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青春ミクスチャー ~自殺少女と格闘家~  作者: owlet4242
第二章 高校血風録 ~血みどろ羅刹編~
27/34

戦争と恋愛においてはあらゆる戦術が肯定される【後編】

 加筆してたらいつの間にか全体10万字オーバー。


 ラノベ換算で薄めの一冊分位の分量ですよね。でかした、俺(自己肯定)!


 ブクマして定期的に目を通してくれる方もいてとてもありがたいことです。感謝しかねぇよ………。


 話は虐殺パート【後編】、交渉編です。


 パワーバランス的には交渉というよりは要求になるんですが、まぁそれはそれ。


 青春キメラの交渉術、とくとご覧ください。

「お待たせしました、橘さん。どうぞお入り下さい」


「それでは失礼します」


 声に応えて校長室に入る。


 中に入ると例の教員四人が直立した状態で待ち構えていた。


 ドアを閉めると、全員が手で座るべき席の場所を促してくれる。それに従って俺は指定されたソファーに座る。そこは校長室最奥に置かれたデスクの前。この部屋の中ではデスクを除けば一番上座に当たる席だ。


 ソファーに座る俺の正面には校長が、その両脇を他の教員が固める。配置的に一番下座に座るのは校長という形になった。ここに来て俺たちのパワーバランスは完全に逆転したことになる。


 俺は優越感に満ちた視線を全員に送り、たっぷりと間を取ってから口を開く。


「それでは交渉を始めましょう。長くなりそうですが、お互いにとって実りの多い時間になるといいですね」


 満面の笑みを湛えて発したその言葉に、俺以外の全員の顔が引き釣った。


 無理もない。ここで実りに満ちた収穫の時を迎えるのは俺一人。後の奴らは枯死寸前の枝に成った僅かな果実を、あの手この手で延命治療して収穫するしかないのだ。


(今まで害虫を放置していたツケが回ったんだ。こいつらには精々頑張ってもらうとしよう)


 俺はクズ共に一切の同情をせずに悠然と構え、向こうに行動を促す。


 それを見て校長が慌てて口を開く。


「よろしくお願いします。おい、逗子君、すぐにお茶とお茶請けの用意を!」


「は、はいっ!」


 急に指示を受けた逗子が慌てて立ち上がって校長室から飛び出す。奴は今日は慌ただしく動き回ってばかりだがそれも自業自得というやつだ。


 逗子が戻るのを待たずに俺は早速交渉を始める。


「では始めましょうか。まず、皆さんに認識しておいて欲しいのは、私が先ほど申し上げた各種機関への証拠の提出は、決してはったりではないということです。一部資料はそのコピーの郵送準備が整っていますし、ネット上の音声データは某動画サイトに予約投稿をかけてあります。万が一、私の身に何かある、あるいは交渉が決裂した時点で、この件は全て公になると考えてください」


「………し、承知しました」


 校長は既に息も絶え絶えといった体で返答する。まぁ、現状俺に首根っこを捕まれているのだから当然と言えば当然だ。

 なんなら、俺としてはもっと醜く苦しそうに喘いで、そのまま息絶えてくれても全然構わない。その方がより一層溜飲も下がるというものだ。


「ありがとうございます。では皆さんに認識していただけたところで、早速私の要求から入らせてもらいますね」


 「要求」の言葉に全員が唾を飲み込む。内心、どんなとんでもない要求が来るのか戦々恐々としているはずだ。


 (まぁ、これからぶち込む俺の要求はこいつらにとっては絶対に飲めない要求なので、その態度は間違いじゃないけどな)


「私の要求は、私に危害を加えた、御厨、坂上、丹下、この三名の生徒の放校処分です。加えて、今後の三名との関係の一切を断つために、学校側には三名の家庭から受け取った寄付金の全額返還も要求します」


「そ、それは………!」


「できませんか? 難しい要求ではないと思いますが」


 反論を制して俺が口を挟むと、校長たちは元から蒼白だった顔面をさらに変色させる。その顔色は、まさに死人のそれに近い。


 この要求は学校にとっては死刑宣告に等しいから無理もない話だ。


 この私立青柳高校の設備が充実しているのは、ひとえに《特待生》の家族からの寄付金のお陰だ。寄付金によって学校は設備や優秀な教員の確保に投資して生徒を呼び込み、寄付金を出した生徒には様々な便宜を図る。進学では優先して推薦を持ち込むし、《特待生》に問題があればこれを庇う。そういった御恩と奉公の関係があるのだ。


 しかし、俺の要求を飲めばこの関係は崩壊する。《特待生》の親としては、多額の寄付で我が子の将来を約束してもらったはずなのに、それを途中で契約から破棄されたことになるのだ。


 一度結んだ契約を自己都合で破棄などしたら、その信用は地に落ちる。特に上流階級は横の繋がりが強い。ここで三人を切れば今後、寄付金を払って入学式する《特待生》はいなくなるだろう。それは即ちこの学校のシステムの崩壊を意味していた。


(でも、お前らはこの要求(どく)は飲めないよな。ことが公になれば、それこそお前らは破滅だもんな)


 金銭面などが安価で一定の需要がある公立と違って、高い授業料を払う私立は付加価値で生徒を呼び込まないといけない。そんなところに《特待生》によるいじめの問題が表面化すればどうなるか。間違いなく《一般生》は入学を躊躇い、似た学力で入れる他校に流れる。


 日々の学校の運営を賄うのは多数の《一般生》からの授業料だ。これがごっそり無くなれば、それでもこの学校は終わる。


 要求を飲めば死。


 要求を飲まなくても死。


 どちらに転んでも未来はない。俺が突きつけたのはそんな要求だった。


(精々苦しんで見せろゴミども。それでも橘さんの受けた苦しみからすれば、一分にすら満たないんだからな)


 校長たちは一斉にソファーから立ち上がると、土下座をして床に額をつける。苦し紛れの想定内の行動だ。


 学校側としてはここはどんなに拝み倒してても、例え靴の裏を舐めてでも、俺の要求を取り下げてもらわなければならない。死なないためならそれ以外の何だってするという、人間の醜い部分をまざまざと見せつけられる光景である。


「橘さんの要求はごもっともです。ですが、その要求だけは! 何卒、何卒ご容赦を!」


 顔を上げず、体を縮こまらせたまま、校長が必死の声を上げる。これが通らなければ、そのまま小さくなって消えてしまいそうな気配すら感じさせる、そんな様子だ。


 しかし、俺はそんな校長たちを冷めた目で見つめる。


「先生、頭というものは相手よりも優位か、あるいは対等な内に下げてこそ意味があるんですよ。土壇場の人間がいくら頭を下げても処刑人にとっては首を落としやすくなるだけです。違いますか?」


 俺の言葉に校長たちは無言で震えるだけだ。未曾有の嵐が過ぎ去るのをただ震えて待つだけのこの世で最も脆弱な存在、それが今の校長たちだった。


 しばらく無言でソファーに座り校長たちを見下していると、ノックとともにドアが開き、カップ等を乗せたお盆を持った逗子が校長室に戻ってきた。


 逗子は学校の上層部が全員土下座するという目の前の光景にぎょっとして固まったが、俺が「ありがとうございます。飲み物とお茶請け、こちらに置いていただけますか」と言うと、これ以上はないような速さでそれを置き、それから所在無さげに壁際に立って直立不動の体勢になった。


 それを見届けてからカップに手を伸ばす。中の紅茶にスティックシュガーを三分の一ほど入れてからゆっくりかき混ぜて口をつける。逗子が用意したという点を除けば完璧な紅茶だ。


 俺はたっぷり時間をかけて、二口、三口紅茶を味わう。その間、他の人間は不動。もしここで何か動きを見せるようなら容赦なく殺そうと思っていたが、従順なその態度で多少溜飲が下がった俺は、奴らに赦しを与えることにした。


(最も、ここからの要求が俺にとっては本命なんだけどな)


 カップをゆっくりと受け皿に戻してから俺は次の要求へと移る。


「分かりました。前にも言った通り私は鬼ではありません。そこまで無理だと言うのであれば、別の要求に切り替えましょう」


「………! ああ、橘さん、ありがとうございます!」


「ただし、私の要求を二度断ることが何を意味するか、ここからはよく考えて行動してくださいね。あと、話しづらいのでソファーに座ってもらって大丈夫ですよ」


 安堵の表情で顔を上げた校長たちに、笑顔と言葉で釘を刺す。奴らは再び顔を引き釣らせて席に戻った。


 これで状況は外見上は交渉開始当初の形に戻ったが、精神的には圧倒的に俺が優位に立つことになった。


(今のこいつらなら、こちらの要求はほぼ全て飲むな)


 そう確信して、俺は真の要求を突きつける。


「では、新しい要求です。いくつかあるのでよく聞いてください。一つ目は、私を《特待生》の待遇にしてください。これは寄付金《特待生》と、スポーツ《特待生》のハイブリッドだと思ってください。具体的には、入学金や授業料、その他学校生活における諸経費の一切の免除、内申書への配慮、進学における推薦の最優先確保を求めます。これに伴って、私が今までに学校に納入した金銭はこちらの指定する銀行口座に全額返納を求めます。よろしいですか?」


 俺が真っ先に学校側に要求したのは、俺の特権階級化だった。これは俺自身のためというよりは、橘さんの将来のためを思っての要求だ。


 このまま数年間入れ替わりが続いたら、最悪の場合俺は橘さんの代わりに大学受験をすることになる。


 俺は一応文武両道で通してきたので勉強はそこそこできる方だ。それでも、勉強一筋の人間には及ばないので、よくて秀才の下の方止まりだ。だからもし、橘さんの希望する進学先がいいところの大学だった場合、俺の学力だけでは入試に通らない可能性がある。


 だからこそ《特待生》として優先して推薦を貰うことによって、安全に進学をすることを狙う。さらに、高校の無償化、内申書のブーストによって橘さんの家の経済状況にも配慮する。浮いたお金は大学生活に回せるし、内申書の力で奨学金も借りられる。まさに磐石というわけだ。


 この第一の要求を聞いた校長たちは、一瞬顔を見合わせてからすぐに頷いた。この要求は、学校側への負担はほぼ無いといっていい。《一般生》が元から一人居なかったものと考えれば金銭面の影響もなきに等しい。間違いなく通る要求だ。


「橘さんの要求を受け入れます。明日から橘さんの待遇は《特待生》になります。金銭の返納は一週間以内に行い、完了が確認され次第ご報告します」


 こちらの想定通り、すぐに要求は通った。俺は満足げに一つ頷く。


「ではそのように。内申書に関しては、作成時に私の目の前で内容をを確認させていただきますからそのつもりで」

「も、もちろんです」


 それと同時に、考えうる限り相手がとってくるであろう反撃の芽を摘んでおくことも忘れない。内申書は封をしたもの以外は受付られないので、勝手に作られると奴らがここぞとばかりにこちらをこき下ろした内申書を用意する可能性があった。勝利を磐石にするためにも、細かなところでやつらに付け入る隙を与えないことが肝要だ。


 校長たちがそれも了承したのを確認すると、俺は次の要求に移る。


「それでは、二つ目にいきましょう。二つ目は人事とクラス編成に関して、ですね」


 次に俺が求めるのは、逗子といじめっ子三人の学校内での排除だ。


 校外に放逐はできずとも、校内でこいつらを隔離することはできる。加えて、一人でもクラスに味方を置ければ、もし高校で橘さんと元に戻ることがあっても安心だし、俺自身もやりやすい。


「まず、人事についてですが、三年から逗子先生を私の学年から外すことを求めます。彼はいじめの証拠を握り潰した過去がありますので、私は一切信用しておりません。特に、進路に関わる来年度は、私にノータッチでお願いします」


 そこまで言って俺が逗子を睨み付けると、奴は背後の壁紙と同化しそうなほどに顔を青くした。


 いい気味だ。いっそ、そのまま壁と同化して其処から動かなくなればいい。


 少しでも恐怖を減じようとこちらから視線を反らす逗子を、俺はさらに一睨みしてから視線を校長たちへと戻す。


「そして、クラス編成ではあの三人は私とは全ての授業で接触がないように配慮を、尚且つ三人を一緒のクラスには入れないようにしてください。加えて、私が希望する級友を次の学年でも最低一名は必ず同じクラスにしてください。いいですね?」


 これが第二の要求の全てになる。はっきり言ってこれは第一の要求よりも優しい要求だ。


 実のところ、これは最後に突きつける3つ目を少し厳しいものにするための布石である。するすると要求を通すことで、あちら側の最後の要求に対する抵抗感を無くしていくのが裏の目標だ。


 そして、やはりこの要求は容易いものだったようで、今度は特に打ち合わせることもなく校長が頷いた。


「分かりました。校内の人事や生徒の配置はいくらでも融通が効きます。最大限の配慮をしますので、後で何かあったときは何時でも相談してください」


 完全な筋書き通り。ここまでは全く完璧である。


 だが、ここまでが上手く行っても次の要求が通らなければ画竜点睛を欠く。何事も終わり良ければすべて良し。最後のこいつこそが俺の計画の要諦だ。


 俺は微笑んで頷くと、少し呼吸を置いてからいよいよ最後の要求へ入っていく。


「ええ、それでは何時でも相談者させていただきますね。では、これが最後です。これを飲んでいただけるなら、交渉はそこで終わりです。いいですか?」

「は、はい……」


 できる限りの凄みを利かせた言葉に、校長が不安げに頷いたのを確かめてから、俺は指を三の形に立ててゆっくりと口を開く。


「では、3つ目。万が一、今回の件に関わった者が今後私を害する動きを見せた場合、私はそちら側に一切の相談なく無条件でいじめの事実を公表する。この効力は私が学校を離れてからも失われないものとする。私からは以上です。さあ、返答をお願いします」


 俺が望んだ第三の要求、それは事件当事者への首輪だ。


 はっきり言って、いくらこちらが要求をしたところで奴らに履行の意志がなければ意味がない。奴らは権力者だ。パワープレイを仕掛けられれば、こちらが対処できない可能性は十分にあり得る。


 だから、こちらはやつら全員に首輪をかける必要がある。


 しかし、やつら全員に首輪を着けて、その鎖を握り続けるのは些か面倒だ。だから、俺は首輪同士を鎖で繋げることで、一匹が別の方向に向かえば全員の首が絞まるようにした。


 こうすれば奴らは相互に監視、牽制しあって仲違いを起こすことも考えられる。そうなればこちらはしめたもの。だれか一人でも足を踏み外そうものなら全員が奈落行きのその環境は、奴らにとっての地獄となるだろう。俺はそれを片手団扇で眺めていればいい。


 そして、この要求は中々に面倒になっている。期限を設けていないので、実質奴らは死ぬまでこの要求を意識して生きなければならないし、互いに目を光らせる必要がある。制御できない他人に自分の命綱が握られた状態で一生を過ごすのは、さぞや窮屈なことだろう。


 だが、奴らが橘さんにしたことを思えばこれぐらいの代償は安い。もしこれを飲まないなら、反省の色なしとして、制裁はより苛烈なものになるだろう。


 俺は深くソファーに座り直して泰然自若の姿勢で回答を待つ。こちらのカードは全て切った。あとは奴らの誠意次第ということになる。


 案の定、奴らはかなり当惑した様子を見せる。一生を束縛する要求だ。少し頭が回るなら、これがかなりヤバいものだとすぐに分かる。


 だから俺は戸惑う奴らの背中を、その言葉で優しく後押ししてやる。


「お返事がいただけなければ、最後の要求は拒否したと受け止め、もう一度要求を練り直しますがよろしいですか? もっとも、練り直された要求が今より易しいわけがありませんけどね」

「っ!?」


 元に戻りかけていた奴らの顔色が一瞬で変わる。俺は既に「二度目の要求を拒否したら何が起こるか考えろ」と釘を指してある。何が起こるかはあえて言わなかったが、その分奴らの脳内では最悪の想像が浮かんでは消えているに違いない。


 一瞬の峻順の後に、弾かれたように校長が声を上げる。


「わ、分かりました! 全ての要求を飲みます! ですからどうか、この件の公表だけは………! それだけは………!」


 目の前のテーブルに額を押し付けるようにして頭を下げる校長に他の教員も追従して頭を下げる。それはこの学校の上層部が俺に完全服従した証だった。この瞬間、今後の学園生活で俺たちを脅かすものは、最早無くなった。


 なんなら、この件を出汁に、こちらはいくらでもこいつらから金を吸い上げることだってできる。それは、未来の成功を手に入れたと言っても過言ではないだろう。


 校長達の無様な姿を見て、俺の頬が自然に綻ぶ。確認する術はないが、恐らく今の俺は今日一番いい笑顔をしているに違いない。


 俺はソファーからゆっくり立ち上がると、慈しみの篭った声色で奴らに話しかける。ここでいう慈しみとは もちろん、人間に向けるものではなく飼い犬などのペットに向けるそれである。


「先生方の誠意を見させていただきました。分かりました、私もそれ相応の対応を約束します。頭を上げて下さい」


 この言葉で奴らの顔が一斉に上がり俺の顔を見上げる。その表情はまるで目の前に救いの女神が現れたかのようなものである。


「おお………、ありがとうございます!」


 すがり付くようなその声に俺は優しく応える。


「ええ、安心してください。そちらが契約を守る限りは私も契約を守りましょう」


 そして、最後に俺は制服のポケットからスマホを取り出す。


「今回の会話も全て録音して、インターネットのクラウド上に保管してありますのでお忘れなきよう。このデータを元に、後日書面で正式な契約を交わしましょう。そして、最後に皆さんと連絡先を交換させてください。何かあったときに何時でも相談できるようにしたいので。あ、くれぐれも着信拒否なんかしないで下さいね? それは、私への背信と見なしますから」


 救いの女神を見るようだった奴らの顔は最後の言葉で、悪魔と対面した時の表情に変わった。



◇◇◇



「それでは、あとのことは先生たちから聞いてくださいね。あ、御厨さんのお母さんは、必ず5日以内に壊したボイスレコーダーと同じものを探して弁償してくださいね。あれとても大切なものなので」


「……………」


一方的に終わった校長室での交渉のあと、俺は再び音楽室に戻っていた。


 交渉の流れを教員たちから聞いておくように指示を出すためと、クズ共の吠え面をもう一度見ておきたかったからだった。


 音楽室に入ると、クズ共は特に何をするわけでもなくただ項垂れてそれぞれの席に座ったままだった。どうやら、ここを出る前に言い残した相談するなという言葉を律儀に守っていたらしい。


 意外に素直なクズ共の姿に、俺の溜飲はさらに下がることとなった。


 そうして俺は一方的にクズ共に指示を飛ばすと、教員を残して音楽室を去る。今日はもう授業を受ける雰囲気ではないので早めの下校だ。


 下駄箱で靴を履き替えて悠々と外に出る。


 その足取りは最初はゆっくりしたものだったが、次第に早歩き、駆け足に代わり、学校が見えなくなる頃には全力疾走になった。


 そして、疾走する俺は周囲に人がいないことを確認してから思いっきりジャンプした。


「いやったーー! 俺、大勝利! はっはー! クズ共、ざまあみさらせ! 橘さん、アトロポス、見てくれてたか!」


 両手を天に突き上げ歓喜の咆哮。


(やった。完膚なきまでに叩き潰した。これでもう橘さんの未来を妨げるものはなにもない。ついに、ついに俺はやったんだ!)


 なんという多好感。なんという充足感。今までどんな試合に勝った時よりも大きな歓びで胸が満ちている。


(他人のために自分が役に立つのって、こんなに嬉しいことだったんだな)


 しみじみと俺は思う。考えてみれば俺は今まで自分の人生に必死で、他人のために大きな何かをすることはあまりなかった。


 そして、それがこんなにも心に歓びを与えるものだということも思ってもみなかった。もしもこれから人生にゆとりができたなら、もっと他人のために働くのも悪くないかもしれない。


「まぁ、とりあえず今日は家でゆっくり休むぞー! 戦士にも休息は必要だからなー! はっはっはー!」


 笑いながら駆けていく俺の頬を温かい風が撫でていく。


 それは遅れ馳せながら俺たちに吹いた爽やかな春の風だった。

 クズはゴミ箱へ!


 ということで一件落着!終了!閉廷!


 ではないんだな~これが。


 ここからもう一つの山場です。


 皆さんがもう忘れたかもしれないあの人物も再び登場します。お楽しみに!


 というわけで、この作品の二章で個人的に一番書きたかった部分が終わりました。最後は爽やかな感じでフィニッシュ!いいゾ~これ。


 この一連の三話は、作者的にはかなり力を入れてきた部分です。


 色々と反応があればとても嬉しいので、よろしければ感想・評価・コメント・ブクマなど、どれか一つでもよろしくオナシャス!

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