表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春ミクスチャー ~自殺少女と格闘家~  作者: owlet4242
第一章 青春キメラの誕生
2/34

格闘家は雄叫びを上げる(改修済)

もう一人の主人公の柊人くんのパートだゾ。


男の柊人くんが見られるのはこのパートと次のパートだけ(多分)!

「おらぁ、柊人! 動きが止まってんぞ、手数、手数!」


 セコンドの声が俺の耳に刺さる。


 セコンドの言っていることは正しい。格闘技は相手を倒すまで終わらない。そのためには全力で体を回転させて一発でも多く相手にぶちこまなくてはならない。


 それは俺も理解している。理解はしているのだが、既に3R 0:40という時間を戦ってきた俺の肉体が履行を拒むのだ。


 大会を想定した実戦形式のスパーリングということで、俺も相手も怪我しないレベルで互いに全力でぶん回している。とくに2Rの中盤以降に相手のタックルからの寝技の応酬でごっそりと体力を削られた。そのせいで今の俺は油断したら口から心臓を吐きそうなほど消耗している。軽率な動きはそれだけで命取りだ。


「柊人、リードブローもっと出せ! ペース握れ!」


 そんな思考の最中にもセコンドの声は続く。「分かってる!」と怒鳴り返したいが、そんなことをすればガチのマジに心臓を吐く。


 仕方なく、指示通りリードブローを放つがスタミナが続かず散発的に終わる。しかし、相手もじり貧なようでカウンターは飛ばない。それでも依然状況はこっちに不利だ。


 俺はどちらかといえば打撃蹴撃の立ち技がメインで、レスリングやサブミッションは相手のステージだ。さっき言ったように2Rで寝技の応酬に持ち込まれたせいで間違いなくポイントは相手の方が取っている。


 ここから挽回するには、セコンドの言う通り攻めに攻めて有効打を浴びせるしかない。そうして一つでもダウンが取れれば御の字だ。


 だが、俺の体は限界寸前でもうそんなに攻められない。加えて相手はこちらの攻めに応じないのでスキもできない。


 正直な話、これは大会ではなくただのスパーリングだ。勝とうが負けようが俺のキャリアに影響しない。だからわざわざ苦しい思いをして攻め続ける必要はどこにもない。


 だがーーー


 ーーーやっぱり男の子なんだから負けたくないよな、俺。


 冷静な思考とは裏腹に心が敗北を拒否する。妥協は俺にとって死に等しい。格闘家にとって心の強さは肉体の強さに等しい。心が折れれば肉体も死ぬのだ。


 考えろ俺。スキのない相手にスキをつくるにはどうする?頭を回せ、止まれば死ぬぞ。


 ポイントは相手優勢。


 2Rのタックル。


 攻めてスキは作れない。


 こちらは立ち技、相手は寝技。

 

 消耗は互角。


 短期決戦。


 短い思考が閃光のように頭を駆け巡る。戦いのなかで扱える情報は少ない。だから少ない情報を繋いでそこに勝ち筋を見いだす。


 そして。


 よし、繋がった!


 短い思考が一筋につながり、勝利への筋道を描く。


 試合時間は残り1:00強。


 策がはまれば俺の勝ち。


 はまらなければ相手の勝ち。


 コイントス並みにシンプルなギャンブル。


 ここで仕掛ける。


 ぞくぞくする。


 最高だ。


 精神の昂りが疲労困憊の肉体を励起(れいき)させる。さぁ、俺よ。最後の輝きを放て。


 そして、俺はついに行動を開始した。




「しゃぁっ!」


 空気を裂くような叫びを上げて俺はリードブローを放つ。


 1、2、3。立て続けに放つ。


 そしてリードブローを放ちながら俺は徐々に腕のガードを上げていく。


 ボクシングなどでは頭部への致命的一撃を防ぐためガードは高い方が望ましい。しかし、蹴りや寝技がありの総合格闘技では高いガードはローキック、タックルなど下への攻撃を誘発する原因になる。


 特に、今回のように寝技の上手い相手にとってはこのガードは格好のスキだ。引き倒してしまえば、後は自分のフィールドで消化試合に持ち込める。


 残り少ないスタミナ。


 最後の攻撃に転じた対戦相手。


 その相手から目の前に差し出された自分の勝ち筋。


 とってつけたように現れたそれに、戦いで疲れた相手は脇目もふらずにすがり付く。


 それが、死神との契約とも知らずに。


 度重なるリードブローの繰り返しで、俺のガードは完璧に上がった。意図的に頭部を狙ってこちらの意識が上に向いていると相手への刷り込みも終わった。相手から見れば俺の下半身はがら空きだ。寝技使いの目にはたいそう魅力的に映るだろう。俺はそのまま時が来るのを待ち構える。


 さぁ、こいよ………!


 果たして、その瞬間は数秒後に訪れた。


 対峙していた相手の姿が、俺の視界から消えてなくなる。


 もちろん神隠しなんかではない。相手が上体を屈めたのだ。


 何のために?


 決まっている。


 がら空きの俺の下半身にタックルを仕掛けるためだ。


 タックルで組み付くために腕が開き、硬かった相手の顔面へのガードが開く。


 待ちわびた一瞬。


 歓喜の瞬間。


 確かにお前は強いよ。でも今回は俺が上だ。


「……しゃらぁっ!」


 気合一閃。


 絶好のタイミングで放たれた渾身の蹴りは、寸分の狂いもなく相手の顔面に吸い込まれる。硬いような、柔らかいような変な感触と確かな手応え。それを足の甲に感じながら俺は足を振り抜く。


 そして振り抜いた足に少し遅れて、相手の体がリングに沈む。重いものが倒れる鈍い音が室内に響く。


 この瞬間、今日の勝者と敗者が決まった。


「っしゃあぁぁぁ!」


 俺は雄叫びを上げて拳を天に突き上げるとそのまま仰向けにリングの上に崩れ落ちた。




作者は刃牙が好き。はっきりわかんだね。


よろしければ感想とコメントオナシャス、オナシャス!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ