
「もう!無駄口ばっかり!見てなさい!
『ウェント・アルカス 第10式 ""プルウィア"" 』」
その瞬間、上に向けて放ったバイルの矢が光をまして大きく広がり、何本にも増え、グローに降り注ぐ。
「っ!!」
咄嗟に剣で受け流すグローだが、数が多すぎてかすり傷がどんどんついて行く。
「ふふふ。どう?最近こっそり練習してたんだから!」
「!!しょうがない」
その時、グローの剣から出た風がドーム状に渦巻き、吹き全ての矢が弾かれた。
続いてグローが剣を鞘に収めると、
地面を蹴り真っ直ぐに浮かび上がりひらりと頭を逆さにする。
結構飛ぶな、、、電柱より上くらいか、、
腕についてる丸いガラスがものすごい輝きを放つ。
”コーラス・グラディウス”
無茶な体制をしているグローが、鞘から剣を抜いた。その瞬間、突風が周囲を襲う。トルネードのような無数の斬撃が彼女を囲うように襲いかかる。
「きゃーー!ちょっと反則ー!!」
「はは!悪いね〜熱くなっちゃった〜」
砂埃が舞う中、よく見るとバイルの周りだけ抉れていた。
全然悪いとは思ってなさそうなグローだが実に楽しそうな顔をしている。
対照的にバイルは、ムスッとした顔をしたが諦めたように「降参」といってガクッと肩を落としていた。
「も〜、ラル!!あんなやつコテンパンにしちゃって!!」
「残念だったな〜バイル。でも惜しかったと思うよ〜。ほら、俺傷だらけだし〜」
「それはただただ、あなたが技を受けたかっただけでしょ!もう意地悪!」
「ははは〜。可愛いな〜」
「もう!!」
そう言ってバイルは、グローを叩いていた。
それを暇そうに見ていたラルは俺を地面におろし定位置へと着く。
ラルもあんな危ないことするのか。
俺はちょっと心配になってきた。少しソワソワする。
「グロー。負けない。」
「弟子の成長が楽しみだよ〜。ラル。」
口ぶりから察するに、ラルが言っていた師匠はグローのようだ。なるほど、剣同士学ぶことがあるのかもしれない。
バイルが間に入り、両者は視線を交錯させる。
「はじめ」
バイルがスっと後ろにさがった。その瞬間、2つの影が消えていた。
俺は心配になり、キョロキョロする。
「ふふふ。大丈夫よ。消えたんじゃないわ。早すぎて見えないの。」
そう言いながら、バイルが俺の傍に座る。
「あの2人やる気まんまんね。」
やっと見えた影は、剣と刀を交錯させて何やら押し合っている。
「へ〜はやくなったね〜。でもまだまだ。」
「っ!」
グローの剣から何やら光の筋が飛ぶ、咄嗟に交わすラル。少し体制が崩れたが、計算のうちなのか一瞬にして間合いを詰めた。と思いきや後ろに周り、刀をふるう。
フェイントと言うやつか。
それを予測していたであろう、グローは向き直りもう一度光の筋を飛ばす。
さすがに、攻め続けるのは厳しいと思ったラルが後ろへ飛び間合いをとる。そして同時に刀を鞘へ収める。そして、あの晶球という丸いガラスがまた光っている。
「させないよ〜」
グローはものすごい蹴りで間合いを詰めようとする。
”魅カレ”
ラルも地面蹴り、刃と刃が重なり甲高い音と土煙をあげる。
その音は、耳に反響し時を一瞬とめる。
そして、目の前にサクッと剣が刺さる。これはグローの剣だ。
グローの剣にぬいの顔が映る。
ぬいの血の気がさっと引く。
ふたりは互いに向き合うように振り向くが、グローが一歩早く、ラルの背後に回った。そして、手刀をラルの首元に近づける。
その手刀は、何やら光と風がまとわりついていてグローの気迫が全てのっているようだった。
!!ラルが危ない!!
それを見た瞬間、危険を感じた俺は全身の感覚が研ぎ澄まされ身体が熱を帯びる。
咄嗟に身体が動き、気がつけばラルの肩に乗りグローのマスクは破れて顔から血が少し流れていた。
「あら〜やられちゃったな〜」
「ぬい!?いつの間にそっちに行ったの!?」
「ぬい、ありがとう」
そう言って、ラルに撫でられる。
俺は混乱していた。
・・・なんで俺はラルの肩にのっているんだ?
「ん〜、この感じだと無意識かな〜?手強いね〜!」
「グロー。だめ。」
「分かってるって〜。ただ、興味持っただけ〜。」
「はぁ、それが危ないんじゃない。」
グローは俺を見ながらとても嬉しそうで、そんなグローをラルは睨み、バイルは呆れた顔をしている。
うーん。俺はどうなって何をしたんだろうか。3人がワイワイと話している中1人悶々と考えこんでいた。
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