俺がタヌキで タヌキが俺で
タヌキっていうと害獣ですけど、絵本とか、アニメとかに出てくる2頭身とか3頭身のタヌキってかわいいですよね。あやかれ!どうぶつの森!
俺の名前は本多 勝。どこにでもいる普通の長距離トラックの運転手だ。長距離トラックの運転手にとって、運転中の眠気は最大の敵。とはいいつつ、毎日運転しているのだ。眠っていても運転できる自信もある。というか運転できる。…してる。実は最近、脳を使わずに運転するというスキルを身に着けたのだ。目を開けているが、脳は眠っているが、それでもやるべきことはカラダが覚えているという奇跡の状態。意識を取り戻したころには目的地に到着しているため、俺はこれをワープと呼んでいる。
ワープを覚えてからというもの、まさしく俺は無双していた。脳の疲れを回復しながら移動ができるため、時間は有効活用、プライベートも充実。彼女もできるし、宝くじに当選するし、ニキビも治る(予定である)。きょうもワープを使いながら、夜の高速道路を駆け抜けていた。ワープ中は 意識は 飛んで 思考も 消…
刹那!野生のタヌキが道路に飛び出してきた。
高速道路にタヌキ?!ワープ中はカラダが覚えていることには対応できても、こういった初めての体験に対応できない。突然のイレギュラーに意識を取り戻し、パニックになっていた俺は、急ブレーキを踏んでしまった。急ブレーキの衝撃で転倒するトラック。あぁ!!失敗した… これは助からない… なんでワープ中にタヌキ…
目を覚ますと見たことのない古民家?こういうときは病院のベッドじゃないのか。なんで古民家のわらのむしろの上にいるんだ。ケガの状況を確認しようと自分の腕をみると、なんだこれ。ふさ。ふさ。ケガはないのに毛がすごいんですけどー。なにこれ、農家のマッドサイエンティストに捕まって、怪人に改造されたの?
刹那!二足歩行のタヌキがひょこっと顔を出し、話しかけてきた。
「やっと目を覚ましたかい!」
前前前世から探してくれてたのかな。かわいい。タヌキが歩いてて、しゃべってる、夢オチで安心。
「ずっと眠ってて心配したよ」
いまも眠ってるんだけどね。どっから夢なんだろ。もしかしていまも運転中?だとしたら起きないと危ない。俺をふさふさの手を使って、ふさふさの頭をポカポカ叩いた。痛い!おかしい!痛い!
「わー!なにしてるんだよ。まだ寝ぼけてるの?」
タヌキが止めてくれる。かわいい。あったかい。腕をつかまれてる感覚まで確かにある。どうやらこれは夢じゃなさそうだ。嘘…だろ…。
「お…お前は一体だれなんだ?」
「おいらは弟のポン吉だよ!忘れるなんてひどいや兄ちゃん」
「ポン吉… 弟…」
そもそも俺は一人っ子だし、生き別れたとしたって、俺の弟がこんなにかわいい…ふさふさもこもこしてる訳がない。っていうかタヌキだし。俺はタヌキじゃないのに、弟がタヌキ。父親がえぐいのか、母親がばぐっているのか。それとも俺のアタマがおかしくなってしまったのか。最有力は3つ目。
「兄ちゃん!久しぶりに起きて腹が減ってるだろ?ご飯にするかい?」
いわれてみれば確かに腹が減っている。というかいまなら牛一頭だって食べられそうだ。
「あぁ。なにかあるか?」
「ちょっと待っててね。持ってくるから」
しっぽがもふもふしてて、後ろ姿もかわいい。タヌキに世話焼かれるのってれるのってなんかいいな。
「お待たせ」
ポン吉はお皿にいっぱいのドングリを運んできてくれた。おままごとか!
「さぁ一緒に食べようか」
殻のままのドングリをそのまま口に運ぶポン吉。奥歯で殻をかみ砕いている。ちゃんとみると牙とよだれがすごい。マスコットのようにかわいいポン吉に、はじめて獣を感じてしまった。
俺も同じようにおそるおそるドングリを口に運ぶ。奥歯に挟んでガリッ!これすごいきもちい。肝心のドングリの味は…悪くない。なんだろ、素朴だけど、味ないけど、お腹すいてるからなのかな。おいしい。宝石箱。もっと食べたい。うま。ガリっ!ガリガリガリガリっ!…ポン吉ひいてる?
「も、もうすっかり元気になったみたいだねガリっ!」
兄貴の怒涛の食事にひきつった笑顔を浮かべなら、ポン吉が言う。
「あぁ、ポン吉の看病のおかげみたいだな。ありがとうガリっ!」
「なにいってるんだよ、この世に二人っきりの家族じゃないかガリっ!」
「ということは、父親も母親もいないのか?ガリっ!」
「なに言ってるんだよ、父上も母上も、去年の冬に、人間たちの戦争に巻き込まれて死んでしまったじゃないか…」
戦争?!戦争中なの?厳しい世間と悲しい家族の事情が同時に発覚。…きいてごめん。
「ポン吉… 実は俺… 眠る前の記憶がすっかり無いんだ…ガリっ!」
ポン吉にいまの自分の状況を説明する。
「ふーん。そりゃ大変だねガリっ!」
なにその薄い薄いリアクション。実の兄の記憶喪失はアンビリーバボーな仰天ニュースであってくれ。
「ちなみに、念のためききたいんだが…俺は…その…ポン吉と同じ…タヌキなのか?ガリっ!」
「もちろんだよっ!!まさかそこから忘れたのっ?!」
思わずドングリを落とすポン吉。まさに俺が求めていたリアクションだ。やっぱきもちいいな。そしてやはりというかなんというか… 俺は、タヌキに転生していた。
いやぁー、疲れました。初投稿なので、のびしろしかないです。