表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ


僕は無線機を買った。


 この情報化が進んだ世界の、それもインターネットが使える環境で無線機を買う? おかしいんじゃないか? と思われるかもしれないが、逆に僕にはインターネットが生きにくくなっていた。かつて便利ともてはやされたものはすでにそこにはなく、あるのは企業のお金儲けのためのツールやホームページ。

 誰かとつながりたいという、悲しき人間の性のようなものをぶら下げた僕が、結局行き着いた先が無線機だった。残念ながら日本には法律があって、高出力の無線機を無免許で使用することができない。だから僕が買えたのは、免許のいらない古い中古のCB無線機だった。


 ソニー社製ICB-700A。なんと昭和49年に製造された無線機だった。僕よりもずっと年上のこの機械は、持ち運びができる肩掛けショルダーがありながら、重さが乾電池を含めて3.27kgもある。見た目も、主流な電波通信装置であるスマートフォンの10倍はあろうかという巨大さで、お弁当箱のような形をしている。備え付けのロッドアンテナは、全開に伸ばすと189.3cmもあって、取り回しが非常に悪い。そのくせ、通信中はアンテナを伸ばし切った状態でないと電波が届かない。そういう代物だった。でも、今時珍しいメイドインジャパンの電化製品。数ある日本の大手企業が中国に進出した現代では、まず考えられない贅沢なことだった。


 実用通話距離にしても、市街地でたった2kmから4km。電波の通じやすくなる郊外でも6kmから8kmしかない。だけれども、無線機には無線機のいいところがあった。じつはこれ、ラジオ局そのものなのだ。しかも、アンテナも、電気も、マイクもすべてそろった持ち運びができるラジオ局。地球の電離層の影響で電波が反射し、うまく受け取れれば、数十キロでも数百キロでも通信ができる。そういう機械。

 なにより、誰だかわからない相手と通信できるというのがよかった。顔も見えず、歳も役職も性別もわからない全くの他人と出会えるのだ。



 今日が初めての通信となる。ネット上のチャットとはまた違った緊張感の中、僕は赤い電源スイッチを奥に倒す。すると、渋い電子音が流れて、まだ無線機が現役であることを教えてくれた。スピーカー調節つまみをそっと回すと、ザーっという台風で雨粒がガラスに吹き付けるような大きな音が鳴る。

 僕は備え付けの昔の歌手が使うようなマイクを手に取って、そっとマイクのスイッチを押した。



10話ぐらいで終わりの予定です。反響があればもっと書きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ