友達ってあったかいね!(加筆修正済)
なんだこれは、たまげたなぁ………(デイリーランキング入り)
閲覧と評価アリガトナス!
頑張って投稿するから見とけよ、見とけよ~
2/4/11段落修正済み!
前話と同じく、会話の間の地の文が少ないと感じたので追加しました。油断すると台本みたいになるから困る。
《はぁ~、やっぱりさ、私みたいなマイナーな女神がさ、調子に乗ったのが間違いだったね。いや~、なんか二人ともごめんね?二人にとっての人生初女神がこんなクソザコ女神でさ?》
「「………。」」
((………この女神、気持ちの振れ幅が大きすぎる!))
あれからしばらくの間、際限なくテンションが下がり続ける女神を俺たちはどうにかしようと必死にヨイショしていた。しかしその努力も徒労に終わり、今となってはもはやヨイショどころか相槌の言葉すら出ない。
とりあえず目的地に向かって進んではいるものの、女神が十歩おき位にしゃがみこんで足元の雲を弄りながらいじけるので、その歩みは牛歩以下である。
《あーあ、私もゼウス君みたいにさー、雷霆とか使ってみたらメジャーになるかな?下敷きで髪の毛擦って静電気~、ってね。ハハハ………》
「「………。」」
そして、時折挟んでくる神話級の自虐ネタにツッコミを入れるほどの《勇気》は、さすがの俺も持ち合わせていなかった。
……悪い流れだ。
何とかしなければならないが、女神相手の作法なんかそうそう思いつくはずもない。万が一更なる地雷を踏めば生還すら危うくなるだろう。
手持ちの知識がなければ、優れた思考も形無しだ。粗悪な燃料費で回転させた結果がこの現状なので下手に動かすこともできない。
手詰まりか。
何か現状を打破するきっかけが欲しい。
どこかにないか、解決の糸口が。
《ふへへ……、やっぱり所詮私なんて………》
自分の言葉で際限なく自家中毒に陥って行く女神。
そんな救いのない女神に手を差し伸べる者がいる。
「………アトロポス様」
停滞した現状を切り裂く反撃の嚆矢。
《ふへ?》
「いいえ、アトロポス。お話があります」
それは、橘さんの口から放たれた。
《んん?何かな橘さん?この写す価値なし女神のアトロポスに何かご用でも?》
女神は相変わらずスーパー卑屈モードだ。しかもいつの間にかどこからか超小型の雲が現れて、女神の頭の上で極小の雨を降らしている。心を閉ざした神話級のカテナチオ。これを開く術を橘さんは持ち合わせているのか。
俺は無言で成り行きを見守る。
「はい、大切なお話です。アトロポスのお友達としてのお話です」
《お友達だなんてそんな………、私、橘さんの友達になれるようなメジャーな女神じゃないんで……、がっかり系の女神なんで………》
「それは違います!」
それはとても強い言葉だった。俯いて視線を合わせようとしなかったアトロポスが思わず顔を上げるほどの力が篭っていた。
《橘さん………》
「友達っていうのは、相手が有名だとかそんな損得みたいなので割りきれるものじゃないんです! 楽しいときも、辛いときもお互いに、一緒にいたい気持ちが大切なんです!」
力強い橘さんの言葉に、弾かれたように女神が顔を上げる。その頭の上の雲が霧散する。
《一緒にいたい気持ち………》
「それに、いくら友達だからって最初から相手の全てを知っている訳じゃないです。仲良くなって、お話ししてどんどん相手を理解していく。友情ってその過程が尊いのだと私は思います」
《確かに………》
女神は深く納得した表情になる。その顔には最早先ほどまでの影はない。
「私はアトロポスと友達になりたいです。今は知らないことだらけだけど、これからどんどん知っていってアトロポスが言ってるようなマブダチになりたい! ………アトロポス、こんな私はダメですか?」
言い終えた後、橘さんが女神の目を見つめる。
真っ直ぐな瞳だ。
曇りのない眼だ。
今の言葉は心の底からの真摯な言葉だとそれだけで分かる。そんな目だ。
橘さんのこの思い、女神の心に届くのか。
《橘さん……、いや、たっちー!》
「………!アトロポス!」
《うおぉぉぉん!私が間違ってたよたっちー!たっちーは私の友達だよぉー!ごめんよたっちー!》
女神が橘さんの胸へと飛び込んだ。それを橘さんは優しく抱き止める。
なんと、うらやましい………じゃなくて、美しい光景だろう。
そして、このタイミング、ここに俺の勝機もある!
「アトロポス、俺も橘さんと同じ気持ちだよ」
《………ふじっち!》
「アトロポスのことをよく知らなくて、傷つけてしまった。すまない。でも、俺もこれからアトロポスのことどんどん知っていくよ。だから、俺も橘さんもさんのようにあなたの友達にしてくれないか」
《………本当に本当?》
「ああ」
《私のことちゃんと知ってくれる?》
「ああ」
《家に祭壇たてて、ちゃんと私を祀ってくれる?》
「ああ…………………………えっ?」
《ふじっち!やっぱりふじっちは私の友だった!》
「うわっ!」
女神が胸へと飛び付いてくる。よろけそうな体をなんとか踏ん張らせて女神をしっかり抱き止める。
《うおぉぉいおぃおぃ、もう離さないぞふじっち!》
胸元で大声で泣く女神の肩にそっと手を添えて、俺は女神の気がすむまでそうさせてやった。
こうして俺たちは、ここ一番の難所をどうにか乗り越えることに成功したのだ。
………なんか俺だけ変なこと契約させられたけど。
◇◇◇
《着いた着いた!ささ、二人とも適当なところに座って座って!》
「わかった」
「はーい」
俺たちが仲直りしてからしばらくして、俺たちは雲でできた広場のような場所にたどり着いた。どうやらここが女神の目的地らしい。
促されるままに腰を下ろすと、女神もすぐに腰を下ろし、二人と一柱は円の形で座る。
《よっしゃー!それじゃあ、腹を割って話そうじゃないか!友達らしく!………友達らしく!》
「そうだな」
「ですね」
女神がやたらと友達を強調してくるが、言うことに異論はない。とにかく、今俺たちが置かれている状況を包み隠さず明らかにすることが肝心だ。
しかしーーー
「ーーー話したいことや聞きたいことが多すぎて、どこから手をつければいいのか………」
「確かに……」
謎が謎を呼ぶ展開に頭はこんがらがりそうだ。時間は限られてないとはいえ、話はスムーズに進めたい。
《んー、じゃあさ、最初は私が話を振るから、二人はそれに答えてよ。現状の把握と情報を共有しようじゃないか》
「よし、じゃあそれで」
「分かりました」
《よーし、それじゃあまずは自己紹介!道中でもやったし、二人は部屋でもしてると思うけど形式上ね》
「OK、じゃあ俺から…………俺は不二 柊人。修学館高校三年、ボクシング部と総合格闘研究所ハイランダー所属。一緒に暮らしてる家族は親父だけだ。」
「私は、橘 薫。私立青柳高校二年、帰宅部で、趣味はアイドルの動画観賞とそれに合わせて歌うこと。一緒の家族はお母さんだけです。」
《最後は私!私は女神アトロポス!ギリシャ神話の系譜に連なる《運命》の三女神のかわいい妹!《力の一号》長姉クロートー、《技の二号》次姉ラケシスの二柱を姉にもって、いつも三人仲良く人の運命を決めてまーす!あ、因みに私は《潜在力の三号》らしいけど、どの辺りが《潜在力》なのかは他の神に聞いても答えてくれなかったんだよね、なんでだろ?》
恐らくほかの神々の言う《潜在力》とは、その起伏に乏しい丘陵地のようななだらかな体型のことだろうと思われたが、話が拗れそうなので俺はそっと流した。
「《潜在力》は置いておいて、次の話題にいこう。話すことは沢山あるから。」
《そだね。じゃあ次は、二人はここに来るまでの記憶ちゃんとある?》
「ああ、俺は昨日の夜に人助けをしようとしたんだが、そこで俺の身に大変なことが起こってね。戸惑っているところにアトロポスから声をもらって気づいたらここにいたよ」
「私は………」
俺の後に続いた橘さんは言葉の出だしで言い澱む。
無理もない。多分、橘さんはビルから飛び降りた直後にここに連れてこられたのだろう。
だから、それを説明するためには自分の自殺に言及する必要があるわけで、それは傍目にも非常に《勇気》がいる行為に思われた。
橘さんは言葉に詰まった後に、俺と女神に交互に視線を泳がせた。
胸の前で拳をぎゅっと握りしめ、深呼吸で息を整えてる。
俺と女神は何も言わずに、ただ静かに橘さんの言葉を待つ。
そうしてしばらくした後、橘さんはゆっくりと再びその口を開いた。
「………私は昨日の夜、学校からの帰りにビルの屋上から飛び降り自殺しました………。飛び降りて意識がなくなって、気づいたらここにいて、おろおろしていたところにアトロポスが声をかけてくれたんです。」
最後までしゃべって、橘さんは下を向いた。握られた拳は胸元のブラウスを固く掴み、そのシワの深さが彼女の苦悩の深さを代弁しているようだった。
橘さんが《勇気》を振り絞った後のその姿が、俺の目にはとても尊いものに見えた。
《ふむふむ、二人ともちゃんと記憶力は残ってるねー。あ、ちなみに、ふじっちの助けようとした人ってたっちーだからね。ふじっち、飛び降りたたっちーを助けるために全力疾走したんだよ、カッコいいよね!》
「ちょっ、まっ!」
「えっ?」
女神の言葉を慌てて遮ろうとしたが、時すでに遅し。
橘さんに気を使わせないようにと俺の言葉を包んだオブラートは、初めてボンタンアメを食べる子供の手のような無造作さで女神によって引き剥がされた。
「不二さん、私のこと、助けようとしてくれたんですか………?」
「……そうだよ」
「じゃあ、私が死ぬ前に聞こえた声は不二さんの声で………、不二さんは私のことを知っていたんですね。」
「ああ、その通りだ」
…………ここに来て痛恨のミス。
まさか女神から俺が既に橘さんを知っていたことをばらされるとは…………。
今まで初対面のように振る舞っていたのに、その努力が全部おじゃんになった。
………嫌われたかな?
隠し事をする男は嫌いかな?
嫌いだろうな、橘さん、そんな性格っぽいし。
「………神は死んだ」
《いやいや!生きてる、生きてる!》
生きてた。
それも目の前にいた。
邪神かな?
ふふふ………
あー!ガッデム!
とりあえず、もう手遅れかもしれないけどダメ元でフォロー入れておこう………
「あ、あのさーーー」
「ーーー不二さんは、やっぱり優しい人ですね」
「えっ?」
橘さんの口から出た想定外の言葉に阿呆のように口を開く。
ポカーンとする俺に橘さんが微笑む。天使の微笑み。
「私が自殺の話題に触れないように気を使って隠してくれていたんですよね。嫌なことを思い出さないように。そんな気遣いにも気付かないで、やっぱり私はダメですね」
「………! いや、それは違う。おればあえて隠してあたんだから気付かないのは当たり前だ。だから橘さんが悪いことなんて何一つないんだ。むしろ隠していたことで余計な気を遣わせた、非は俺にある」
自己嫌悪する橘さんに対して慌てて首を振る。
今回の件は完全に余計な気を回したこちらのミスだ。ここに触れないわけにはいかない。そして、橘さんがそのことで自己嫌悪するのは筋違いだ。
俺はそのことをはっきりと伝えた。
「………それじゃあ、今回はお互いに非があるということでおあいこでいきませんか?私、不二さんとは今まで通りの感じでいたいですし、不二さんさえそれでよければ………どうです?」
橘さんの優しい気遣い。ああ、彼女はこんな状況でもいつだって他人に優しい。その優しさに涙が出そうになる。
ここで反論すれば話が長くなると判断し、俺は橘さんに頭を下げる。
「それは俺としても願ってもないことだ。ありがとう、橘さん。気を遣ってくれて」
頭を下げる俺に向かって、橘さんが慌てて制するように手を振る。
「あっ、そういうお礼もなしですよ!私たちはおあいこなので。………でも、不二さんはもうお礼を言ってくれたから、お返しに私もお礼を言いますね。不二さんありがとうございます」
「ど、どういたしまして」
「あっ、そういうのもダメですよ!もう、不二さんったら……ふふふっ」
「おっと、そうだった、ははは………」
…………天使かな?
というかもうこれは女神レベルなのでは?
今日ここに一人の女神が生まれた!
《優しさ》を司りし女神、その名も橘 薫!
家に帰って早く祭壇を建てよう。
………アトロポス?邪神の祭壇は撤去だ撤去!
《あっ、話はうまくまとまった感じかな?いやー、変な空気になったから私が地雷踏んだかと思ったよ。よかった、よかった。》
いや、がっつり地雷踏んでますから。足を離して爆発する前に、処理班が不発処理に成功しただけですから。
しかし、今回のことで分かったが、女神に会話の手綱を握らせるのは危険だ。
超越者的な視点で、何でも包み隠さず話されるのはかなりまずい。
《んじゃ、次の話題いくよー》
「アトロポス、ちょっといいか?」
《ん?》
「やっぱり、こっちが答えるばかりじゃなくてこちらからも質問を入れたいんだ。いいかな?」
《あ、そう?私は別にそれでも全然いいよ。むしろ質問ウェルカム! さあ、何でもバッチコイ!》
よし、これで女神から手綱を奪うことに成功した。あとはこちらでうまく会話を操るだけだ。
会話を操るためには、女神に何を質問するかが肝心だ。質問に対して答えてもらい、それにさらに質問を浴びせられればそれが最善だ。
だから、質問はなるべく難解なものがいいだろう。
となると、俺の質問はただ一つ。
「アトロポス」
《なに、なに?》
「俺の体のことについての質問、いいかな?」
そう、俺にとって目下最大の謎。
それは、なぜ俺の体が橘さんの姿になったのかということだ。
この謎の答えを知るのは恐らく女神アトロポスだけだ。そういった意味でもこれ以上の質問はない。
だから俺はすぐにそのことを口にした。
「俺の体がどうして橘さんの………って、アトロポス?どうしたんだ?」
異変にはすぐに気付いた。俺が喋りだした、いや、恐らく喋りだす前から女神の顔を汗がだらだら走っている。銀糸のように美しいショートヘアの前髪が額にぴったり張り付くレベルの汗だ。
目は大海を泳ぐ魚もかくやといった泳ぎっぷりで、瞳の焦点は深い海の底を覗くかのように定まらないでいる。
「アトロポス?」
「どうしたの、アトロポス?」
橘さんも心配そうに女神を見つめる。
そうするうちにも女神の様子はますますおかしくなり、白く美しい顔は白を越えて蒼白となり、汗は全身から吹き出し始める。
「調子が悪くなったのか?」
「疲れたのなら休んでもいいよ?」
《………ん》
「「え?」」
《全然!ぜんっぜん、ふちゅっ、普通なんですけど!べ、別に話せないことなんて、な、な、何もないですし?》
よく分かった。
この反応は、知っているけど話したくはないときのやつだ。しかもこの慌てぶりから察するに、単に知っているだけではなく、女神自身ががっつり関わっているパターンだ。
「アトロポス」
《ひゅいっ?!》
「腹を割って話そうじゃないか」
《あわわわわ………!》
それから女神の百面相が始まった。彼女の表情はよくもまあと口に出そうなほどコロコロと変わったが、その大半は苦虫を噛み潰したような苦汁に満ちたものだった。
ひとしきり表情を変えた後。
《だあぁぁぁぁ!?》
「「!?」」
女神は絶叫しながら立ち上がり、両手を天高く掲げた。
呆気にとられる俺たちの前で、女神は流れるような動作で膝をつく。
そして、膝をついた後、これまた流れるように上体が雲の地面へと向かい、最後に掲げたままだった両の手の平が音もなく地面に張り付いた。
そう。
それはそれは、言葉を失うほどに見事な。
女神の土下座だった。
板垣先生~っ!謝男の続き描いてくださいよぉ~!(アオリ文風)
で、三人はどういう集まりなんだっけ?
トークパートはしばらく続きます。
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