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青春ミクスチャー ~自殺少女と格闘家~  作者: owlet4242
第一章 青春キメラの誕生
5/34

キャトルミューティレーションが起きた農家への補償はあるのだろうか?(加筆修正済)

 2/4/10に段落とタイトル改修済み!


 登場人物(?)の口調なども直しました。


 重要な三番目のキャラクターが声だけ登場します。主人公側の主要人物はしばらく三人で行きます。

「はぁぁぁぁぁ~、やっぱり俺、あの娘の体なんだよなぁ………」


 大きなため息を吐きながら、俺は後頭部をボリボリと掻く。


 俺の体は間違いなく俺が助けようとした少女のもの。これは紛れもない現実だ。ここまで確かめれば流石に現状を受け入れざるを得ない。


「しっかし、この体はともかく、他にも分からんことだらけだな……」


 そう、俺の体が少女のものなのは分かったが、分からないことは山積みだ。


 少女の名前も分からなければ、なぜ少女の体になったのかも分からない。そして、何よりも重要なことがある。


「元の俺の体はどうなってるんだろうな……?」


 今の俺にとって、目下最大の謎は、俺本来の体がどうなったかということだ。


 もし、肉体が変化して少女のものになったのならば、何かの条件を満たせば再び男に戻るかもしれない。


 あるいは、少女と精神が入れ替わったのなら、少女の精神が入った俺の体がどこかをさ迷っていることになる。


 ただ、どちらにせよ状況は俺にとってあまり好ましくない。


 もし、男に戻る条件があったとしても、今の俺にはその条件は検討もつかない。そして、少女が俺の体に入っているなら、混乱した少女が妙な行動をとらないとも限らない。


(万が一、俺の体が女の子の言葉遣いで町中を歩き回られた日には、俺は死ねる!)


 とにかく早急に対策を打つ必要があるが、そのためには今の俺にはあまりにも情報が不足していた。


「あぁ~、駄目だぁ~! マジになにも分から~ん!」


 声を大にして叫びながら、大の字になって地面に寝そべる。見上げた先には、ついに中天に移動した満月が輝く。もう時刻は真夜中に差し掛かっているだろう。終電はもう出てしまっただろうし、よしんば電車に乗ったとしても、今の俺には帰れる家もない。


 そう考えると途端に寂寥(せきりょう)感が胸に込み上げてくる。今日はジムの帰りに家に電話を入れなかった。家では親父が心配しながら俺の帰りを待ってるだろう。高校に入ってからは一度も心配をかけたことなんてなかったのに、まさかこんなことになるなんて。


「くそっ……親父ぃ……親不孝者の息子ですまないっ……!」


 むしゃくしゃした行き場のない思いに身を任せ、俺は握りこぶしで地面を叩いた。


 今の俺がとんでもない親不孝者なことに我慢がならなかったし、しかも息子ではなく娘状態なのにも納得がいかなかったし、その上、声が少女のものなので無駄に可愛らしいのにも腹が立った。


 こうすれば多少は気が晴れるかと思ったが、今の俺は大の字に寝そべっているうえに腕力は少女のそれなので、地面に当たった拳はぺちっと情けない音を立てるだけで、それがより一層俺を惨めな気持ちにさせた。


「くそぅ……なんで俺がこんな目に……」


 本当になんで俺はこんな目にあっているのだろう。


 俺はただ少女を助けたかっただけなのに。


 もしかしてどこかの誰かの陰謀なのか?


 自殺する少女を助けられたくない謎の勢力でも存在するのか?


 だとしても、なんで俺を少女にする必要があるんだ?


 駄目だ。全く建設的な思考になっていない。


 思考は巡れど、やはり論の根拠になる知識が圧倒的に不足している。思考はさながら砂上の楼閣のように、建っては崩れを繰り返し堂々巡りだ。


 いかなる状況でも思考することを止めないことが美徳の俺だったが、流石に今の状況は手がかりが無さすぎる。お手上げ、ギブアップ、無条件降伏状態だ。


 俺はだだっ子のようにじたばたと悶えながら、現状を呪って叫び声を上げた。


「あーもう、理不尽過ぎるだろこんな状況! 責任者を出せ~! 説明責任を果たせ~!」


《分かりました、ご説明いたしましょう!》


「ふえっ!?」


 変な声が出た。


 というか変な声も聞こえた。


 ガバッと上体を起こして辺りを見回す。


 ………誰もいない。


「幻聴か……? それにしてはあまりにリアルな……」


《ふふふ、幻聴ではありません、現実です》


「っ!?」


 今度の声は耳元で聞こえた。


 慌てて振り返るが、やはり誰もいない。真夜中の廃ビル前にいるのは間違いなく俺一人だ。


「……何者だ。姿を見せろ」


 俺は立ち上がってファイティングポーズをとる。この体ではどれほども闘えないだろうが、それでも自分に気合いを入れるくらいの役目は果たす。心が萎えなければ、人間どうとでもなるものだ。


 小刻みにステップしながら、油断なく周囲を警戒する。


 どこだ、どこから来る?


 しかし、声の主は姿を見せず。それでも声だけは耳に響いてくる。


《構えを解いてください。私は貴方の敵ではりません》


「……敵じゃないなら姿を見せられるはずだ。それに悪党はいつだって最初は善人のふりをする」


 《……えぇ……? ちょっと君、警戒心強すぎない? もうちょっとこうリラックスしようよ、リラックス。息を大きく吸って吐いてみなよ、いい感じになるからさ、ねっ?》


(………なんだか急にくだけた感じの声になったな)


 しかし、まだ安心はできない。フレンドリーな態度を装い人の心の隙間につけこむ悪党は枚挙に暇がない。この声の主がその類いの可能性は十分にある。


「悪いけど、こちらも抜き差しならない状況なんでね。信用してほしいならまずは面と向かって話すんだ」


《うーん、困った……姿を見せたいのは山々だけど、私が気軽に降臨しちゃうと、そっちが大混乱になるからな~》


「降臨だなんてずいぶん仰々しい言葉だな。あんたそんなに大物なのか」


《いや~、大物だなんてそんな~、ふへへ。まぁ、それほどでもあるんですけど。だって私、女神なので!》


「………は?」


 こいつ今何て言った?


 めがみ………。


 めがみって言うと他に同音異義語もないしやっぱり「女神」なのか?


 ………正気か、こいつ?


 ………いや、女神というのはあくまでも比喩的表現であって、女神のごとき扱いを受けている人間、ということか?


 ならば導き出される結論はただひとつ。


 こいつはーーー


「ーーー新興宗教の女教祖か。人の弱みにつけこんで何が目的だ?」


《違いますけど!? マジのガチで純度100%の女神なんですけど! しかも人間に信仰されてから結構長いんですけど!》


 怒った。


 どうやら本気で自分は女神だと思い込んでるらしい。こいつは筋金入りの××だ。


 しかし、相手がいくら××で××な××だろうとも、現状、手がかりを握っているのは間違いなくこいつだ。めんどうだが、それとなく会話を続けて情報を引き出すしかない。


「あー、気分を悪くしたのなら謝罪する。女神に対して礼節を欠いた発言だった、申し訳ない」


《ふっふーん、分かればいいのですよ人の子よ。私は超寛大な女神なので赦しましょう! 汝に罪なし!》


(………ちょろい)


 なんだか、少し不安になるくらいのちょろさだ。


 もしかしたら、こいつは女教祖とはいっても実権を持たない傀儡(かいらい)なのかもしれない。なにも知らずに信者たちから祭り上げられ利用され、追従とおべっかの毎日ならばここまでちょろい性格になるのも納得がいく。


(……ちょっと可哀想になってきたな。少し優しく接してあげようか)


 そう心に誓った俺は、可哀想な声の主を傷つけないように言葉を選んで話しかけた。


「先ほどまでの無礼に対しての寛大なお言葉。女神様、あなた様の温情に深く感謝いたします」


《ふっふっふ、畏まらなくてもよいのですよ人の子よ。私は今とても気分がいいので、細かいことは水に流しましょう、ふへへ》


「………ありがとうございます女神様。母なる海のごとく深きあなた様のお慈悲にただ浴するのみでございます」


《うひょひょ! いやぁ、本当のこととはいえ、なんだか、こう、改めて言葉にされると照れますねぇ! 最近は人の子に直接そう言われるチャンスも減りましたからねぇ、ふひひ》


「………女神様、不躾な話で申し訳ないのですが、ひとつお願いをしてもよろしいですか?」


《ええ、ええ、いいですよ! 私にできそうなことなら何でも言ってください! 女神パワーでホホイのホイですよ!》


(………さっきからあえて考えないようにしてたけど、やっぱりこいつちょろいな! そして、ホホイのホイじゃなくてちょちょいのちょいだろ!)


 いや、なんかほんとに将来が不安になるレベルのちょろさだ。まぁ、こちらに都合がいいからこの際そこはどうでもいい。肝心なのはここからだ。


 首尾よくことが運んで緩みそうになった気を引き締めつつ、俺は次の言葉を発する。


「それでは女神様、お願いといいますのは、お………私にあなた様の力の一端をお見せいただきたいのです」


《えーと、力の一端というと具体的には?》


「はい。人の理解を超えた奇跡を見たいのです。規模はどれほどでも構いません。何卒、お願いいたします」


 そこまで言って、俺は深々と頭を下げる。


 これは試しだ。これでこの自称女神がどれほどの力の持ち主なのか計ることができる。


 恐らく、奇跡といっても信者を使って何らかのトリックを仕掛けるのが関の山だ。例えば、耳元から聞こえるようなこの声も、特殊なスピーカーか、音響装置か何かを使ったインチキに違いない。


 しかし、トリックとはいえ、もしも大がかりなものを仕掛けられるのなら、こいつはかなりのマンパワーの持ち主ということになる。そうなれば油断できない相手になるだろう。


 俺は神経を研ぎ澄ませて、自称女神の次の挙動を待った。


《うーん、奇跡ですかぁ……。ひとつ派手なのをドカンと見せたいのは山々なんだけど、実はさっきそっちで結構すごいの使っちゃったところだから、連発は厳しいんだよねぇ……》


 なるほど、なにかと理由をつけてのらりくらりと逃げの姿勢を見せるということはどうやらこの自称女神、そこまでのマンパワーはないらしい。


《あー、でもこっちに来てもらえてたら大丈夫かも! うん、うん、そうしよう! 君とはじっくり話さないといけないこともあるし!》


「えっと、こっちというは……」


《もちろん、私の住んでいる神の世界だよ! 地上に出ていくことばかり考えてたけど、君にこっちに来てもらったら簡単な話だった! 私ったらうっかりさんだぜ! テヘペロ!》


 ……雲行きが怪しくなってきた。


 こいつの言う神の世界とは、十中八九こいつの管理する宗教施設で間違いない。


 口ぶりから察するに、俺を施設に監禁して奇跡という名の洗脳を施すのだろう。そうなれば俺が宗教の傀儡になる可能性もあり得る。簡単な話とはつまりそういうことだ。ちょろいように見せかけて、中々外道なことを考える。


 俺は一段と警戒を強め周囲に意識を巡らせる。多分もう周りは信者どもに囲まれている。後はこいつの合図ひとつで俺を拐う手はずが整っているのだ。


《それじゃあ今から扉を開けるから、そこから離れないでね!》


 声と同時に指を弾いたようなパチンという音が周囲に響く。間違いない、これが合図だ。


 俺は、拳を構えて膝を曲げ、弾丸の速度で飛び出す準備をする。


 視線は絶えず周囲に這わせ、あらゆる場所からの奇襲に備える。


 万全ではないが、これが今できる最良の状態だ。


 そうして俺は来るべき時を待った。


 油断はなかった。


 驕りもなかった。


 だがしかし。


 その時は思いもよらぬ形で訪れた。


「何っ!?」


 周囲を警戒していた俺のところに、突如として空から光の柱が降り注いだ。


「サーチライト……! まさか上からとは!」


 予期せぬ方向からの登場だ。ローター音はしなかったが、恐らくヘリコプターから投光器を使っているのだろう。この後すぐに垂直降下で人員が投入されるはずだ。


 俺はヘリの位置を確認するために空を見上げる。


 そして。


「……は?」


 思わぬ光景にあんぐりと口を開いたまま固まった。


 空にはヘリコプターなど飛んでいなかった。


 ただなにもない中空から忽然と光の柱が現れて、俺を照らしている。


 呆然と立ち尽くす俺の耳元でまたあの声が聞こえた。


《アテンションプリーズ! 当機はただいまから離陸いたしまーす。地上発神界行き、フライト時間は一分弱を想定しています。ベルトはないから暴れないでね!》


 声が終わると同時に、俺の体はまるでそうなることが当たり前のようにふわりと宙に浮かぶ。


「うぇっ!? ちょっ、まっ、マジかよ!?」


 あまりの事態に焦った俺は手足をバタバタ動かして、某アニメのキャラクターのように平泳ぎで柱の中から抜け出そうとしたが、その試みは徒労に終わった。


《はいはい、そんなことしても出られませんから、危ないので大人しくしましょうね~》


「これって危ないのかよ!?」


《うーん、基本安全ですけど、万が一柱から抜け出したとしてこの高さで助かると思います?》

 

その言葉に釣られて下を向くと、先ほどまで立っていた廃ビルの敷地は既に豆粒のだろう大きさになっている。


「嘘だろ、おい………」


《嘘じゃないでーす、本当でーす!》


 どこか先ほどよりも楽しそうな声を聞きながら、俺の肉体はどんどん地上から離れていく。


 もう取り返しがつかないことを悟った俺は、思わず顔を手で覆った。


《あ、もう少しで大気圏抜け出して地球全体が見えるんですけど、「地球は青かった」ごっこやります? 今すごい人気なオプションなんですけど》


「そんなのいらねぇよ!!」


 激しいツッコミの声を最後に残して、俺の体は地上から完全に消えた。





この女神、やべぇよ、やべぇよ………


よければ感想コメントオナシャス!センセンシャル!

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