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青春ミクスチャー ~自殺少女と格闘家~  作者: owlet4242
第二章 高校血風録 ~血みどろ羅刹編~
29/34

相互監視社会は息苦しい

とりあえずサクッと続きました。


HMはせっかちだから仕方ないね。

 目が覚めたとき、壁にかけられた時計は午後3時を示していた。昼前に家へと帰ってから、ご飯も食べずにベッドに入ったから、だいたい四時間は眠っていたことになる。


「あー、なんか喉乾いたな。小腹も空いてるし、少し何か入れとくかな……」


 睡眠をとったとはいえ、クズどもへの制裁と《夢渡り》での相談を立て続けに行ったことで未だに疲労感は濃い。


 しかし、それでもここからの動きには一切の無駄は許されない。御厨が動き始めるまでにこちらが迎撃の態勢をとれなければ、その時点でこちらの詰みだ。


 動き始めるのはいつになるか分からないが、そこまで時間をかけてくれるほど奴が無能でないことは知っている。こちらもやることが色々ある以上、そんなに猶予はないとみるべきだ。


「……ま、それでも今は飯だな。腹が減ってはなんとやらだ」


 万全の状態でことに臨むには、まずは肉体が十全でなければならない。特に、この体は橘さんのものなのだから俺の体ほど無茶が利くものでもない。コンディションを整えることは大切だ。


 そうして、俺がキッチンに向かうためベッドから這い出たその時。


トゥルルルル……


「……ん」


 電話の音が俺を呼び止めた。


「……電話か、誰からだ?」


 普通であればまだ俺は学校にいるはずの時間だ。こんな時間に電話をかけてくる相手がいるとするなら、それは俺が今日は家にいることを知っている相手の可能性が高い。


 俺がスマホを手にとって、ディスプレイを見るとそこには発信相手の電話番号だけが表示されている。つまりそれはこの電話の主が電話帳に登録されていないことを示唆している。


(となると、校長たちの線はない。奴らとは電話番号を交換したからな。他の教師か、あるいは別の学校関係者の誰かか……まぁ、出れば分かるか)


 手元の情報から可能性を絞り混みつつ、俺はスマホの通話ボタンをスワイプした。


「はい、橘です」


 俺の名乗りに、電話の向こうの相手はしばらく無言で応えた。それからすぐに中年の女の声がスピーカーから聞こえてきた。


「もしもし、私、御厨の母です。今少し時間はよろしいですか」


(……! 御厨の母か!)


「はい、大丈夫ですよ。何かご用ですか?」


 俺は内心の衝撃を努めて隠しながら、御厨母に応答する。


 御厨の母から電話がくることは、当然想定の中にあった。しかし、その優先順位はかなり下の方だった。

 なぜなら、御厨の母には電話番号を教えていないし、電話番号を教えた教師たちには連絡先を漏らすなと伝えてあったからだ。

 御厨が学生の伝で連絡先を調べてくる可能性は考えていたが、それにしては動きが早すぎる。


(誰か連絡先をお漏らししたクソ野郎がいるな……。とりあえず、そいつはこの電話の後で処分だ)


 あれだけの慈悲を見せてやった俺に背くということが、一体どういう意味を持つのか奴らには思い知らさなければならない。


 そんなことを頭の片隅で考えながら、俺は御厨母の言葉を待つ。再び沈黙した御厨母が口を開くのには十秒ほどの時間を要した。


「はい、用というのは他でもない、あのレコーダーのことなのです」

「ああ、あれですか。どうかしましたか?」

「実はあのレコーダー、かなり古い型のものでして市場に物が出回っていないようなのです。そこで、最新の物をお送りするのでどうかそれで許してはもらえないでしょうか」

「……」


(なんだ、あのレコーダーの件か。案外俗物だな、御厨母は)


 内心、どのような話を持ちかけてくるのか少し興味があった俺は、御厨母の言葉で彼女の評価を何段階か下げた。


 まず、御厨母のレコーダーが市場に無いという言葉は嘘だ。あの時壊されたレコーダーは、まず間違いなく1台は市場に出回っている。


 そう、それは俺が購入したもう1台のレコーダーだ。


 俺は2台のレコーダーを手に入れると、すぐに様々なショッピングサイトやオークションサイトにその内の1つを出品した。


 ただし、値段を定価の数十倍に吊り上げてだが。


 同型のレコーダーが俺の1台しか市場に放流されていないのは確認済みだ。つまり、期日までに他の誰かが運良く同じもの出品しない限り、御厨母は強制的に俺がアホみたいに取り上げた金額のレコーダーを買わざるを得ないわけだ。


 これが前に橘さんに漏らしていた、俺の小遣い稼ぎだったというわけだ。


 当然、御厨母から金を巻き上げるためにこの申し出は受ける訳にはいかない。俺はその事を御厨母に告げる。


「申し訳ありませんがそれは受けることはできません」

「なっ、どうして……!」


 自分の望む答えが返ってこないことに声を荒げそうになる御厨母に対して、私は淡々と言葉を続ける。


「あのレコーダーは、亡き父が買い与えてくれた思い出の品なのです。だからこそ同型のものじゃないと意味がありません。貴女も、自分が昔から大切にしてきたものを壊されて、新しいもので許してくれなんて言われて、全く別物を持ってこられても許せないでしょう?」

「そ、それは……」


 御厨母の言葉は尻すぼみに消えていく。何かしら言い訳を考えているようだが、いい答えが思い付かないといった様子だ。


 もちろん、レコーダーが亡父の形見などとは嘘八百なのだが、向こうも嘘を吐いているのだからお互い様だ。


「そういうわけですので、何とかして期日までに物を用意してくださいね。探したけど見つからなかったではすみませんから」

「……」

「それでは失礼します」


 何の反応も返ってこなくなったことを確認して、俺は御厨母からの電話を切る。


「さて、出品したレコーダーの値段、もう少し吊り上げておくか」


 俺はすぐにスマホを操作して、あらゆるサイトに出品したレコーダーの値段を、更に定価の10倍吊り上げておいた。

 素直に金を払うなら吊り上げることはなかったが、事ここに及んで少しでも身銭を切るのを惜しもうとする御厨母に対しては、これぐらいの罰はあって然るべきだ。


(ま、精々お財布を軽くしてくれよな。社長婦人なんだからこれぐらいはできるだろ?)


 そんなことを考えながら、俺は再び当初の目的であったキッチンへと向かう。

 冷蔵庫から牛乳を取り出すと、棚にあったシリアルにぶっかけて掻き込む。これで水分も食事も一気に解決だ。

 ある程度一息に掻き込んで「ぷはー」と息を吐くと、俺はスマホを操作してある場所に電話をかける。

 三回コールが聞こえて、それから「ブツリ」というノイズが響き、相手との回線が繋がった。


「もしもし、校長先生ですか」

「は、はいそうです橘さん。何かありましたか?」


 電話の相手は校長だった。俺は今からこの校長を電話番号の件で精神的に追い詰めなくてはならない。


 たとえ、漏らしたのが校長でなかろうとそんなことはどうだっていい。とにかく、誰かから俺の電話番号が御厨母に漏れた、その代償を奴らには払ってもらわなくてはならない。


「ええ、重大なことが起きました」

「と、言いますと……」

「私の電話番号が御厨さんのお母様に漏れています。状況から鑑みるに、漏らしたのはあなた方以外にあり得ません」

「そ、そんな! 何かの間違いです!」


 電話の向こうの校長があからさまに狼狽える。しかし、そんなことはお構い無しに、俺は御厨母にそうしたように、校長にも淡々と要求を突き付ける。


「間違いかどうかは私が決めます。校長先生、あなたに役目を与えます」

「は、はい……」

「私の電話番号を御厨さんの母に売った背信者を吊るしなさい(・・・・・・)。どういう意味かお分かりですね?」

「そ、それは……」


 俺が校長に求めたのは、御厨母に電話番号を売った人間の処断だった。

 恐らく身内の中にいるであろう犯人を自分達の手で吊るさせることによって、相互に監視させるのはディストピア社会に良くある手法だ。本来なら信じて協力しあうべき人間がもしかすると敵かもしれないという状況は確実に心を蝕む。

 校長たちの首輪をきつくするという点では、御厨母はいい仕事をしてくれたと言うべきだろう。


「背信者を吊るす期日は明日までです。明日に吊るされた者がいなければ、今回の件、全てが明るみに出ると思ってください」

「そ、そんな! それは困ります!」


 すがり付くような校長の言葉に、俺は極めて冷たい声色で切り返す。


「困っているのは私の方です校長先生。まさか相互の信頼に基づいて契約を交わしたと思ったら、その日のうちに裏切られた私の気持ちが分かりますか? 裏切ることには慣れていても、裏切られることには慣れませんか?」

「…………」


 校長からの返事はない。


「今回の件、その気になれば私はすぐに全てを外部にリークしてもよかったんですよ。契約はそういうものでしたから。そうせずに私が今電話をしているのはあなた方への私なりの慈悲です。分かりますか?」

「……はい」


 スピーカーからは覇気のない校長の肯定が聞こえる。


「あなた方は私の慈悲に応える必要があります。これも分かりますね?」

「はい……」


 肯定の声は先程よりもか細く、今にも消えてしまいそうだ。いっそ、そのまま消えてくれても構わない。


「結構、ではすぐに吊るす作業に取りかかってください。ちなみに、私が『吊るした』と思えなければその時点で終わりです。生半可な行動はやめてくださいね。では、失礼します」

「……」


 校長の返事を確認することもなく、俺は通話を切る。


(これで間違いなく密告者は吊るされる。もし仮にスケープゴートを用意したとしても、それはそれで奴らの足並みは乱れる。どう転んでもこちらにはメリットしか無いわけだ)


 御厨の母に電話番号がバレたのは少々面倒かもしれないが、災い転じて福となす、今回の件はクズどもの結束を掻き乱すのに十分にうまく働いた。


「さて、明日につるされるのはだれかなーっと……」


ピロリン!


「……お? 今度はメールか」


 先程とは違うメールの受信音を響かせたスマホを手に取ると、そのままメールの受信フォルダを開く。


 一番上のメールを確認したその瞬間、俺は思わず言葉を漏らしていた。


「……お買い上げ、ありがとうございまーす。ふふふ……」


 レコーダーが売れたことを知らせるそのメールは、御厨母から俺に向けての敗北宣言に等しかった。

まさかの連投とか、これもうわかんねぇな?


???「おう、3回投稿するんだよ。3回だよ」


というわけでまだまだ頑張って投稿するので、コメントや評価をオナシャス、オナシャス!

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