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青春ミクスチャー ~自殺少女と格闘家~  作者: owlet4242
第二章 高校血風録 ~血みどろ羅刹編~
18/34

トイレで致すときは一人穏やかで心静かでなくてはならない(編集済)

便所から話が始まるなんて、たまげたなぁ(驚愕)

「うう~、トイレトイレ………」


 3時間目の休み時間、三人衆との会話を早々に切り上げた俺は、一人でトイレに向かっていた。


 女子というものは訳もなく連れ立ってトイレに向かうものだが、流石の俺もそこまでは女子ムーブを再現できない。


(というか、橘さんの体でトイレに入るだけでメンタルいっぱいいっぱいなのに他の女子も周りにいるとかほんと無理よ、マジで)


 道路を越える渡り廊下を通って特別教室の揃う校舎別棟へ向かう。別棟3Fの資料準備室脇にある人気の無いトイレが、この学校で唯一の俺の安住の地だ。ここは別棟の中でもとりわけ人通りが少ない場所なので、一人でゆっくりと致すことができる。


(………何を致すって?言わせるなよ恥ずかしい)


俺は一番奥の個室を選んで入るとスカートとパンツを下ろして便座に座る。そのまま、事を致している最中、俺は今後の方針について考えていた。


三人衆と友人関係を作ったこと。これはメリットもあったが、実はデメリットもあった。


 それは、いじめっ子達が表立って俺を攻撃してこなくなるということだ。


 当初の俺たちの作戦では、俺は衆人環視の中でいじめっ子の攻撃を誘い、言い逃れのできない状況で反撃を仕掛けるはずだった。


 しかし、今は俺のバックには三人衆がいる。所属カーストの違う三人が背後にいる俺に、表立って攻撃をするのはやっぱり気が引けるらしく、ここ最近のいじめらしい行為は、横を通るときわざと体をぶつけるとか、俺にだけ聞こえるように暴言を吐く程度に留まっている。


 それに加えて、どうやら三人衆も俺といじめっ子達の仲が険悪なことに薄々だが気づき始めたらしく、学校生活で俺をカバーするような動きをとってくれるようになったことも大きい。


 特に(あきら)さんなどは「あいつらがなんかしてきたら、その時は私に迷わず言いな?」と、こそっと俺に告げてくれるなど、やつらとの対決姿勢を明確にしている。


(三人衆の心遣いはありがたいんだがなぁ。この状態が続くなら作戦の軌道修正も視野に入れないとな)


 どちらかを立てれば、どちらかが倒れる。謀とは中々にままならないものである。


 そんなことを頭の中でぼんやりと考えていたそのとき。


タッ、タッ、タッ…………


「…………ん!」


 複数人の足音が聞こえると、すぐにトイレの中に人が入る気配がして、それを確認して俺はトイレの流水音を出すスイッチを押した。


 俺は別に致す音は気にしないが、橘さんがデリカシーのない乙女だと思われるのは癪なので周りに人がいるときは必ず音を鳴らすように心がけている。できる男はそういった気配りを忘れないことが大切だ。


 女子トイレに入るのは、異常性癖の持ち主と俺以外は無論女子生徒なので、間違いなく個室に入るはずだ。


 この珍しい来客も俺の隣の個室に入るのだろうと考えていたのだが、いつまで経っても一向に入る気配がない。


 不審に思い、俺がいつも致すときの姿勢であるロダンの考える人のポーズから顔を上げた、次の瞬間。


ざばぁっ!


「わぷぁっ!?」


 個室の天井の隙間から、俺に向かって水の塊が落ちてきた。


 びしょ濡れになって呆然とする俺の耳に、聞き慣れた嗤い声が響く。


(………御厨(みくりや) 冬子(とうこ)。)


 御厨とその取り巻きの二人はひとしきり大声を出して嗤ったあと、口々に俺を罵った。


「橘さん、あなたのアレがそんなに臭いからって、こんなところまで来る必要はないでしょう」

「それでも臭いから水で流してあげたんだ。感謝しなよ」

「バカ三人に上手いこと取り入ったみたいだけど、あんまり調子に乗んなよ、お前は結局私たちの下なんだからな」


 言いたい放題にいったあと、いじめっ子達はトイレを後にした。残されたのは濡れ鼠になった俺一人。


「………なるほどね。」


 クズ共から水をかけられた俺は、しかし、これ以上は無いぐらいに落ち着いていた。


 水で頭が冷えたこともあるが、それ以上にクズ共の迂闊な行為で俺の勝ち筋が見えたことが何よりも大きい。


 どうやらクズ共は、三人衆が見ていないところなら気が大きくなって行動が大胆になるらしい。これを利用しない手はない。


「ふふふ………ありがとう。お前達の軽率な行動、自分の墓穴を掘ったぞ?」


 そう呟いた俺の耳に、授業開始のベルが聞こえる。


 俺はスカートとパンツを履くと、濡れたままの姿で颯爽とトイレを後にした。



◇◇◇



「すみません! トイレに行っていて遅れました!」


 濡れたままの姿で教室に戻った俺は、遅刻したことを授業中の教師に詫びた。


「おー、橘。休み時間のトイレは早めに……って、ええ!? た、橘、その格好は何事!? え、一人海開きなの? 着衣水泳なの?」

 

 板書をしていた若い男性の国語教師は、最初はこっちを見ていなくてさらっとスルーしかけたが、振り返って俺の姿を確認した瞬間、あからさまに狼狽えた。


「いえいえ、ちょっと手洗い場で顔を洗おうと蛇口を上に向けましたら、水が思ったより勢いよく噴射しまして。焦って止めようとしたら逆に開けちゃってこの有り様ですよ」

「えぇー………、そんなコントみたいなことある? って、実際そうなってるんだよなぁ。というか、橘さん、その格好はまずいよ! 早く着替えて! というか隠して、隠して!」

「えっ?」


 そうして目元を手で押さえて顔を背ける先生の、最後の言葉の意味がなんのことかよく分からなくて、俺が頭を掻いていると教室の後ろから審さんの声が飛ぶ。


「たっちー! ブラウス透けてる、透けてる! 前隠して、前!」

「えっ、………うわっ!?」


 慌てて体を確認すると、多量の水を浴びたブラウスはぴったり体に張り付いて、その下に隠れていたパステルカラーの下着をすっかり露にしてしまっていた。


 焦った俺は先生の肩を掴んで前後に揺すった。


「せ、先生! これはまずいです! どうしたらいいですかね!?」

「ぎゃー! まずいのは俺! 俺だから! 逮捕されちゃう! 不貞教師のレッテル貼られちゃうから!?」

「たっち、保健室だ! 保健室には予備の体操服があるから!」


 パニクって頼りにならない先生の代わりに、審さんから的確な指示が飛ぶ。


「なるほど! ありがと、審さん! 先生、保健室に行ってきますがよろしいですか!」

「うん、すぐに行って! 俺が職を辞することになる前に早く!」


 それに従い、先生の許可を得ると、俺はすぐに教室を駆け出した。


(………おのれクズ共。貴様らのせいで橘さんの下着を衆目に晒すことになるとは。この恨み晴らさでおくべきか)


 下着を晒すことになったのは十割俺の不注意だったが、それは棚に上げて、全ての原因になったいじめっ子たちへの憎しみを募らせつつ、保健室に走る俺なのだった。



次は作戦パート。


決行パートはその次か次になります。



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